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少子高齢化や若者のアルコール離れが叫ばれ、ビール市場の衰退には歯止めがかからぬ中、現在も成長を遂げているのが「ノンアルコールビール(以下、ノンアルビール)市場」だ。かつてはビールの代替品でしかなかったノンアルビールだが、登場してから数々の進化を遂げ、今ではアルコールを楽しむ消費者以外にも広がりつつある。そんな“成長市場”では、これまでキリン、サントリー、アサヒの激闘が繰り広げられてきた。そして今、ノンアルビール市場の王者に立つのはどの企業なのか。勝敗を分けるポイントは何か。
ノンアルビールの苦難の時代
ここ数年、少子高齢化や若者のアルコール離れもあり、アルコール市場全体は縮小傾向にある。中でも、チューハイやビールに類似する低価格の酒類(新ジャンル)の登場などもあり、年々ビール人気は減少傾向にある。
その一方で、右肩上がりに成長を遂げているのが、ノンアルビール市場である。
成長期待が高く注目のノンアルビールだが、当初のウケはイマイチであった。日本の酒税法において、「アルコール分が1度未満の飲料」はノンアルビールの“炭酸飲料”と分類されるが、微量のアルコールがある以上、体質・体調によってはアルコールを感じてしまう。飲酒運転になる可能性もゼロではなく、極めてグレーな存在であり、厳密には“ノンアルコール”ではなかったのである。
さらに、消費者からは味に対する不満も多く、「ビールではない」とまで言われる始末であった。
つまり旧来のノンアルビールは、“ノンアルコール”と言いながらアルコールが含まれ、“ビール”と言いながら味はビールとかけ離れる、といった致命的な「不」を抱えていたのである。その結果、ノンアルビール市場は、登場してから数年間、低迷を続けていたのである。
市場開拓に成功した初代王者キリンの戦略
こうした市場に溢れる“グレーさ”は2007年、ターニングポイントを迎える。飲酒運転による交通事故をきっかけに、道路交通法が改正され、飲酒運転への厳罰化が施行されたのである。
それまで、ビールメーカーがノンアルビールに積極的でなかった要因の1つに、ビール市場へのカニバリ(共食い)が指摘されている。つまり、ノンアルビールが売れると、ビールが売れなくなることを恐れたがゆえに、大きな投資をかけてこなかったのだ。
しかし、法改正が進めば、“グレーさ”はより“黒”に近づき、攻めるか、守るか、意思決定が求められる。
こうした状況を機会ととらえたのがキリンであった。本丸のビールでは、1998年にアサヒスーパードライに首位を奪われ、その後、その差は埋めがたいところにまで広がっていた。さらに、2001年には「新キリン宣言」にてアサヒへの敗北を認め、チャレンジャーとしての立ち位置を設定し、「お客様本位」、「品質本位」の追求を社内に宣言していた。こうした危機意識がカニバリを恐れるビールメーカーの中で唯一、リスクを取る行動への後押しとなったと言える。
2009年4月には世界初となるアルコール0.00%の「キリンフリー」を発売し、味・アルコール度で「不」を抱える旧来のノンアルビールからのリプレイスに成功した。さらにアルコール度・味に関する「不」で押さえつけられていた潜在ニーズはキリンフリーにより解放され、市場は一気に拡大をはじめた。ここにノンアルビール市場は開花期を迎えるのである。
キリンフリーが切り開いたノンアルビール市場を前に、大手ビールメーカー各社はすぐに対抗策を講じた。「キリンフリー」の販売から半年もしない2009年9月に、サントリーは「ファインゼロ」を、アサヒは「ポイントゼロ」を発売したものの、キリンフリーの牙城を崩すには至らなかった。
しかしその後、「キリンフリー」は、サントリーに追い抜かれることになる。なぜ、サントリーはキリンを追い抜くことができたのだろうか。ここからは、サントリーのマーケティングを駆使した華麗な逆転劇を解説する。
【次ページ】サントリーの華麗な逆転劇、驚異のマーケティング戦略
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