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- 2013/10/08 掲載
【八代嘉美氏×海猫沢めろん氏インタビュー】「不老不死」は実現できるのか!?──人気作家が再生医療の研究者に本気で聞いてみた
『死にたくないんですけど』著者 八代嘉美氏×海猫沢めろん氏インタビュー
フィクションと生物学が交差する
──本書は、「死にたくない!」と願う海猫沢めろんさんが、iPS細胞や再生医療に詳しい八代嘉美さんに、ずばり「不老不死は実現可能か」という質問をぶつけた本ですが、そもそものきっかけは?海猫沢めろん氏(以下、めろん氏)■もともと僕は、ジャンルとしての「生物モノ」にまったく興味を持てなかったのです。あらゆるジャンルの中で最も興味がなかったと言ってもいいくらい。というのも、生物学系の本って、何を読んでも頭に入ってこないというか、自分の中でひどく情報消化率が悪かったんですよね。それが、2012年に邦訳版が出た、マーカス・ウォールセンの『バイオパンク──DIY科学者たちのDNAハック!』(NHK出版)という本を読んで、生物学に対する印象がガラリと変わりました。
──音楽の「パンク」にも通じるDIY(Do It Yourself=自分でやろう)精神あふれる在野の科学者たちが、自宅ガレージで日夜独自の研究をおこなっているという。
めろん氏■その本では、70年代にスティーブ・ジョブズがガレージでパソコンを作っていたような、ITの黎明期みたいなノリで生物学を紹介しているわけですよね。クローゼットで遺伝疾患について調べたり、キッチン台でがん細胞の研究をしたりする「バイオハッカー」と呼ばれる人たちが出てきて。
──「生物学」というと、国がお金を出して、立派な研究機関があって……みたいなイメージがありますもんね。
めろん氏■だから、「ここから何かものすごいことが始まるんじゃないか」って、いまからキャッチアップしておいたら絶対に面白いはずだと。で、僕の友人でもある八代さんに話を聞いてみようって思ったわけです。
──それを受けて八代さんは?
八代嘉美氏(以下、八代氏)■私はこれまで、一般向けにiPS細胞や再生医療に関する本を2冊ほど書いているんですけど、やはりこういった題材は、興味のある人“以外”に訴求するのがなかなか難しいんですよね。そう考えると、めろんさんはラノベから純文学まで、いろんな形で文学の世界で名前が通っている、つまり広い読者層を持っているから、めろんさんと一緒に話をすることで、生物学に興味がない人が生物学に触れるきっかけになるのではないかと。それから、文学って、「「生きている」とはどういうことか?」みたいなものがひとつのテーマとしてあるじゃないですか。そうした形而上的な考えと、科学的な「生命のあり方」みたいなものって、本当は同じ所から出発したはずなのに今ではかけ離れたもののように思われている部分がある。だから両者をつなげるうえでも、めろんさんみたいな人との対話は意味があるんじゃないかと。
──おっしゃる通り、作家であるめろんさんと、生命科学の研究者である八代さんの、いわばロマンチストとリアリストの対話は、おふたりの感覚や認識のズレも含めて非常に面白かったです。お互いにとって話してよかったことは?
めろん氏■ディテールの話がいろいろ聞けたことですかね。小説を書くときって、細かいことは飛ばしちゃうんですよ。面倒臭いから(笑)。
──面倒臭い(笑)。
めろん氏■面倒臭いし、そういうのってある種実用書的な情報だから、わざわざ書く意味があるのかなって。僕としては、ナントカ細胞がああしてこうして……っていう情報よりも、とにかく「すごい細胞」があって、そこから「新しいものが生まれました!」ってところだけ知りたい。でも、たとえばSFの世界って、そのディテールにこだわる人が多じゃないですか。生物学も同じで、ここまで細かく説明しなきゃいけないんだな、大変なんだなって思いました。
八代氏■私の場合は、ひとつは世の中のニーズというか、一般の人が科学というものをどう理解していて、何を求めているのかを再確認できたことですね。ただ、本の中で「アミノ酸サプリは脂肪の燃焼を助けるのか?」みたいな話もしていますけど、「○○は××の役に立ちますよ」的な、実利的な部分を説明するのは容易いんです。重要なのは、その結果、何がどう変わっていくのかというビジョンを提示すること。それができないと、自分は何のためにその研究をしなければならないのかが言えなくなってしまう。より現実的な話をすると、たとえば「基礎研究費を削減しなさい」とのお達しがあったとき、明確なビジョンがないと説得力のある反論ができない。そういうことも改めて確認できました。
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