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米国の小売・製造業界で大きな異変が起きている。アマゾンが秋季では初めてとなる大型セールを実施した一方、小売大手のウォルマートやターゲットは数十億ドル規模でサプライヤーへの発注をキャンセル。高級路線を保ってきたナイキも異例の大幅値引きを行い、日本でも大きな話題を呼んだ。こうした異変の背景にある潮流とは何なのか。世界的なインフレが進む中で、これから年末商戦を迎える米小売・製造業界に何が起きるのか読み解いていく。
なぜアマゾンは秋の大型セールを初開催したのか
アマゾンは10月11~12日、数十万点の値引き品を用意し、米国など15カ国のプライム会員を対象としたプライムデー同様の大型セール、
プライム・アーリーアクセスセールを開催した。同社は売上が減少する夏場の販売促進策として2015年からプライムデーを実施してきたが、今回初めて秋季にも同様の大型セールを行った。これにより、下半期の大型セールはブラックフライデー・サイバーマンデーを加えて3回も行われることになる。
一方、ライバルのウォルマートやターゲットも、プライム・アーリーアクセスセールの数日前に同様の大型セールをぶつけた。多くの小売チェーンにとり、通年売上の20~30%を占める極めて重要な時期が11月下旬から12月下旬の年末商戦なのだが、他社より先に消費者にお金を落としてもらおうと「年末商戦の前倒し競争」が顕著となっている。
実は、この前倒しは過去10年ほどで少しずつ進行していた。始まりは、感謝祭(11月の第4木曜日)の次の日の早朝に行われるはずのブラックフライデーが前倒しされたことだ。これは、競合よりも数時間前に消費者を自社店舗に集客し、たっぷり財布のヒモを緩めてもらうことで抜け駆けしよう、という作戦である。
そうした中、2020年にコロナ禍、2021年には世界的なサプライチェーンの大混乱が発生した。小売各社は流通網の混雑を避けて納品時期を前倒しするとともに、年末商戦も前倒しした。事情を理解する消費者もそれを受け入れていた。
しかし、物流の混乱が収拾しつつある2022年の年末商戦の前倒しは、2021年の時とは理由が異なる。まず、各社の売上の伸びがかなり減速しており、10~12月期の業績を改善する必要があることだ。
たとえばアマゾンは2022年4~6月期の売上が前年比7.2%増だったが、同社20年の歴史の中で最も低い伸び率にとどまっている。10~12月期の数字を上げるには、ブラックフライデーとサイバーマンデーだけでは不足だという実情が、プライム・アーリーアクセスセールの実施という形で露呈したと言える。
米金融大手バンクオブアメリカの
分析によれば、プライム・アーリーアクセスセールの売上は57億ドル(約8,494億円)と、7月のプライムデーの75億ドル(約1兆1,176億円)を下回った。この先まだブラックフライデーとサイバーマンデーが控えているため、今回の数字には驚きはないが、そのブラックフライデーとサイバーマンデーの売上とどの程度の「共食い」を起こしているのかが、注目されるところだ。
対するターゲットは4~6月期の売上で前年比90%の落ち込み、ウォルマートも2022年通年の売上予想を当初の前年比1%減から11~13%減へと下方修正している。
年末商戦の前倒しが導く“厳しすぎる末路”
こうした売上低迷は、高止まりを続けるインフレが影響している。2019年10~12月期から2022年4~6月期にかけて、米国人の平均賃金が10.9%伸びたのに対し、消費者物価指数は13.7%も上昇、多くの世帯で実質収入が目減りしている。
その結果として、米消費者の84%が「今年のホリデーショッピング(感謝祭翌日から年明けまでに行う買い物)では買い物点数を減らし、セールやクーポンを活用する」と、米金融メディアのバンクレートの調査に回答している。
こうした事情から、各社は年末商戦の実施を早め、ライバルから売上のパイを少しでも多く奪うという激しい競争を始めたわけだ。
これは一種の劇薬であり、ライバルたちが一斉に同じような行動に出ることで、「先駆け効果」が弱まる恐れが強い。そればかりか、アマゾンであればプライムデーやブラックフライデー・サイバーマンデーに対する消費者の期待感を薄めてしまい、長期的に自らの首を絞める結果になりかねない。
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