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先日、「運送会社は、DX(デジタルトランスフォーメーション)に挑むべきなのだろうか?」、という質問を受けた。デジタル化すらままならない運送会社において、DXへ取り組むことは荒唐無稽に思えるのだと話す。気持ちは分かる。典型的な労働集約型産業である運送会社において、DXなど他人事にしか聞こえないのかもしれない。だが、人の手が必ず介在する運送業務だからこそ変革が必要であることも、運送業界にいる多くの方が痛切に感じている課題であろう。結論から言えば、運送会社も怯むことなくDXへ挑むべきである。だが、DXに挑む際には、運送会社ならではの課題、運送会社に適したDXへの取り組み方を考慮すべきだ。
難解すぎて、意味が伝わらない“DX”
運送会社にとってのDXを考える前に、DX自体の問題について考えていこう。
経済産業省は、2018年9月7日に「DXレポート ~ITシステム 『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」(以下、「DXレポート」)を発表した。現在のDXブームは、ここから始まったと言っても過言ではない。
続いて経済産業省は、昨年末2020年12月28日、「DXレポート2 中間取りまとめ」(以下、「DXレポート2」)を発表した。これは、DXレポートが発表されてからの2年間で蓄積された、DXの進捗状況や知見などを取りまとめたものである。
私は、DXが抱える最大の課題は、「難しい」「分からない」だと考える。以下は、DXレポートで示されたDXの定義である。
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること
DXレポート(本文)3ページより転記
難解すぎて意味が伝わらない。なぜこんな専門用語を羅列した定義を示したのか、理解に苦しむレベルの難解さである。
DXレポートは、「サマリー」版、「本文」版、「概要」版の3つが存在する。「サマリー」版が最も簡素にまとめられたものであり、「概要」版、「本文」版と、ボリュームも増え、内容も深くなっていく。
「サマリー」版にはDXの定義そのものが触れられていない。ほか2つの版においても、基本的に議論の対象はDXの必要性や目指すべきものであり、基本中の基本であるDXの定義を分かりやすく噛み砕いて伝えようとしていない。
結果、どうなったか。「DX=デジタルトランスフォーメーション」というバズワードが先行し、DXのなんたるかをきちんと理解しないまま、「DXは分からない」「DXは難しい」といった空気が蔓延してしまったのではないか。
また、「うちのシステムを導入すれば、DX対策はバッチリです!」といった、単なるデジタル化・IT化をDXの切り札であるかのように売り込むシステムベンダーも登場している。これも、DXをきちんと説明せず、いたずらに「2025年の崖」などと危機感をあおったDXレポートの弊害である。
さすがに反省したのであろう。DXレポート2では、DXの定義について以下のように説明されている。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立する
DXレポート2(本文)14ページ、(概要)8ページより
だいぶ分かりやすくなったがこれでもやや難しい。DXの定義としては、次の表現まで簡略化しないと広く世間には伝わらないであろう。
デジタルトランスフォーメーションは全社的な業務・プロセスのデジタル化、および顧客起点の価値創造のために事業やビジネスモデルを変革することである
DXレポート2(本文)34ページより
だがここで別の問題が生じる。DXは、業務とビジネスの両方を、顧客起点でデジタル化するものだと言う。
そう、そもそもDXは、今まで見たことがない、経験したことがないレベルの変革を企業に求める、極めてハードルの高いものだ。そして、DXを達成した企業は、未だほとんどいない。だから事例も少なく、「何をすればいいのか分からない」と頭を抱える企業が続発するのも当然だ。
DXレポート2では、DXへの取り組みが進まない現状をこのようにレポートしている。
約95%の企業はDX にまったく取り組んでいないレベルにあるか、DX の散発的な実施に留まっているに過ぎない段階であり、全社的な危機感の共有や意識改革の推進といったレベルにはいたっていない
DXレポート2(本文)7ページより
もっと言えば、これは経済産業省の求めに応じ、回答した企業500社の状況である。国内企業の企業総数:358.9万社(2016年集計)を鑑みれば、DXに本格的に取り組むことができている企業など、ごくわずかしかいない可能性が高い。
このようなDXの問題点を踏まえた上で、では運送会社のDXにはどのような課題があるのか、以下で見ていこう。
課題1:“付帯業務”である情報処理を変革するモチベーション
運送というのは、典型的な労働集約型産業である。人が、貨物というリアルな存在に関わらなければ、仕事は進まない。その観点から、デジタル化やIT化とは縁遠いと考えられるのも無理はない。
物流の6大要素として挙げられるのは、「輸送」「保管」「荷役」「包装」「流通加工」、そして「情報処理」である。このうちデジタル化・IT化と相性が良いのは情報処理だ。というより、ほかの要素はすべて大原則、リアルに貨物を触らなければならない業務であり、物流業界におけるDXは基本的に情報処理を対象として考えることとなる。
だが運送会社の場合、情報処理とは荷役や輸送に伴って発生する前後処理業務であり、付帯業務である。主役の荷役や輸送ではなく脇役である情報処理に関しては、どうしても変革へのモチベーションが湧きにくく後回しにされがちである。
これが、運送会社においてDXを取り組む上で課題の1つである。
【次ページ】立ち位置もリテラシーもDXには不向きな運送会社の現実
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