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  • 2022/05/31 掲載

「魚民」のモンテローザ vs 「ミライザカ」のワタミ、居酒屋業界大手の戦略を徹底比較

【連載】成功企業の「ビジネス針路」

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若者のアルコール離れや新型コロナの影響などにより、ここ数年苦戦を強いられる居酒屋業界。各社は危機を脱するために既存事業を磨きつつ、次なる成長に向け新たな取り組みを進めている。今回は、そうした居酒屋業界において上位の「モンテローザ」と「ワタミ」の経営戦略を「居酒屋ブランドの開発」「商品力強化」「業務効率化」「居酒屋以外の事業展開」「海外展開」の軸で徹底比較する。
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「魚民」のモンテローザと「和民」のワタミ、居酒屋業界上位の2社の戦略を徹底比較する
(写真:アフロ)

居酒屋チェーン「モンテローザ」「ワタミ」の台頭

 ビジネスパーソンのオアシスとして、いつの時代も彼ら/彼女らを支えてきた“居酒屋”。その起源は江戸時代にさかのぼり、酒屋の角打ち(かくうち、酒屋の一角で酒を飲むこと)にある。「酒屋に居ながらにして、酒を飲む」。ここから居酒屋の歴史は始まったと言える。

 居酒屋の定義とは、主として「酒と食事」を提供することにあり、この領域を支えてきたのは、個人経営による「個店」であった。その後、居酒屋業界に2つの「波」が巻き起こる。

 1946年、川魚の露天商・行商だった根本忠雄は、浅草に「鮒忠(ふなちゅう)」を創業した。そこで川魚が取れない冬場をつなぐために焼き鳥を販売したところ、これが大当たり。その成功を踏まえ、1968年には日本初となるフランチャイズチェーン(FC)構想を発表し、ここから「総合居酒屋チェーン」(以後、居酒屋チェーン)の台頭が始まる。

 鮒忠に続く形で、「養老乃瀧」、「村さ来」、「つぼ八」など、さまざまな酒屋チェーンがFC展開を進めていった。FCを軸とした多店舗展開による「規模化」を実現させ、居酒屋チェーンは一世を風靡することとなる(この3社を“総合居酒屋の旧御三家”と呼ぶことも多い)。

 1990年代のバブル崩壊を経て、景気低迷により居酒屋チェーンは冬の時代を迎える。そして、この時代を支えていったのは、FC展開を先駆けた“先代”に学んだニュージェネレーションであった。それが、1975年に大神輝博氏が立ち上げたモンテローザ、1982年に渡邊美樹氏が立上げたワタミなどだ。

 これらの居酒屋チェーンは、セントラルキッチンの活用により、商品品質の維持・向上と経営効率化の両立を実現させつつ、店舗運営もFCではなく直営店にこだわり、高い品質担保を目指した。

 このように、ニュージェネレーションが規模化による多店舗展開だけでなく、「品質」にもこだわった結果、居酒屋チェーンはさらなる飛躍を見せるのである(これら2社と「コロワイド」を合わせて“総合居酒屋の新御三家”と呼んだりもする)。

 こうした2つの「波」により、現在、居酒屋業界は店舗数約9万を超えるまでに拡大していき、その中でも居酒屋チェーンは売上規模で約60%を占めるまでに成長していったのである。そこから現在に至るまで、居酒屋業界の市場規模は横ばいとなっている(図表1)。

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図表1:居酒屋市場の推移とは?
(出典:日本フードサービス協会より筆者作成)

チェーン居酒屋業態の発展を支えた「2大要素」

 チェーン店が台頭するまで、居酒屋の大半を占めていた個店では、品質・価格面での当たり外れが大きかった。そして、消費者がこうした個店の品質・価格面に関する情報を収集する方法は少なく、新しいお店を開拓するには勇気を必要とした。

 また、行きつけの店を決めてそこへ通うにしても、美味しい料理を求めれば会計は高くなり、日常的に利用するには耐えられないという事態に直面してしまう。

 そうした悩めるビジネスパーソンに刺し込んだ光が、居酒屋チェーンだったのである。チェーン店は規模化による経営効率の高さで「コスパ」の高い料理の提供を可能としたほか、全国で同じ看板、同じメニューが提供される(しかも総合的な品揃えで)ことから、当たり外れのない安定感、すなわち「安心感」を提供したのである。

チェーン居酒屋離れが加速している「2つの理由」

 このようにして飛躍を遂げた居酒屋チェーンであったが、この成功の方程式には2つの“難しさ”が内在していた。

 まず1つは、「参入障壁の低さ」である。前述の居酒屋業界発展における2つの「波」が起きた際、後を追う形でさまざまな企業が参入したことは、模倣のしやすさを顕著に表している。

 一般に、模倣しやすい業界では、業界2位以下のチャレンジャーが“新しさ”で勝負をしかけ、業界首位のリーダーはこれに対し模倣と規模で戦う、というのがセオリーである。

 このとき市場全体が伸び続けていれば、健全な競争は起こりやすいが、市場が停滞、もしくは衰退すると、チャレンジャーによる新しい取り組みは割に合わなくなり、結果としてイノベーションが起こりづらくなる。そうなると、チャレンジャー各社は新しい取り組みよりも、リーダー企業が模倣しがたい価格競争(価格競争に対応することは、リーダー企業にこそ痛みが大きいため)をとることが多くなるのである。

 2010年頃、居酒屋業界ではリーマンショック後の消費低迷に誘われるように低価格競争が勃発した。その発端は、三光マーケティングフーズの「金の蔵Jr.」による、低価格・均一料金業態の展開であった。

 各社、低価格競争にまい進する中、低価格競争の先頭を走っていた当の三光マーケティングフーズは、この業態の厳しさを感じ、2011年、早々に“均一価格”を撤回したのである。その結果、“低価格・均一料金業態”ブームは終焉を迎えることとなったが、こうした業界全体の迷走感は消費者の居酒屋チェーン離れを誘発するようになっていった。

 続いて、「飽き」への戦いである。「安心感」を提供し続けることは、消費者の「飽き」につながりやすく、一般に居酒屋ブランドの寿命は5年程度とも言われている。

 さらに、居酒屋チェーンの武器の1つであった「安心感」に影響を与えたのは、ぐるなびなどのグルメサイトの存在であった。それまで、個店の実態が分からず、失敗を恐れる消費者は、安心感を求めて居酒屋チェーンに流れる傾向にあったが、グルメサイトはその情報の非対称性を解消していった。そのため、消費者は安心して個店を選ぶことができるようになり、これが居酒屋チェーン離れを加速させたのである。

 こうした中、居酒屋業界トップ企業であったモンテローザとワタミはどのように課題を乗り越えていったのだろうか。ここからは、両社の経営戦略を解説する。

【次ページ】業界トップのモンテローザとワタミを徹底比較
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モンテローザとワタミの取り組みの違いとは?(次のページで詳しく解説します)
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