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深刻なトラックドライバー不足が叫ばれる中、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されます。物流企業は労働時間の短縮という大きな経営課題に悩みを抱えていますが、それだけでなく、労働時間が減ることでドライバーの給与が下がりドライバー不足がさらに深刻化することが危惧されています。2024年以降、サプライチェーンが寸断される事態も現実として考えられ、そうなれば日本経済は立ち行かなくなってしまいます。業界の枠を超えて全産業でこの問題に取り組まなくてはなりません。では具体的に物流を利用する荷主企業はどういった対応を取るべきなのでしょうか。
「2024年問題」の失われた2年とは?
2024年4月からトラックドライバーにおける時間外労働の上限規制が適用されます。それは、一般的な年間の上限720時間と比べて240時間も長い、960時間(月平均80時間以内)という規制ではありますが、トラック運送業界からすると、途方もなく高難易度な内容です。
2020年2月から始まった新型コロナウイルス感染症ショックは、荷主企業・物流企業両者にとって大きな痛手となる2年間ではなかったでしょうか。経済へのインパクトは当然のことながら、物流業界にとっては
2024年問題の解決に向けて一歩踏み出そうとした矢先のことであり、両者にとって極めて痛い「失われた2年間」であると思えます。
その理由は、過当競争による低運賃と過剰サービスに長年悩まされ続けてきた物流業界が、2024年問題を機に取引適正化に向けた活動を進めようとした出鼻をくじかれるタイミングだったからです。本来この2年間を含めた4~5年がかりで2024年問題を解決させるための料金改定や取引改定などが行われるはずでしたが、ほぼ停滞しているのが現状です。
今年は施行まで2年となり、もう物流業界に猶予期間はありません。しかし、図1は当社が2021年末に行ったアンケート集計(回答131社)を見ると、「2024年問題の概要は理解しているが、具体的な行動には至っていない」を選択した企業が最も多く、回答の半分以上(54%)を占めています。
2024年問題が解決しない根本原因はズバリ「多重取引構造」
貨物運送事業者約6万社のうち約97%(図2)を占める中小運送業の労働環境の実態としては、かなり厳しい実情であると筆者は捉えています。多重構造である日本の物流業界は、実運送会社(実際に自社便を使って輸配送を行っている運送会社)と荷主の間にいくつかのエンティティ(元請けや中間元請け)が存在し、現場の声が直接荷主に届きにくい環境となっています。
図3に示している危険な取引スキームの事例では、荷主が支払った8万円の運賃が実運送会社へは6万3千円(78.7%)になってしまいます。
実運送会社の立場からすると、現状の運賃水準のままで残業規制が今以上に厳しくなってしまうことは、まさしく死活問題です。とは言え、コロナ環境下で荷量が落ちている今、元請けへ運賃改定を言えるはずもありません。日本の物流業界は、需給の間に複数の企業が存在しているため、ユーザー(荷主)と供給者(実運送会社)の直接対話は実質不可能な状態なのです。
図3の事例の場合、実運送会社があと3千円の運賃上積みがあれば問題解決となる場合でも、この上り階段を進むと荷主へは1万円の値上げ要求となってしまいます。
物流企業の収入は2024年問題によって30%も減少すると危惧されています。こうした2024年問題のリスクについて業界を超えて議論の的となっていますが、多くの企業が実際に行動に移せていないのが実情です。ここからは2024年以降に想定される荷主企業が抱えるリスクと、物流危機に対して取るべき行動について解説します。
【次ページ】2024年問題で押さえるべき「5つのリスク」と「5つの対策」とは
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