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- 2012/07/26 掲載
食品小売業のIT活用戦略:ネットに勝つリアル店舗とは?その場で価格比較する「ショールーミング」も拡大
流通経済研究所 加藤弘之氏インタビュー
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食品小売業にも押し寄せる社会構造の変化
一般的に食品小売業とは、食事用の「素材」を販売する業態を指し、食品専門店に加えて食品スーパーとGMSの食品部門が相当します。GMSでは衣料や家電なども取り扱っていますが、食品フロアについては食品スーパーとまったく同じ機能を提供しているので、食品スーパーと同じ区分で考えられます。
ただし今は調理済みの「総菜」や、千切りしたキャベツなど下ごしらえの終わった「半調理品」なども販売されており、こうした商材を提供している業態までを含めると、百貨店やコンビニエンスストアも食品小売業の範ちゅうに入ってくるでしょう。
またドラッグストアやホームセンターでも缶詰や牛乳などを売るお店が出てきていますし、さらに最近では有機野菜の会員制宅配サービスを手がける「らでぃっしゅぼーや」といった通販サイトも伸びています。アマゾンも生鮮野菜を含む食品を取り扱い始めました。今後、業態間の垣根はどんどん低くなっていくと思います。
──食品小売業にそうした流れが出てきた背景には、どんな事情があるのでしょうか。
大きく分けて2つの変化があると思います。1つが社会構造の変化、もう1つがIT利用シーンの拡大です。
社会構造の変化については、周知のように少子高齢化が進み、生産年齢人口が減っています。加えて長引くデフレ、今後の消費税率の引き上げという経済事情もあります。消費を旺盛にする人口が減少し、所得上昇要因が不透明な現状では、消費者の財布の紐は当然堅くなります。デフレ傾向もしばらくは続くでしょう。その一方で所得税は上がっていく。
そんな状況で、食品小売業側はこの先、増税分のコストをすべて消費者に負担してもらうわけにはいきません。何らかの形で「コスト増を吸収するための取り組みを行う」か、あるいは「価格以外の付加価値を提供することで新しい需要を掴む」か、という方向に向かわざるを得ません。
また近年では、女性の就労が当たり前になり、高齢者も旅行や趣味など自分の好きなことに時間を割くという傾向が強くなってきています。つまり「家庭で食事を作る人の時間が減少する」という流れが加速している。
こうしたトレンドは米国で先行しており、2008年頃からシニア層の引退や働く女性の時間の使い方の変化が指摘されてきました。その時に食品小売業は、シニア層や働く女性のポジティブな時間の使い方の中で、食卓に新しい彩りを与えるという付加価値提供の方向に動いていました。
そこにリーマンショックが来て、消費者は外食志向から、従来の内食志向へと回帰しました。とはいえ豊かな内食にしたいという思いはある。そこで、それまでも他の食品小売業との差別化対策として進められてきた「新たな付加価値の提供」の方向に本腰を入れ始めました。こうした動きは日本にも当てはまります。
食品小売の現場でも価格比較サイトの活用が拡大
その後、2011年から2012年にかけて、この流れに大きな影響を与えたのが、2つめに挙げたIT利用シーンの拡大です。欧米では価格比較サイトの登場によって、消費者は自宅にいながらにして、店舗間の商品価格差を簡単にチェックできる仕組みが整いつつあります。それによって、いわば外食対内食という構図だったものが、内食同士の戦いになりつつあります。
見方を変えれば、食材は近くのスーパーで買うものと決め込んでいた消費者が、ITの活用によって商品価格の比較が容易になり、極端な話、ネットスーパーも含めて商品ごとに買うお店を選別することができる、という時代が近づいているということです。
社会構造の変化が消費者の食に対する意識を変え、さらにIT活用の進展が消費者の選別眼を“先鋭化”させた。それが今の食品小売業に、価格以外の価値創出を求めている、というのが現在の大きな流れだといえるでしょう。
ちなみに「消費税増税分のコストをどうカットしていくか」というアプローチも、今後の食品小売業にとっては大きな課題ですが、参考までに欧州では消費税率が約20%(食品は軽減税率で10%前後)と、今の日本よりもかなり高い水準です。
やはりそのすべてを消費者に転嫁するわけにはいかず、コストカットが始まったものの、流通業全体で負担分を分散していく中で着いていくことのできなかった小規模の食品小売業者がどんどん潰れていき、最終的には大きな事業者だけが残った、という実情がどうもあったようです。
【次ページ】ネットに勝つリアル店舗とは?
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