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物価が上昇し続ける中、“価格”が小売店の勝敗を左右する重要な要素となりつつある。現在、物価上昇により業績を落とす企業が続出する中、低価格帯の商品を扱う食品小売が業績を伸ばしているのだ。その一方で、価格競争を続けるには体力のない中小食品スーパーがいま、“ある存在”にシェアを奪われ始めている。
物価上昇でも「業績好調の3社」とは
国内最大規模のPB商品群を抱えているイオンの「トップバリュ」は、物価が上昇する中でも、ほとんどの商品の価格を据え置きとしたことでその売上を着実に伸ばしている(イオンの営業収益伸び率プラス1.4%に対して、トップバリュはプラス6.2%)(図表1)。
これまでもイオンは、トップバリュの販売比率を高めることを目指してきたが、国内のナショナルブランド(NB)信仰は強く、思うほどには浸透していなかった。現在のような価格の環境変化は、ある意味、トップバリュにとっての追い風となった。
イオンはこの機に、価格訴求をキッカケとしてトップバリュの価値訴求のチャンスと考えているだろう。今後、消費者のジャッジがどう出るのかが注目される。
PBでそのコストパフォーマンスを訴求している企業と言えば、今や神戸物産の業務スーパーも欠かせない存在であろう。業務スーパーは、通常は業務用食品として安く提供されている商品を、一般消費者に向けても広く販売している。そのため、PBディスカウントスーパーとして位置付けにあり、多くの消費者から支持を集めている。
2022年10月期の決算では売上高4,068億円(前年比プラス12.3%売上増)、経常利益321億円と業界内での存在感も大きくなった。業務スーパーのコスパについては、値上げラッシュの前から、さまざまな場面で話題となっていたのだが、物価上昇が顕著になった2022年後半期から特にその増収振りが拡大している(図表2)。
そんな同社は、食品SPA(製造小売業)として、自社グループ内に生産者や製造工場を保有し商品を製造することで低価格を実現している。
そのほか、PB中心の食品スーパーと言えば、ローカル展開であるため、都市部での知名度はないが、大黒天物産もこの値上げ環境で、業績を伸ばしている企業だ。同社は、2022年5月期で売上高2,241億円(対前年比プラス1.1%)、経常利益89億円、岡山県から出て中四国、近畿、中部へと店舗網を拡大、M&Aにより九州にも進出している。
この会社の運営するラ・ムー業態は絞り込んだPBを大量販売することで安さを実現するというタイプであり、激安食品PBを買うことができるため、支出絶対額を抑えたい消費者には強い味方である。
大黒天物産の月次売上、客数(全店ベース)の推移を見ると、2022年後半期から客数の増加に牽引された売上の増加という傾向が見てとれる。低価格PBへの消費者の支持は、大黒天の動向から見て顕著にわかるだろう(図表3)。
“価格競争”はそろそろ限界?食品スーパーの本音
こうした状況を見ると、消費者の財布は確実に締まりつつあり、低価格指向を強めていることが見て取れる。
しかし、食品のサプライチェーンにある企業はみな、原材料、エネルギーなどの価格上昇に対して、十分な価格転嫁が出来てはいない。これからも数回にわたって値上げを実施しなければ、収益を削ることになってしまう状況なのだ。
特に消費者と直接向き合っている食品スーパーの中でも、仕入交渉力のあまりない中小食品スーパーなどは、すでに「巣ごもり需要反動落ち」「不十分な価格転嫁」「冷凍冷蔵設備にかかる電気代の高騰」などによってその収益を失い、赤字化している企業も少なくないという。この状況で競争激化が進めば、財務基盤の弱い企業では経営が維持できなくなる可能性がある。
このような中、今後、食品スーパー業界の競争環境に大きな影響を与えるかもしれない強敵が存在する。すでに、一部の食品スーパーからシェアを奪いつつあるその正体とは。
【次ページ】中小食品スーパーを消滅に追い込む「強敵」とは
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