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  • 2021/03/29 掲載

小売業のブランドづくりの鉄則、「従業員の雰囲気」「陳列」にもこだわるべき理由

【連載】儲かる小売店の「つくりかた」

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本連載の第1回目で、スーパーマーケットを「良い店だと思っているけど、他人に言うほどの存在ではない」から「他人に言いたくなってしまう存在」に発展させるためには、“話題力”を成果指標にした「ブランド化」が必要であると提起した。今回は、小売業の「ブランド化」を進める上で、どういう点に着目していけば良いのか、海外の研究者によって議論されているフレームなどを援用しながら提案したい。
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なぜ、小売業のブランドづくりにおいて、「従業員の雰囲気」や「陳列」などが関わってくるのか…
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)


「ブランド化」が重要になった背景

 ブランドとは、米国マーケティング協会(American Marketing Association)によると、「ある売り手の商品やサービスが他の売り手のそれと異なるものとするための名前・用語・デザイン・シンボルあるいは他の特徴のことである」と定義されている。

 この「ブランド化」の考え方が日本で急速に広まったのは1980年代から90年代のはじめである。当時は、ダイエーを筆頭に強い購買力(バイイングパワー)を持つ小売業が取引先であるメーカーに対して優越的地位を持つようになったほか、酒類販売業免許の原則自由化、官営事業の民営化、再販制度の緩和など、消費者が自由に商品・サービスを選択できる環境になりはじめていた(注1)。

注1:この経緯の詳細については,田中洋(2017)『ブランド戦略論』有斐閣,が参考になる。

 この流れから、消費者との直接的な接点が小売業に比べて遠いメーカーは、小売業のバイイングパワーの増幅に伴い、自社の存在意義をより強く世間にアピールすることが重要になってきたのである。

 もう少し具体的に言うと、製品を開発・供給する立場のメーカーが、バイイングパワーのある小売業から、いかに「ぜひその商品を置かせてほしい」と言わせ、消費者との直接的な接点を増やすチャンスを作り出すか、というモチベーションが強くなってきたのである。

 そのためにメーカー各社は、自社製品の魅力向上はもちろんのこと、優れた製品を提供する「企業としてのブランド化」を目指すことで、対消費者とのコミュニケーションにおける表現力を磨いてきたのである。

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なぜ、企業にとって「ブランド化」が重要になってきたのか
(Photo/Getty Images)

小売業のPB投入は、「ブランド化」と言えるのか?

 では、メーカーの取引先となる小売業側はどうであろうか。小売業のブランドと言えば、小売業各社が提供する独自商品である「プライベート・ブランド」(略してPBという呼称)が定着している。

 PBの存在が世間に大きく浸透したのはダイエーが投入した「セービング」であった(注2)。しかし当時のPBはいわゆる「安かろう、悪かろう」というレベルのものであった。PBと言えば、いつも比較対象として取り上げられるのが大手メーカーによって全国的に展開されている「ナショナル・ブランド」(略してNB)である。このNBをベンチマークにし、「NBに引けを取らないクオリティでありながらも安価だ」というのが、PBが基本的に目指すポジションであった。

 最近では、NBを超えるクオリティや、NBより高価なPBも出てきている状況である。現在、多くの小売業では何かしらのPBを扱っている。PBの商品開発に多大な力を注ぎ、それを差別化の1つにしている小売業も存在するが、多くの小売業は、「PBの投入=小売ブランド化」で済ませてしまっているのが現状ではなかろうか。

注2:ダイエーのPBに関する詳細の歴史については崔(2015)が参考になる。http://www.hyogokccj.org/wp-content/uploads/2015/02/d51ae9613432f04488e965cc272047c6.pdf




真似されない「小売ブランド化」の条件

 たしかに、オリジナリティのある大変魅力的なPBを投入できれば、それは非常に有効な差別化戦略の1つになる。しかし、小売業が価格、品揃えやサービスなど、小売マーケティング・ミックスの各要素について革新的な施策を個別に行っても、競合他社にすぐに模倣されてしまうのである。

 この状況を変えていくためには、ビジネスレベルでの「小売ブランド化」が重要になってくる。ビジネスレベルでの小売ブランド化を進めていくためには、「強力で高品質のPB開発への投資」だけでなく、(1)「パブリシティを巻き込んだブランドの差別化」、(2)「直接的な顧客(消費者)との関係性の構築」、(3)「ブランドの一貫性」などが必要となってくる(注3)。

注3:Wileman, Andrew & Michael Jary (1997), Retail Power Plays: From Trading To Brand Leadership, MacMillian.

 もう少し具体的に言うと、(1)「パブリシティを巻き込んだブランドの差別化」としては、たとえば、業務スーパーの圧倒的な大容量低価格のオリジナル商品や成城石井の少し贅沢感のあるオリジナル商品が多くのテレビ番組で取り上げられたりしている点は、まさにパブリシティを巻き込んだ事例と言えるだろう。

 また、(2)「直接的な顧客(消費者)との関係性の構築」は、ポイント付与などに見られるような情報技術を中心にした接点だけではなく、「躍動感」「ぬくもり」「鮮度感」のようなFace to Faceのリアルな接点を指している。

 (3)「ブランドの一貫性」は、短期的な売上や利益の圧力になびかれないような、品揃え、価格設定、製品品質、プロモーション、店内サービスという小売マーケティング・ミックスに根ざすような長期的なブランドのポジショニングを取ることを指す。

 たとえば、阪急オアシスは、「食のプロフェッショナル」「安心安全な高品質食品」「ライブ感あふれる市場」を自社のブランド・ステートメントとして掲げ、これらのステートメントを軸にした商品開発、価格設定、売場づくりを行っている点はこの「ブランドの一貫性」に当てはまるだろう。

【次ページ】なぜ「ドン・キホーテ」「オーケー」は凄いのか?「小売ブランド・アーキテクチャ」から読み解く
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小売業のブランドを考える上で役立つ「小売ブランド・アーキテクチャ」。これに当てはめて分析していくと、「ドン・キホーテ」や「オーケー」の効果的なブランドづくりが見えてくる……?(次のページで詳しく解説します)

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