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茨城県内で圧倒的な支持と人気を誇るサザコーヒー。今は東京、新橋、品川などにも店舗を構え、地方のカフェとは思えない存在感だ。1969年に個人系カフェからスタートした同社だが、なぜ「多産多死の業態」、「3年持つ店は半数」ともいわれるカフェ業界を生き抜いてこられたのか。後編では、サザコーヒーが単なる「昭和の個人喫茶店」で終わらなかった3つの理由について、創業者・鈴木誉志男氏に話を聞いた。
聞き手・執筆:経済ジャーナリスト・経営コンサルタント 高井 尚之、写真:吉成 大輔
聞き手・執筆:経済ジャーナリスト・経営コンサルタント 高井 尚之、写真:吉成 大輔
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント 高井 尚之
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)などがある。
「1本980円のアイスコーヒー」が、年間10万本単位で売れる秘密
「今年の夏もアイスコーヒーがよく売れました。自宅用や贈答用に『ネルドリップアイスコーヒー』(1本660円)や『将軍冷珈琲』(同980円)という1リットルタイプが人気です。他社の商品に比べて3倍以上しますが、近年は驚くほど売れています」(鈴木会長)
創業50年、コーヒー豆への徹底的なこだわりを持ってきた鈴木会長はこう語る。販売本数は企業秘密だが、年間10万本単位で売れる。国内店舗数は15店、ネット販売もあるとはいえ、企業規模を考えると驚異的な数字だ。どんな作り方をしているのだろうか。
「日本の一般的なアイスコーヒーは、氷を入れて冷やすため香りは出ません。だから香りは必要なく、コクのある豆を選ぶのが業界の決まりごとです。
サザコーヒーのアイスコーヒーは、それとは違うやり方です。まず豆は、ブラジルやグアテマラ産の高級豆の『アラビカ』を使います。香りが出るよう焙煎(ばいせん)にもこだわり、抽出も国内2カ所の抽出工場で味合わせを繰り返します。
また、『抽出されたコーヒーと牛乳を1:1で割ってもコーヒーの味がする』のもコンセプトで、それほど濃厚につくっています。氷を入れて薄めても濃さが感じられるのです」
ちなみに、660円と980円の商品の違いは、「コーヒー豆の種類の差、フィルターの差もあり、980円のほうが使うコーヒーの量も多い」という。
「最近は冬でも売れます。お客さんがレンジで温めて飲まれるのです。特に推奨していませんが、サザコーヒーのアイスは、温めると香りが際立つので喜ばれているようです」
渋沢栄一が味わったコーヒーを再現、その味わいとは
現在、鈴木氏は地元・茨城県にちなんだコーヒーを次々に開発する。史実を踏まえた商品開発が得意で実績もある。最近では、2021年1月発売の「渋沢栄一仏蘭西珈琲物語」(1杯取り×5袋は税込み1,000円)が大ヒットした。
「渋沢栄一は、幕末までは徳川慶喜に仕えた幕臣でした。慶喜の弟で最後の水戸藩主だった昭武に随行して、1867年に渡仏しています。欧州歴訪中にコーヒーを飲んだ記録もあり、商品は当時のフランスで使われていたエチオピアとイエメン産のモカを用い、深いりのフレンチローストにしました」
NHKの大河ドラマ『青天を衝け』も商品の売れゆきを後押しした。2021年7月11日放送の同番組では、渋沢らが滞在先のパリのアパルトマン(アパート)でコーヒーを抽出するシーンがあった。実は、ここで使われたコーヒー器具や食器を提供し、コーヒー監修をしたのも鈴木氏だ。放送後は本店にその器具や食器が飾られており、来店客の注目を集めていた。
ちなみに渋沢栄一のコーヒーは、大河ドラマや新一万円札人気を当て込んで商品開発したが、番組との関わりは意図しておらず、「ご縁があって依頼された」そうだ。
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