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- 2021/05/11 掲載
大きな問題が潜む小売戦略、「ポイントカード運用は要注意」と言えるワケ
【連載】儲かる小売店の「つくりかた」
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ポイントカード発行による「顧客囲い込み」が激化
現在、多くの小売業では、「ポイントカード」を顧客に発行し、購入金額に応じたり、特定の商品購入に対して金銭的価値をつけたポイントを提供したりしている。ポイントによるインセンティブを顧客に与えることによって、引き続きその小売店舗を使用してもらうという、いわば「顧客の囲い込み」を各社は行っている。このようなポイントプログラムは、「フリークエント・ショッパーズ・プログラム(FSP)」と呼ばれ、顧客関係性マネジメント(CRM)の一環として、文字通り、ひんぱんに買い物利用をする顧客に焦点を当てた運用プログラムとして捉えられている。
このFSPの起源は、アメリカン航空にあると言われている。同社は、「顧客の飛行距離が3万マイルに達すれば、アメリカ本土からハワイまでのチケットを無料にする」など、顧客の飛行距離に応じてさまざまなサービスや特典を提供して成功した。つまり、顧客はアメリカン航空を利用すればするほど、多くのサービスや特典を手に入れることができるのである(※1)。その後、この考え方や仕組みが小売業界にも応用されていったのである。
日本では、2000年代にFSP導入小売業が急速に増えた。最近の実態として、スーパーマーケット三協会の共同調査によると、2020年時点現在で調査対象企業〇〇社のうち、84%の企業がポイントカードを導入しており、そのうち57%の企業が自社独自のカードを展開している(※2)。
つまり小売企業の大半がFSPを展開しており、そのうち半数以上の企業は自社店舗でしか使えない体系にしている傾向があることから、小売企業各社にとっての良い顧客、すなわち「優良顧客」の囲い込みが熾烈化していること分かる。
企業にとって「優良顧客」とは?
では、このような「優良顧客」は、企業にとって具体的にどのような存在なのだろうか。優良顧客の定義は、RFM分析と呼ばれるRecency(直近の購入経験があるか)、Frequency(来店回数がどのくらいあるか)、Monetary(購買金額がどのくらいあるか)の3つの指標を基に設定するのが基本とされている。
FSPを導入している小売企業は、このRFMの指標を基に一定の条件に達した顧客に対して先のポイント付与や特別サービスの提供を行っているのである。つまり、小売企業にとっての優良顧客は、「ブランクなく、ひんぱんに、たくさんの金額で買ってくれる顧客」ということである。
小売企業はこの優良顧客にフォーカスし、この顧客に金銭的な優遇、あるいはお金に換えられないような特別なサービスを提供している。また、中には、この顧客の購買履歴を活用して、売場の品揃えやプロモーション計画を策定する企業もある。
「ポイントプログラム」の限界
しかし、多くの小売企業がこぞって運用しているFSPの大きな課題として2点挙げてみたい。1つ目は、FSPのコンセプト自体の課題である。FSPのコンセプトである「優良顧客の囲い込み」は、競合店舗からの防衛戦略としてはたしかに有効である。しかし、この「守りの戦略」では、既存店の業績維持はできても業績拡大が難しいという問題が生じてしまわないだろうか。
多くの小売企業は、大型店の出店を規制し中小小売業の保護・育成を目的とした「大規模小売店舗法」が廃止された2000年前後を契機に新規出店を急速に進め、それによって業績を拡大してきた。つまり、各社の業績拡大の構造は「新規出店の繰り返しによる売上の積み増し」であり、「既存店の活性化による売上の積み増し」ではない。
FSPのコンセプトを維持することは、「新規出店数増に伴う売上の積み増し」の構造から抜け出せなくなることを意味するのではなかろうか。もし、「既存店活性化による業績拡大」を狙うのであれば、既存店における「新規顧客の獲得」が不可欠な要素になってくる。これは、最初から店舗の売上と利益に大きく貢献してくれている優良顧客を中心にさらなる売上増、利益増を狙っていくのには当然限界があるからである。
【次ページ】「購買金額の多い=優良顧客」が要注意、と言える理由
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