0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
儲かる小売店をつくるためのポイントを解説する本連載。
前回の記事では、「たくさん商品を買ってくれる消費者=優良顧客」として、そうした顧客の声だけを参考に売場作りを進めると、「面白味に欠ける売場」になってしまう可能性があることを解説した。なぜなら、購買金額が多く来店頻度が高い消費者の中には、「こだわりを持って、その店を選んでいる顧客層」だけでなく、単に「家から近いからその店を選んでいる顧客層」も含まれるためだ。そのため、購買金額の多い既存の顧客層だけを分析していても、良い売場は作れないだろう。それでは、小売店はどのような顧客の目を付け、アプローチをしていけば良いのだろうか。
小売店が注目すべき「情報先端層」とは
小売店が注目すべき顧客層として、食や買い物に対する感度が高く、知人にそれを伝えるのがうまい顧客、いわゆる「情報先端層」の顧客が挙げられる。
このような情報先端型の顧客が、知人や友人に「あの店すごく良いよ」と口コミを広め、結果としてその店の新規顧客が増えた場合、こうした情報先端型の顧客も「自店をすすめてくれた優良なお客さま」と考えることができる。
つまり、小売店がこれまで優良顧客としてきた「来店頻度が高く、購買金額も多い既存の顧客」にアプローチするだけでなく、こうした情報先端型の顧客に目を向けることも、小売店の売上を伸ばす上で重要になる。
今回は、そうした情報先端層の顧客が、買い物においてどういった特徴を持つのかを解説したい。
情報先端層のタイプ分け
情報先端層の消費者の具体的なタイプとして、「イノベーター」「オピニオンリーダー」「マーケットメイブン」が挙げられる
(注1)。
注1:Clark, Ronald A. and Ronald E. Goldsmith (2005), Market Mavens: Psychological Influences, Psychology & Marketing, 22(4), 289-312.
イノベーターは「いち早く新製品を採用する」というのが大きな特徴であり、オピニオンリーダーは「ほかの人々への情報発信力が強い」というのが特徴である。
マーケットメイブンは、イノベーターやオピニオンリーダーの理論に対して比較的新しい考え方である。オピニオンリーダーは特定の商品領域の中で、ほかの購買行動に影響を与える人々を指すのに対し、マーケットメイブンは多くの種類の商品や店舗などのマーケットに関する情報を持ち、人々が欲する情報に対して返答できる人である
(注2)。
注2:Feick, Lawrence F. and Linda L. Price (1987), The Market Maven: A Diffuser of Marketplace Information, Journal of Marketing, 51(1), 83-97.
マーケットメイブンと同様に、一般消費者に比べて先端的な消費者を表すコンセプトとして、「リードユーザー」というタイプもある。リードユーザーは、トレンドの先端にいる、イノベーションによる期待利益が高いユーザーと定義されており、新製品開発段階においてユーザーの考えや行動特徴を加えることの意義を示すために提唱された概念である
(注3)。
注3:von Hippel, Eric (1986), Lead Users: A Source of Novel Product Concepts, Management Science, 32(7), 791-805.
【情報先端層の消費者の具体的なタイプ分け】
- イノベーター
いち早く新製品を採用する層。
- オピニオンリーダー
特定の商品領域の中で、ほかの購買行動に影響を与える人々。「ほかの人々への情報発信力が強い」という特徴。
- マーケットメイブン
多くの種類の商品や店舗などのマーケットに関する情報を持ち、人々が欲する情報に対して返答できる人々。
- リードユーザー
トレンドの先端にいる、イノベーションによる期待利益が高いユーザー。企業が新製品を開発する際に、有益なヒントを与えてくれる。
情報先端層の消費者として、イノベーター、オピニオンリーダー、マーケットメイブン、リードユーザーを取り上げたが、これらの特徴を整理すると、まずイノベーターは、早期に製品を採用したか否かに焦点が当てられている。
これに対し、オピニオンリーダーは他者への影響力に焦点を当てられているが、その影響の範囲は特定の商品カテゴリーに限られている。
マーケットメイブンは、オピニオンリーダーと似たコンセプトであるが、商品カテゴリー横断的な幅広い知識を持ち、全消費者の中に占める人数も多く、一般消費者のコミュニティの中でうまく情報を拡散させることができる。
リードユーザーは、企業の製品開発面に貢献できる消費者であり、一般消費者への情報発信力という点での影響力は他のタイプに比べて弱い。
このように、情報先端層の消費者のタイプは色々あり、また、タイプ間で細かい特徴の差異や測定方法の差異があるものの、一般的な消費者層に対して影響力を持つ層であるということが根本的な共通点である。
今回、日々の生活の中での買い物行動という部分での情報先端層の消費者を見ていくのであれば、一般消費者との親和性がより強い「マーケットメイブン」をここでは「情報先端層」とみなし、以降では彼ら・彼女らの買い物行動における特徴について見ていきたい。
情報先端層の「5つの特徴」とは
ここからは、筆者が実施した情報先端層の顧客(以下、先端層)と、一般層の顧客(以下、一般層)の買い物行動の比較に関する研究結果をいくつか紹介したい
(注4)。
注4:研究結果の詳細については拙著(2019)『スーパーマーケットのブランド論』千倉書房,に掲載しているので参照されたい。
1つ目は流通経済研究所との共同研究として行った「先端層の業態・店舗選択行動」についてである。ここではスーパーマーケットにおける買い物行動(買い物頻度、候補店舗数、業態への期待、最頻利用店への評価など)に関するアンケート回答データを用いて分析したが、その結果となる一般層に比べての先端層の特徴ポイントとして、以下が明らかになった。
■先端層の特徴
- スーパーに買い物に行くペースは同じだが、買い物候補にしている店舗数が多い
- 店舗立地や価格、品揃え、売場作りに関する評価点が全般的に低い
- 価格が安いのも大事だがそれ以上に鮮度が大事と捉えている
- ポイントサービスにはなびかない
- 満足しているスーパーに対して、買い物を実用面だけでなく「刺激を得る場」「選ぶ楽しさがある場」といった情緒面でも評価している
これらの結果から、先端層は色々なお店を買い回っているため見る目が厳しく、ポイントサービスにはなびかないし、またスーパーでの買い物に刺激や楽しさを求めていることが分かる。
では、これらの先端層は友人や知人とどういう情報のやり取りをしているのだろうか。2つ目の研究結果として、あるメーカーとの共同研究として行った「先端層の影響力」について紹介ししたい。
【次ページ】口コミしてくれる情報先端層の「影響力」とは?
関連タグ