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国際的なサプライチェーンの混乱が止まらない。これは、米国内の港湾、トラックおよび鉄道輸送などの物流網が軒並み乱れていることが大きな要因となっている。小売企業にとっては商品の供給に関わる上、供給対策として積み増した在庫の過剰化や、インフレによる物流経費の急騰、人手不足の深刻化などが重なり、まさに泣きっ面にハチの状態だ。こうした物流問題を打開すべく、各社はメタバースを活用したシミュレーションや、ライバル企業との共同配送などに乗り出している。「日本の10年先を行く」と言われる米国物流の最新動向を探る。
一朝一夕で解決できない「米サプライチェーン」の課題とは
米国でのサプライチェーンの混乱は、消費回復に伴う物量の増加や港湾作業員のコロナ感染拡大などによって発生した港湾でのコンテナ滞留が大きな要因となっていた。これにより、国際物流における海運や航空の輸送スペースがひっ迫し、輸送料金は高騰、今日におけるインフレ要因の1つとされている。
特に中国は膨大な量の消費財を輸出しており、米国にとっての大きな貿易相手国だ。しかし現在は厳格な新型コロナ感染の抑え込み政策を堅持し、経済活動にブレーキをかけている。米国内のサプライチェーン混乱はやや和らいだものの、中国におけるモノの製造や輸送の混乱、さらに各輸出拠点における業務の停滞などが長期化。米小売各社は商品の取り寄せが困難となり、欠品の大きな要因となっている。
米金融大手シティバンクは最近行った分析で、「グローバル貿易における(供給網の)混乱を鎮めるには、パンデミックの状況改善が必要だ」と指摘したが、的確な見解だと言えよう。しかし、米国のサプライチェーンの課題は国内外のコロナ制圧だけではない。事実、こうしたパンデミックや海外要因に加え、複合的にからみ合った国内での構造的問題があり、一朝一夕に解消できない性格のものだ。
米ブルームバーグが6月28日に報じたところによれば、中国からの貨物の主要受け入れ港であるロサンゼルスでは、鉄道輸送コンテナ2万8000個が滞貨しており、その内3分の2の列車積み込みが9日以上も遅れている。一方、トラック輸送も倉庫スペースや物流スタッフの不足で大幅な遅れが出ており、貨物が効率的にさばけていない。
また、港湾労働者の契約更新で紛争が起きているばかりでなく、7月中旬には鉄道労働者による賃上げ要求のストライキが予定されていた。さらなる物流の混乱を回避すべく、バイデン大統領が直前に大統領令を発して労使調停の介入を行い、ストは回避された。しかし、それで米国のサプライチェーンの問題が解決したわけではない。
事実、多くの労働者がより良い条件を求めて仕事を辞める「
大離職時代」に突入した米国では、コロナ禍以前から全米的に不足していたトラック運転手の確保が難しくなっている。なぜなら待遇が良くないからだ。それに輪をかけるように、トラック給油に使われるディーゼル燃料が過去1年で75%以上高騰。物流企業は人件費や燃料の値上がりを理由に輸送料の引き上げを行っている。
インダストリー・ソリューションを提供する米TigerGraphのハリー・パウエル社長は5月15日付のテックニュースサイトVentureBeatで、「多くの批評家は、サプライチェーンの混乱の原因が、準備不足や非効率な計画立案にあるとする。だがコロナ禍以来、あまりにも予測不能なイベントが重なっている。こうした中で問題なのは、次々と起こる事象に効果的に対策を打てなかった企業の対応力にある」と論じた。
サプライチェーンの大混乱を緩和させる「物流テック」に要注目
「米サプライチェーンの根本的な問題を簡単に言うと、テクノロジーとプロセスの断片化(による混乱)だ」と語るのは、米アマゾンのコンシューマー部門の責任者であり、9月に物流フォワーダーのFlexportの最高経営責任者(CEO)に就任予定のデイブ・クラーク氏だ。
Flexportは、荷主から商品を預かり、船舶・交通・鉄道・トラックなどの運送業者を仲介して、目的地まで商品を届けるスタートアップだ。ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)などから出資を受けている。
クラーク氏は、数か月後のCEO就任を控え、「サプライチェーンの断片化が最もひどいのは、クロスボーダー物流における各国でバラバラの規制、地理的距離、そして互いに連携せずサイロ化した運送業者のネットワークだ」と指摘。それらの断片化の解決が、CEOとして集中すべき仕事だと述べた。
同社はすでに断片化の解決に向けた取り組みを進めている。紙ベースの物流処理をデジタル化することでリアルタイム管理を可能にするだけでなく、各種デジタル手続きのフォーマットを統一することで、サプライチェーンの混乱を緩和できるという。
Flexportのように、予測不能な事態にも対応できるよう、貨物輸送の各プロセスをデジタル化する物流テックが改めて注目されている。
パナソニック傘下のサプライチェーン・ソフトウェア企業であるBlue Yonderが実施した、サプライチェーン・物流担当の経営層への聞き取り調査(5月23日発表)によれば、物流混乱に対処するためにこの先1年で行う投資として、42%が倉庫管理システム、36%が運輸管理システム、32%が注文管理を挙げた。また、別の調査では、クラウドや
RFID、IoTも投資の対象として挙げられ、企業の「混乱時の解決能力」に期待が高まっている。
【次ページ】小売業界の物流改革:メタバースの活用や競合他社との共同配送
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