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- 2024/07/12 掲載
BCGが教える「値付け」の極意、B2CとB2Bでの違いは何か?
B2Cのプライシング手法
前回は「値上げをタブー視してはならない理由」を紹介した。今回は具体的なプライシング手法について解説する。まず、B2CとB2Bのそれぞれの領域において少し具体的に見ていきたい。
プライシングといえば基本価格の変更を思い浮かべるが、プライシング施策はB2Cだけでも実に多面的だ。図表に整理したように直接的プライシングと間接的プライシングに分けられる。
直接的プライシング
たとえば、昨日スーパーで買った牛乳の値段を正確にいえるだろうか。その価格は税込みか、税抜きか。確信を持って答えられる人はそれほど多くないはずだ。プライスリコール(価格想起)の調査をしてみると、実際の価格と数十パーセント違うことも珍しくない。だからこそ、消費者調査を通じてプライスリコールや支払意思を正しく理解し、それも踏まえて値付けすることが重要になってくる。
プライシング戦略の基本としてPOSデータや消費者調査などを利用した科学的分析が重要である。商品の中には顧客の価格認識(「あの店は高い/安い」など)を形作っていくKVI(Key Value Items)と、その他の商品がある。KVIは旗艦商品、あるいは販促性や購入頻度がきわめて高い商品で、たとえば家電量販店におけるテレビ、コンビニにおけるコーヒーや定番おにぎり、飲食店におけるランチセットなどがあてはまる。
分析によりKVIを特定し、KVIについては競合も見ながら集中的に勝負をかける一方、その他の商品では賢明に利益を確保していくメリハリのある戦略が必要だ。KVI自体は以前からよく知られたコンセプトだが、実態として多くの企業で戦略的にKVIが設定されてはいない。競合を意識するあまり何もかもがKVIとなっている状態が散見される。
前述のWTPについても消費者調査を通じて科学的に分析すると、今まで見えていなかった顧客の実態が見えてくる。「高くなったと感じるが買ってもよい価格」「値段が高すぎて買うのをやめる」などの指標から立体的にWTPを算出し、実際の価格との間のギャップを把握する。これが最初のプライシングの改善機会となる。
もちろん前述のようにギャップをすべて企業の取り分として価格に反映するのがよいとは限らないので留意すべきだ。また、企業が同じ商品だと思っていても色や味などの違いにより、顧客が感じる価値、WTPに差がある場合もある。
さらに、WTPには多くの場合、いわゆる「崖」が存在し、一定の値段を超えるとWTPが急激に落ちる現象がさまざまな商品カテゴリーで観察されている。このような分析を適切な粒度で行うことで、消費者が感じている価値を解明し定量化していくことができる。
価格を変えることで販売数量がどれだけ変化するかという「価格弾力性」を科学的に分析する手法も一般的だ。過去の値上げ・値下げ時にどれくらい需要が実際に変化したかは、将来の値段を考えるうえでも最も有益な示唆のひとつだ。また、パイロットテストで価格弾力性を測ってみるのも、値段が適正かを判断する有益な材料となる。
さらに、近年急激な進化を遂げているAIなどデジタルを活用すれば、従来はできなかった高度なプライシングが可能になる。需要変動に応じて価格を変えるダイナミックプライシングは、航空運賃やホテルなどでおなじみだが、テーマパークや、一部の高速道路などにも適用範囲が広がっている。
別の側面として、マークダウン(セール・値下げ)の最適化もある。企業にとって、不良在庫を抱えたり廃棄損を出したりしないために、価格を調整して商品をなるべく売り切る必要がある場合もあるが、そのタイミングや値下げ幅の見極めは難しい。
多くの場合、担当者が売れ行きを見ながら感覚的に判断したり、この時期になったら何%値下げするなどのルールをつくって対応したりすることになる。すると、売れ残ったり、不必要に値引きしすぎたりする失敗が生じやすい。
BCGの経験では、固定ルールや人の判断だけで値引きしている場合と、過去データを見ながらAIがタイミングや適切な値引率を予測し、それを現場の感覚知と掛け合わせた場合とで比較すると、後者のほうが収益性が15%以上高かった。このようにテクノロジーを活用しながら科学的にマークダウンを行い最適化を図ることも、収益性向上に大きく寄与する。
いずれにせよ、すべて一律の価格という考え方から脱して、商品・サービスの(サブ)カテゴリー、特性、顧客セグメントなどに応じて、多様な戦術を使いこなすことが大切である。 【次ページ】B2B領域を含む「BCG流値付けの極意」を紹介
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