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コロナ禍をキッカケに徐々に出社する機会が減っている中、国内・清涼飲料市場は飲用機会の減少に直面し、2020年には2011年以来、9年ぶりに5兆円を割った。そんな逆風に抗い成長を続けているのがエナジードリンク市場だ。2017年と比べて、約3割の成長を実現しており、文字通り元気いっぱいの成長市場なのだ。そうしたチャンスに対し、さまざまな企業が挑戦をしてきたが、依然としてこの市場をけん引するツートップは変わらない。それが、レッドブルとモンスターエナジーだ。そんなエナジードリンク市場のトップを走るレッドブルとモンスターエナジーは戦略も異なる。今回は、両社の戦略の違いをひも解きつつ、なぜモンスターエナジーが強いのかを解説する。
大正製薬と大塚製薬の2強時代
“エナジードリンク”というカテゴリーが登場する以前、元々日本には“栄養ドリンク”というカテゴリーが存在しており、これは医薬品と医薬部外品に分かれていた。当時、日本における栄養ドリンク業界を席巻していたのは、大正製薬の『リポビタンD』と大塚製薬の『オロナミンCドリンク』であった。
リポビタンDは、戦時中にパイロットの視力向上のためにタウリンを飲ませていたことから着想を得て、戦後、大正製薬がタウリンを飲みやすく改良し、1962年から大衆向けに販売したのがはじまりだ。活力溢れるアスリートなどを活用した「ファイト一発」のキャッチフレーズが印象的なテレビCMで、人気を博した大ヒット商品である。
栄養ドリンクは、「疲れた時に元気を取り戻すために飲む」という位置付けであり、忙しく働くホワイトカラーや肉体労働者などが愛用していた。
栄養ドリンクからエナジードリンクへ、市場誕生の背景
レッドブルの始まりは1982年に遡る。オーストリア人のディートリヒ・マテシッツ氏(レッドブル創業者)が週刊誌「ニューズウィーク」に掲載されていた「日本の高額納税者リスト」の記事を読んでいた際、リポビタンDを販売する大正製薬の会長が上位にランクインしているのを発見し、そこからリポビタンDのビジネスの可能性を感じたという。
その後、同氏がタイを訪れた際、TCファーマシューティカル・インダストリーズ(TCPグループ)から販売されていた「クラティンデーン」というドリンクが、リポビタンDと同様の成分を有し、また人気であることを知り、1984年にクラティンデーンのアジア以外での販売ライセンスを取得する。ブランド名も英語に訳し、現在の“レッドブル”が誕生したのだ。
元々、TCPグループがクラティンデーンを販売しはじめたのも、すでにタイで販売されていたリポビタンDの人気を見て、類似商品を低価格で販売する作戦に出たことがきっかけであった。これらエナジードリンクの起源は、すべてリポビタンDにあり、ここに改めてリポビタンDのすごさが実感できる。
その後、レッドブルは製品をヨーロッパ向けにローカライズし、まずはドイツでの販売を検討するも、エナジードリンクというカテゴリーがなく販売許可が得られなかったため、オーストリアで販売を開始することとなった。レッドブル創業者のマテシッシ氏は、「レッドブルのための市場は存在しない、我々がこれから創造するのだ」と述べ、新たなエナジードリンクという市場創造を目指した。
こうして形成されていったエナジードリンク市場では、現在あらゆるプレイヤーが参入し、しのぎを削っているが、長年、市場トップにはレッドブルとモンスターエナジーが君臨している状況だ。
レッドブルの優れた戦略(1):商品設計
2005年、レッドブルの日本上陸は、「栄養ドリンクは疲れた時に飲むもの」という、日本に定着したイメージへのチャレンジとも言えた。
レッドブルは、栄養ドリンク市場の「疲れを取る(マイナスをゼロにする)」という提供価値から、「気分を上げる(ゼロをプラスにする)」といった提供価値へ、さらにターゲットも「(疲れた)ビジネスパーソン」から「(気分をアゲたい)10代後半の若者」へと変えていった。もともとあった栄養ドリンクではない、新たな“エナジードリンク”という位置付けを確立したのである。
これに合わせマーケティング戦略も、栄養ドリンクとは異なる展開を志向する。販路はナイトシーン(クラブ、バーなど)を皮切りに、2006年にはセブンイレブンにて販売を開始した。
特に商品回転の早いコンビニでは、棚を維持することが難しいと言われているが、この課題にも同社なりの工夫があった。今までのタウリンを配合した栄養ドリンクは、医薬部外品(瓶で販売)であった一方、レッドブルではアルギニンを採用したことで缶製品の清涼飲料水の扱いとすることで、コンビニの棚もリポビタンDなどの栄養ドリンクとは異なる棚を確保でき、商品陳列の最前面獲得に成功したのだ。
レッドブルの優れた戦略(2):マーケティング
その後、上陸3年目の2007年には東名阪でテレビCMを展開、一貫して「翼を授ける」という世界観・ライフスタイル訴求を行った。さらに、モータスポーツのF1参入など、若者が何かを成し遂げようとする際の有能感を与えるブランディングを徹底した。
認知度も高まった中で、コンビニの全国展開や、キリンビバレッジとの提携による自販機へ展開など、販売チャネルの拡大を図った。自動販売機でツーコイン(200円)にて買えるように、容量を減らした商品も展開した。
販売チャネルを拡大するだけではなく、ブランドに磨きをかけるためにも、協賛の強化やCMでのイベント告知も並行して実施し、栄養ドリンク市場が衰退の傾向を止められない中で、着実に売上を拡大していったのである。
もう1つ注視したいのが、サンプリングの配布などの地道な活動を精力的に推進してきた“組織の熱”である。ターゲットに合わせ街頭サンプリングやSBM(Student Brand Manager:主要な大学に1名設置され、若者向けに販促・イベントなどを企画・運営する仕組み)など、活動を若者への接点強化に集中、特にSBMに選ばれた学生は高いモチベーションで活動を行い、レッドブルガールによるサンプリングも徹底した。
当時を知る方に聞くと、世にない新たなジャンルを創造するという信念と勢いがそこにはあったという。若者を熱狂させる背景には、戦略を実行する高い“組織の体温”も影響していたと言える。
【次ページ】後発モンスターが逆転できた理由とは?商品設計・マーケティングの視点から解説
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