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- 2022/02/04 掲載
「高度物流人材」とは何か?従来の人材と何が違う?“2024年問題”の救世主となるか
連載:「日本の物流現場から」
これまでに多い「物流人材」
「荷主のドタキャンに困っていまして...」──このように愚痴るのは、中堅どころの物流企業(以下、A社とする)の役員だ。A社の荷主である小売店の商品は、小売店の物流センターから、A社の物流センターに輸送され、店舗ごとに仕分けされてから各店舗へと配送されている。ドタキャンされたのは、小売店の物流センターから、A社の物流センターに輸送する、「横持ち」と呼ばれる輸送プロセスであった。
「横持ち依頼を受けて、トラックを向かわせますよね。ところが、高速道路を走っている最中に、『出荷用の商品が用意できなかったから、横持ち依頼をキャンセルします』って、連絡が入るんですよ」と、A社の役員はぼやく。
たしかに困るだろう。聞けば、横持ちがキャンセルされてもキャンセル料などをもらえるわけではないので、高速代、燃料代、ドライバーの賃金など、丸々タダ働きになってしまうそうだ。
だが、よくよく話を聞くと、実はA社の担当者が小売店の物流センターに常駐し、出荷作業の一部を担当していると言うではないか。
「ちょっと待ってください。本当に困っているのは、あなたの会社(A社)ではなく、荷主である小売店ではないですか?」──そもそも、A社の担当者が出荷作業に関わっているのに、なぜ、「出荷用の商品が用意できない」などといった事態が発生するのだろうか?
担当者に聞いても、その原因はよく分からないという。にも関わらず、A社の役員は、荷主に対する愚痴を言い続ける。
「荷主は、あなたの会社に物流改善の提案を求めているのではないですか?その期待に応えられなければ、いずれ取引を切られますよ!」──だが、当のA社役員は、私の懸念などどこ吹く風であった。
「物流企業の価値って、荷主のワガママにどこまで応えられるかどうかじゃないですか。こんなワガママな荷主に付き合えるのはウチくらいだから大丈夫ですよ」
物流の、もっと言えば、サプライチェーンの形というのは、千差万別である。A社役員のように、荷主の言うことに無批判に従い、荷主の無理難題に応えることこそが物流企業の価値であるとうそぶく物流従事者は少なくない。
運送会社においてはトラックドライバーや配車担当者、倉庫会社においては倉庫作業員や入出庫担当者など、物流事業者には物流実務の担い手が多数いる。だが、荷主発信の無理難題に対する対応力を身に付けたトレードオフとして、「物流の困った」を解決するための企画や戦略立案、PoC(概念実証)を担ったり、改善・生産性向上のためのプロジェクトを先導したりできる人材が圧倒的に不足する結果となった。
「高度物流人材」とは何か
2021年4月、経済産業省、国土交通省、日本物流団体連合会の共催で、2回目となる高度物流人材シンポジウムが開催された。その冒頭、あいさつに立った日本物流団体連合会 会長 渡邉健二氏は、「デジタル化は社会の『困った』を解決するために成長してきた。物流も同じはずなのだが、社会の『困った』に、その都度対応してきたため、標準化に乗り遅れてしまった」と発言している。現在、物流は大きな転換期を迎えている。
トラックドライバー不足の根本的な解決の糸口を見いだせず、輸送難民を生み出す懸念がますます高まっている。メーカーや小売り、卸などの荷主は物流コストの上昇に苦しみ、それは私たちの生活にも食品や日用雑貨の値上げという形で影響を与えている。
さらに働き方改革関連法による時間外労働時間の上限規制は、「物流の2024年問題」という形で輸送リソースを圧迫する一因となっている。
こういった物流課題の打開策として期待されているのがフィジカルインターネット、無人・自動運転トラックや、自動倉庫などであり、これら新たなテクノロジーを企画・設計・実践する担い手として期待が集まっているのが高度物流人材である。
日本の物流政策をまとめた「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」で、高度物流人材とは、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進できる人材と定義している。その上で、「物流現場の課題を正確に把握でき、グローバル化の状況を踏まえつつ、広い視野で物流産業が進むべき方向性を見定めることができる上、先進技術なども活用しながら、物流業務の革新に向けた企画・提案ができる人材」と説明。こうした高度物流人材が、物流DXを実現するために必要となっている。
さらに深堀りし、シンポジウムに参加したパネリスト、登壇者の発言から、高度物流人材のヒントを探ろう。
日本マクドナルド サプライチェーン本部 ストラテジックソーシング部 部長 梶野透氏は、「ビジネスの話ができる人」「問いを立てられる人」という2つの条件を挙げている。
「ビジネスの話ができる人」について、「P/L(損益計算書)を見て『どうやったら原価率を下げられるか?』を考えることができる人はいるが、B/S(貸借対照表)を見て『在庫を下げた結果、どれだけ投資余力に回せるか?』という観点からサプライチェーンを議論できる人には、ほとんど会ったことがない」と梶野氏は指摘した。
また、「問いを立てられる人」については、「DXや在庫回転率の話などは、Howの話。本来、Why?(なぜ)、What?(何を)があってのHowのはず。『どの目的のために、どこに注力するのか?』を問える人」と説明している。
また、ローランド・ベルガー パートナー 小野塚征志氏は、「未来の物流を創造できるビジネスイノベーターが必要」と指摘する。
既存の物流従事者らのマインドを、「対応力をベースとしたボトムアップアプローチ」と課題提起する一方で、高度物流人材に求められるマインドについて、「既存の延長線上にはない目指す姿を描く」「今までの常識や慣習にとらわれずに考える」「不特定多数を対象に価値を提供する」という3つの条件を挙げた上で、「パーパスドリブンでのトップダウンアプローチ」とまとめている。
【次ページ】物流DXに不可欠な「高度物流人材」が求められる能力とは
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