- 2013/06/21 掲載
【岩崎大輔氏インタビュー】団塊ジュニア世代の共通体験は『少年ジャンプ』──キーパーソンを今も支える漫画の力(2/2)
負ける側へ感情移入してしまう
──岩崎さんの好きなジャンプ漫画やキャラクターは? 本書の著者プロフィールでは「『ドラゴンボール』のベジータ」となっていましたが。岩崎氏■私は基本的に負けっぷりのいい人が好きなんです。魔人ブウ編での犬死に(息子トランクスとの感動的な別れを経て、ブウを倒すために自爆。しかしブウはすぐに復活する)は見事としかいいようがない。ベジータはプライドが高くて、それゆえ悟空に対して異常なコンプレックスを抱いていて、妙に人間臭いところもありますよね。まあ、漫画で読んでいるからかわいらしいですけど、実社会にいたらウザイですよ。人造人間・セル編でも、己の力を過信してセルを完全体にしちゃうし、取り返しのつかないことをしておいて、自分はくたばっている(笑)。
──困った人でしたよね。ベジータ以外では?
岩崎氏■クリリンですかね。クリリンって初登場のとき、滅多なことでは弟子を取らない亀仙人に対して、エロ本をワイロ的に渡して取り入ろうとするじゃないですか。あと、マジックで「亀」と書かれた石を見つけなければいけないという修行でも、ズルしようとてそこらにあった石に自分で書いたり、悟空から横取りしたりと、随分とこすっからい小僧でしたよね。それが徐々に成長していって、いつしか地球人最強になっている。
──しかも、僕が『ドラゴンボール』の作中で最も可愛いと思っているキャラと結婚しましたからね。
岩崎氏■おいしいですよね。ごく初期から悟空の隣にいて、ライバルポジションであり親友ポジションで、ナメック星でも活躍して。実力的には悟空やピッコロに遠く及ばないけど、気円斬みたいな切り札になる必殺技もある。
──気円斬はナッパをビビらせたり、フリーザの尻尾を切り落とす程度の攻撃力はありますしね。親友ポジションだけあって、悟空がスーパーサイヤ人に覚醒するスイッチにもなっていました。
岩崎氏■やっぱりエロ本をダシに弟子入りするセコさが、自分と似てるところがあっていいなと(笑)。でもね、そういう入り方ってあるじゃないですか。狭き門でも、正面からは無理でも裏口がちょっと開いてるかもしれない。希望する企業に入れないから絶望するんじゃなくて、なにか社会経験を積んでから入るとか、やりようはあるんじゃないか。クリリンには、そういうしぶとい生き方を見ましたね。ヤムチャはとっくに死んでても、クリリンは闘ってる。
──ヤムチャはねぇ。強さのインフレが物語で起きている中、真っ先にふり落とされてしまうので……という具合についジャンプ語りをしてしまう。本の帯で社会学者の古市憲寿さんが「いい大人たちが、長々と漫画のことを話している。いいなあ」と書いてらっしゃいますが、黄金期のジャンプを知る者としては、ノスタルジーを刺激されます。
岩崎氏■当然といえば当然ですが、やはり私たちの世代の男性は非常に食いつきがよいです。全盛期のジャンプは、連載ラインナップが驚異的なまでに強力だったことに加えて、当時は漫画以外の娯楽も少なかったですからね。ネットも携帯電話もないし、情報を得る手段も限られていました。小学生のときテレビで世界のサッカーを見ようと思ったら、夜中の2時とか3時まで起きてなきゃいけなかった時代です。ほかに興味を向ける対象が少ないから、ジャンプに集中しちゃう(笑)。
──ええ、巻末の「ジャンプ放送局」までくまなく読んでいました。
岩崎氏■入れ込み具合がハンパないですよね。『キャプテン翼』なんて、別に超人でもなんでもない小学生が平気で3メートルくらいジャンプして、オーバーヘッドキックを決めているわけじゃないですか。それでも当時はみんな翼くんや日向くんに仮託して、常軌を逸したプレーに憧れて、肩を脱臼したりしていた。
──立花兄弟のスカイラブハリケーンに挑戦したり。日本中で多くの子どもたちが、負う必要のないケガを負っていたはず。
岩崎氏■アホですよね。でも、そういうデタラメがかつての漫画にはありましたし、私たちもそれをかっこいいと感じていた。いまの漫画はディテールやリアリティにこだわったり、時代考証にすごく気を遣ったり、あるいは読者サイドから設定の粗にツッコミが入ったり。ちょっと言葉は悪いですけど、なんだかせせこましい感じはしますよね。
──出典は「民明書房」(『魁!!男塾』に登場する架空の出版社。同社の刊行物を引用する形で、作中における荒唐無稽な武術などの存在を裏付けていた)でいいじゃないかと。
岩崎氏■そうそう。フィクションとして、物語として面白ければ嘘っぱちでかまわない。ボスキャラとして登場した大豪院邪鬼だってあれくらい巨大なほうがインパクトあるし、死んだはずの富樫や雷電がケロッと戦列に復帰したっていい。漫画なんですから。とはいえ、いまの子どもたちにとって当時のジャンプ漫画が面白いかというと、いささか疑問ですよね。セリエAやプレミアリーグでスカイラブハリケーンを繰り出す選手なんて実際にはいませんし(笑)。
──かつてのジャンプ的な世界観は、いまの世の中には通用しにくくなっているかもしれませんね。
岩崎氏■ざっくりと言えば、世界が細分化して、いわゆる「大きな物語」が成立しない。漫画自体も子どもだけが読む物ではなくなって、ニッチな職業漫画みたいなものも定着していますよね。そうした多様な漫画を否定する気はありませんが、そんな状況下で万人を巻き込めるような王道の少年漫画って、なかなか難しいでしょうね。現在のジャンプの看板作品『ONE PIECE』は売れていますけど、あれだって15年以上連載しているわけですし、あとを引き継ぐ漫画も現れてこない。
そういう意味では、私たち団塊ジュニア世代がジャンプにハマっていた当時は、幸せな時代でしたよね。いま読んだら「バカだな~」としか思わないような荒唐無稽な物語をも信じきって、クラス中で話題を共有できていましたから。
──先述の古市さんも、裏表紙の帯で「もはや、漫画さえも共通体験にならない僕から見ると、うらやましい」と。この古市さんは85年生まれで、同じく帯文を書かれた小説家の畑野智美さんは79年生まれ。団塊ジュニアより下の世代のおふたりに帯文を依頼したのには、なにか意図が?
岩崎氏■若い世代の人たちが前向きになれる社会にしたい、というのが根っこにはあります。だから、自分より若くて活躍しているお二人にお願いしました。
この本に登場してくださったみなさんは、飲み屋でクダをまいたり、説教ばかりたれているおじさんとは違う、背中で語ることのできる大人なんですよね。彼らの背中を通じて、「いまの日本も捨てたもんじゃない」「おじさんたちもかっこいいね」ってちょっとでも思ってもらいたい。就職活動に行き詰まったり、自分の仕事に結果が伴わなくても、どこかで知恵を絞れば意外となんとかなる。下を向いて「失敗したらどうしよう」とか「僕の人生、もうダメかも」って悩むヒマがあったら、動こうよと。人生なんて失敗だらけなんだから。いま40歳前後で成功している人だって、若いときに必ず修羅場をくぐっています。
──本書の中で一直線にエリートコースを歩んできた方はひとりもいません。それは岩崎さんがそういう人選をしたからというのもありますが、みなさん挫折を経験なさっていますね。
岩崎氏■成功している人でも、トントン拍子で現在の地位を手にしたわけではないですからね。彼らの生き様を見て、「オレも胸を張って生きていこう」と思う若者が増えてくれれば、著者としては満足です。
(取材・構成:須藤輝)
1973年、静岡県三島市生まれ。講談社『フライデー』記者。政治やスポーツをはじめ幅広い分野で取材を行う。著書に『ダークサイド・オブ・小泉純一郎 「異形の宰相」の蹉跌』(洋泉社)、『激闘 リングの覇者を目指して』(ソフトバンク クリエイティブ)、『団塊ジュニア世代のカリスマに「ジャンプ」で好きな漫画を聞きに行ってみた』(講談社)がある。
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