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  • 2022/07/05 掲載

「すかいらーくHD」と「ロイヤルHD」の経営戦略を徹底比較、最強ファミレスはどこ?

【連載】成功企業の「ビジネス針路」

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コロナ禍が終息に向かいつつある中、外食産業は息を吹き返しつつある。そもそも業態寿命は5~10年とも言われる厳しい業界で、勝ち残るビジネスモデルの強さを持った企業はどこか。今回は、ファミレス業界上位を走る、ガストやバーミヤンなどを擁する「すかいらーくホールディングス(HD)」と、ロイヤルホストや天丼てんやなどを擁する「ロイヤルホールディング(HD)」を「出店拡大・商品の差別化」「ファミレスの新ブランド開発」「業務効率化」「ファミレス以外の事業展開」「海外展開」の軸で徹底比較する。

執筆:経営コンサルタント 清水大地

執筆:経営コンサルタント 清水大地

MIRARGO Director
野村総合研究所、アクセンチュアなど、14年以上に及ぶコンサルティングと実行・執行支援の経験を基に、現在はスタートアップの経営支援を中心に、日本社会の更なる飛躍を目指している。共著に「時間消費で勝つ」(日本経済新聞社)、「経営コンサルタントが読み解く 流通業の「決算書」」(商業界)など

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ガストを擁するすかいらーくHDとロイヤルホストを擁するロイヤルHD、ファミレス業界上位2社の経営戦略を徹底比較する
(写真:アフロ)

ロイヤルホストの起源

 家族連れの誰もが一度はお世話になったことがある“ファミリーレストラン”(以後、ファミレス)。諸説あるが、その起源は戦前にまでさかのぼる。

 明治維新以降、日本にも洋食文化が浸透しつつあったが、高級品であった洋食レストランはまだまだ庶民にとっては敷居が高かい存在であった。こうした中、当時、“ハレの日需要”の担い手となっていた百貨店は、利用客の家族団らんの時間をより充実させるべくレストランの展開をはじめる。そこでは子供向けのメニュー開発にも着手し(=お子様ランチ)、サービス強化につなげていったのである。こうした背景から、百貨店には「レストラン事業」を設けるところが多かった。

 その後、戦後の高度成長期の躍進を受け、人々の食への欲求は高まりを見せる。こうした中、1953年に「ロイヤル(現・ロイヤルホールディングス。以下、ロイヤルホスト)は、レストラン「ロイヤル中洲本店」を開業し、翌1954年にはマリリン・モンロー、ジョー・ディマジオ夫妻が来店し、話題を呼んだ。

 1956年には「飲食業界を産業にする」という経営理念が制定され、その志は1970年の大阪万国博覧会にて開花する。万博への出店、そしてそこでの成功に手ごたえを感じた江頭匡一氏(当時・ロイヤル社長)は、1971年に北九州・黒崎にて「ロイヤルホスト」一号店を展開し、ロイヤルホストの歴史が始まるのである(ちなみに、大阪万博にはケンタッキーフライドチキンなども展示され、海外の食文化が日本に展開されるターニングポイントとなったと言われている)。

すかいらーくの起源

 時を同じくして、場所は東京。1962年に創設されたスーパー「ことぶき食品」を展開していた横川兄弟は、地元に食品スーパー西友が出店してきた脅威から、他業態への展開を模索し始めた。改めて世の中の“不”を見つめ直すと、「日本における外食産業のレベルの低さ」が目に留まったという。そこで、米国視察を参加したところ、目の当たりにしたのは進展するモータリゼーションとコーヒーショップ業態(ビッグボーイやデニーズを視察)の可能性であった。

 帰国後、日本においてもモータリゼーションの高まりが予想されることから、ファミリー層をターゲットとした庶民型レストランを構想し、1970年に東京・府中市に「スカイラーク」一号店を開設する(その後「すかいらーく」に改定。以下、すかいらーくと記す)。この第一歩が、日本におけるファミレスのはじまり、と定義する流れも多い。

 こうした日本各地の動きは、大手流通業を動かすきっかけにもなった。1973年、イトーヨーカ堂の伊藤雅俊氏(当時社長、現・セブン&アイホール・ディングス名誉会長)と鈴木敏文氏(現・同社名誉顧問)が米国視察を得て、日本に連れてきたのが「デニーズ」であった。米国本社とのライセンス契約を経て、デニーズは1974年に一号店を展開し、ここに“ファミレス御三家”が出そろうのである。

 このムーブメントは全国的に伝播し、ファミレスを展開する企業は増え、市場規模は拡大していった(図表1)。こうしてファミレス戦国時代に突入していったのだ。

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図表1:食堂・レストラン市場の推移
(出典:日本フードサービス協会より筆者作成)

ファミレス業界の成長を支えた「2つの要素」

 それまで庶民のあこがれであった洋食。これをファミレスは大量の料理の提供に特化したセントラルキッチンによって品質維持と効率化の両立、そして多店舗展開による規模化により高い「コスパ」を実現させることに成功した。こうして、洋食は庶民にとって“手の届く贅沢”へと変化していくのである。

 また、総合的なメニュー構成により、家族(特に子供)の満足度を高めることに成功し、「ファミレスに行っておけば、失敗しないだろう」という「安心感」を提供できたのである。こうして日本においても洋食は“あこがれ”から、“当たり前”へと変わっていった。

 その後、ファミレスが提供してきた安心感は徐々に「飽き」へと変わっていく。一般に、飲食業界の業態寿命は5~10年とも言われており、ファミレスもその壁に直面することとなったのである。

 こうした庶民の飽きに対応すべく、1980年代から多様な業態開発が進むこととなった。業界をリードしていたすかいらーくは、中華料理「バーミヤン」、和食「藍屋」「夢庵」などを展開し、ファミレス業界では専門店化の流れが生まれていく。

 さらに1990年代になると日本経済はバブル崩壊を迎え、消費低迷時代に突入する。こうした変化に対し、すかいらーくは低価格業界「ガスト」の開発により対応する。元々、高級レストランとファストフードの中間的な位置付けであったファミレスが、よりカジュアル化することにより、コンビニやファストフードなどとの業態間競争に巻き込まれることとなっていくのである(図表2)。

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図表2:業態間競争のイメージ
(出典:筆者作成)

大手2社の経営戦略の違いはどこにでるか

 ここからは大手2社に着目し、群雄割拠を生き残るべく進めてきた「既存事業の深化」の取り組みと、少子高齢化に伴うファミリー層の減少や食の多様化などにより厳しい状況に置かれるファミレス業界が、逆風に立ち向かうために実践する「新規取り組みの探索」の軸で比較していきたい(図表3)。

 「既存事業の深化」におけるポイントの1つ目は、「ビジネスモデルの深化」である。コアとなる既存事業をいかに差別化し、拡大していくのか。そのモデルを磨き上げる過程を追ってみたい。

 2つ目は「ファミレスのブランド開発」である。前述のとおり、消費者の飽きに対応すべく新ブランドの開発は、会社全体の鮮度を保つ上で重要なテーマと言える。

 3つ目は、コスパを磨くための「効率化」の取り組みである。セントラルキッチンに始まるこの取り組みは、店舗運営の効率化(今風に言えば、DX化)の後押しを進めている。

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図表3:ファミレス業界が取り組む「既存事業の深化」と「新規取り組みの探索」
(出典:筆者作成)

 一方、「新規取り組みの探索」における1つ目のポイントは、「ファミレス以外の事業展開」である。ファミレスで培った強み・アセットを武器に、新たな収益源を模索する動きである。両社、自前での取り組みだけでなく、M&Aや提携を活用した戦略的な動きが散見される。

 続いては、「海外展開」である。日本で培ったノウハウを活用し、海外に展開する流れである。元々、先行する米国を参考に生み出されたファミレス業態ゆえに、どこへ、どの業態を展開していくのかが、大きな論点となる。

【次ページ】ファミレス業界大手のすかいらーくHDとロイヤルHDの経営戦略を徹底比較

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すかいらーくHDとロイヤルHDの取り組みの違いとは?(次のページで詳しく解説します)

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