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現代の消費者は多様な情報を自身で咀嚼・熟成・消化し、サイトの商品とその提示情報に触発されて、直観的に“ポチる”(=ネット通販で購入ボタンを押す)ことを前回は説明した。このように消費者を惚れ込ませ、“ポチる”キッカケづくりは、その商品に対して消費者がどう関わるのかの全体像を検証できる「エスノグラフィー」の活用がカギとなる。本稿では、直感的に「ポチらせる」仕組み(ここではそれを「ポチリング・マネジメント」と呼ぶ)について、これにまつわる5つのキーワードから提言する。
「ポチリング・マネジメント」にまつわる5つのキーワード
オムニチャネル時代では、自社商品/サービス(以下、商品)に対して、(1)消費者の気持ちを振り向かせ、(2)買う気にさせ、(3)実際の購買行動を行わせる、という3つのステップの適切な運用の成否が、ビジネスの勝敗を決定づける。ECサイトの場合は、これに(0)自社商品が買えるサイトに消費者を連れてくる、というさらなるハードルが加わる。
そこで本稿では、この4ステップを適切にマネジメントすることで、自社商品の「ポチる」を促す仕組み、仮称「ポチリング・マネジメント」について一つの提言を行いたい。キーワードは、「エスノグラフィー」「ビッグデータ」「データサイエンス」「データ・サイエンティスト」「ソフト・スキル」の5つだ。
1.エスノグラフィー
筆者はマーケティング業界が「エスノグラフィー」を単純に「観察手法」と訳したことが、その本質を矮小化させたと考えている。
消費におけるエスノグラフィーとは、「消費者の認知の仕方から、実際に“ポチる”までのすべての網羅的な行動(現象)に対して、企業の主観的な見方を徹底的に排し、“客観的に”再検討・再発見・新発見を実施すること」を言う。
この“客観化”のために、エスノグラフィーは、心理学や社会学、人間工学など関連する理論や学説を積極的に活用して、現象の全体像を検討するものであり、必ずしも観察手法のことだけを指すわけではないのである。
2.ビッグデータ
次のキーワード「ビッグデータ」とのかかわりは、エスノグラフィーのこのような広範な検討対象領域に由来する。エスノグラフィーは、先のステップ(0)から(3)までの全4ステップの購買行動現象を対象にする。
言い換えると、認知率や過去の満足度、サイト内導線(クリックスルー分析)などの数値情報(構造化データ)と、商品印象や意思決定過程(買うまでの心の動き)、口コミ情報の影響などの数値以外の文書や画像・音響的な情報(非構造化データ)が混然一体となった情報を検討対象とする。即ちこれは「ビッグデータ」そのものである。
3.データサイエンス
そして、「ビッグデータ」から何かを再発見/新発見するには、「データサイエンス」という独自手法が不可欠となる。この手法のキモは、数値の単位や数字自体が持つ意味合いなどの各情報が持つ多種・多様な固有特性(データの質的意義)を集計に反映して、必要な手段を導出できる点にある。
オムニチャネルのデータを例に説明しよう。
オムニチャネルのデータには、「¥」、「%」、「年」、「回」などさまざまな単位がある。また、商品知名度のように、「広告量や露出頻度、出稿間隔」、「店舗における陳列状況」など多種・多様な要素が経年変化する特性を持つ。
キャンペーンの結果についても、リコメンドの有無、曜日別、タイムセールの状況、イベント内容、口コミの量や内容など、多くの要因が複雑に影響し合っている。このような複合情報に代表される「数字自体が持つ意味合いの違い」を、すべて無視して、これまでは分析されていた。
たとえば、購買金額1,000円とキャンペーン参加回数2回の集計データは「1,000」と「2」であり、数値が大きいほど強い影響をおよぼす従来の集計法では、「1,000」の方がより強く集計結果に影響する。実世界では金額単位データ(1,000円)以上に複雑な背景情報をもつキャンペーン参加回数が、一切不問扱いになってしまうのだ。その結果、ある店舗で顧客が1,500円分を購買したとすると、この顧客はこの店舗の主利用者という単純な事実結果の追認になってしまう。
実際には、キャンペーンに2回参加するに至った「商品イメージ内容」や「実施曜日」、「コンタクトポイント別での商品認知状況」や「購買態度変容」への影響などの多くの背景要因の関わりなどの「データの質的意義」こそ、最重視すべきだろう。
つまり、各情報がもつデータの質的意義を反映できるデータサイエンスでは、「1,500円の購買という顧客の行動のためには、どのようなタイミングで、どんな内容のイベントを、どのようなコンタクトポイント活用で、何回(有効なキャンペーン参加回数確保に必要な開催回数をキャンペーン参加率から逆算)、どんな商品イメージを、どのくらい強くイベント前に消費者に持たせる必要があるか?」など、本当に現場が知りたい、将来に向けた具体的な手段を、オムニチャネル・データ解析から一元的に導出できるのである。
以上のように、データの質的な意義を損なわずに、データの統合的な解析から、将来に向けた具体的な手段を導出できることが、データサイエンスのもつ最大の強みである。このようなデータサイエンス手法で現在最も有力とされている手法と言われているのが「n-dimensional analytics(n次元解析)」であり、これを用いれば多様な軸の特性を個別に反映させて解析できる。
4.データ・サイエンティスト
新しい手法が多いデータサイエンスから得られた示唆は、従来型の集計の専門家では扱えない。そこで不可欠になるのが、4つめのキーワードである「データ・サイエンティスト」だ。データ・サイエンティストとは、データをデータサイエンスで解析し、その結果を統計視点からではなく、CRM業務やマーケティング視点から合理的に解釈し、適切な手段を導出・示唆できる広範で学際的知見と能力を持つ新しいスキルを持つ人財のことである。
以上の話をもとに、「ポチらせる」ためのエスノグラフィーを実務面から再定義すると、「消費者の購買行動にかかわる網羅的な事象(ビッグデータ)から、消費者の購買行動の本質を視覚化できる合理的な解析手法(データサイエンス)を駆使し、最善の手段を見出すことができる人財(データ・サイエンティスト)が、購買行動の全体像を浮き彫りにすること」となる。
【次ページ】エスノグラフィーを活用した商品開発
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