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  • 2008/03/25 掲載

ひろさちやの究極の人生相談:囚人たちのためのルールブック

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宗教評論家のひろさちや氏が、仏教の智恵という視点から、読者に現実の諸問題を主体的に考えることを促す書籍『ひろさちやの究極の人生論』(ソフトバンク クリエイティブ)。この連載では、ビジネスにおいて興味深い内容を抜粋して紹介する。
執筆:ひろさちや

その任にない仕事をやってはいけない

【質問】
お客様第一主義と社長は力説するが、顧客というものは我がままなものだ。本当に、1から10まで言うことを聞いていたのでは、コストもかかるし、仕事も進まない。だからこれからは部下には、お客様重視もほどほどにして、うまくガス抜きをして、お客を誘導しろと指導しようと思っている。本当に社長は現場のことを何もわかっていない。


【答】
 米国のあるビジネススクールで、宿題が出た。「あなたは労務担当部長である。社長から、次期社長の養成法に関して試案を作れと頼まれた。どうしますか?」といった内容であった。ある日本人留学生は、一所懸命に回答を考えた。さまざまなプランを練った。その結果、徹夜近く頑張って、レポート用紙何十枚にもわたる力作を仕上げた。ところが、ほかの人間はほとんどレポート用紙1枚しか提出しない。しかも文言は短い。それで返ってきた自分のレポートの点数はほぼ0点という惨状だった。彼は講師に食ってかかった。するとその講師は、100点のついたレポートを見せてくれた。それにはこう書いてあった。

 「次期社長の養成について責任を持っているのは、現在の社長である。したがって、私の仕事ではないから、お断りすべきである」というものだった。

 これはギャグや引っ掛け問題ではない。つまり、労務担当部長の仕事とは何かということだ。この話と同じだ。この人の役職はわからないが、「お客様第一主義がいいのか、悪いのか」を判断するのがこの人の役割なのか。この人が考えるべき問題なのか。

 あるチェーンストアで、たとえば店舗数目標を3年後に3000店と掲げたとする。そのときに、ある店長が「その目標は達成不可能なのではないか。目標を2000店に下方修正すべきだ」といったことを考えても仕方がないはずだ。

 言いたいことは、自分の仕事をやりなさい、ということだ。

 『論語』にも、以下のように書かれている。

 〈 子曰く、其の位に在らざれば、其の政を謀らず 〉(泰伯14)

 「その地位にいるのでなければ、その政務に口出ししてはならない」といった意味だ。言い換えれば、「あなたの仕事をしっかりわきまえて遂行しろ。その任にないことを行うのは越権行為だ」ということになる。

 英語にも、Mind your own businessという言葉がある。「要らぬお節介を焼くな!」といったほどの意味だ。これが『論語』の基本的態度なのだ。

 だから、社長が「うちの会社は顧客第一主義でいく」という方針を出したとすれば、それについてとやかく言う権限は中間管理職にはない。それが嫌だったら、その会社を辞めなさい。

 ところが日本人は皆、自分がお偉いさんになったつもりで論評し、判断する。これは会社だけの話ではないでしょう。

 政治の問題についてもそうだ。我々は政治家を税金で雇っているわけだから、政治にかかわる問題は彼らに解決させればいいんだ。

 たとえば、「いじめはどうしたらなくなりますか」といった質問を私もよくされる。私は決まって、「それは政治家の仕事だから、彼らに考えさせろ」と言う。宗教家である私に、なぜそんな質問をするのだろうか。 「宗教家は、いじめをなくそうとしてはいけない」。そう言うと、聞いた人は皆、びっくりする。その心はね、いじめは昔からあったものだからなんだ。同じように、殺人も昔からあったし、泥棒も昔からあった。だから、私たち宗教家の仕事はいじめをなくすことではない。仮に、いじめをなくそうとしたらどうなるか。なぜいじめが発生するのか、誰がいじめたのかという犯人追及になる。その結果、犯人を追い詰めていじめることになったり、いじめられている人間に、いじめられる原因があったことがはっきりしたりする。そうなったら、いじめられている子は、余計いじめられる。

 では、私たち宗教家はどうすべきなのか。昔はいじめをかばう子供がいた。今の世の中の問題は、いじめがあることではなくて、いじめをかばう子供、人間が少なくなったことなんだ。この、かばう子供、かばう人間を多くしていくのが、宗教家の仕事だ。そういうふうに、自分の立場をしっかりとわきまえて、問題について考え、対処すべきなんだ。

 政治家の立場は違う。政治家は「いじめは昔からあった」ではすまされない。そんなことを言う政治家もいるけど、あれはおかしい。政治家はそんなことを言ってはいけない。政治家は、無理だとわかっていても、少しでもいじめを減らすように努力しなければいけない。

勇気がない人間を「奴隷」という

【質問】
社内に不祥事を見つけてしまった。公になると関与した同僚たちが処罰されるだけでなく、監督官庁からもお叱りを受け、下手をすると会社が行政処分などを受けるかもしれない。告発すれば、私も周りから冷たい目で見られるだろう。就業規則には内部通報者に対して不利益な処分をしないという規定があるとはいえ、内部告発をする勇気がない。このまま黙っていた方がいいのか。


【答】
 自分でわかっているように、この人には勇気がないんだ。勇気のない人間を、奴隷と言うんだよ。社奴とか、社畜という言葉がある。会社の奴隷、あるいは会社に飼われている家畜、いずれにしてもクズだね。

 こんなことを言うと怒られるだろうけど、今のビジネスパーソンは、だいたいがクズだ。何も迷うことなく、内部通報しなさいよ。そして、監督官庁に告発する。食品業界や建築業界、介護業界など、いろんな不正事件が発覚しているけど、ああいうことは多分、慣習として昔からあったことで、経営者はもちろん、社員も皆知っていたはずなんだ。

 それを黙っているというのは、それだけで犯罪だね。皆が卑屈になって、解雇されたくないと思って黙っている。トカゲの尻尾切りで済まされる話ではないでしょう?おかしいよね。

命令であっても説明を求めなければ同罪だ

【質問】
新聞記者をやっている。最近、不満を感じるのは、他紙とは違う記事を載せなければいけないために、重箱の隅を突っつくような取材活動をせざるを得ないことだ。その上で、スクープなどそうざらにないから、どうでもいいことも大層なことのように表現する。コメンテーターの発言もかなりの偏見で編集する。法律に違反した人や企業のやることは、何でもかんでも悪いこと。正直、「それはどうでもいいじゃない。別にそれは悪いことではないでしょう」と思うことも批判しないと怒られる。こんなことで、マスコミは本当にいいのだろうか?売上部数や視聴率って、そんなに大事なものなのだろうか?


【答】
 戦争中に上官の命令で軍事作戦を遂行する。第二次世界大戦後に、ナチス・ドイツの戦犯を裁く際に、「自分は反対だったけど、上官の命令で私はそうせざるを得なかったのです」と皆一様に言い逃れをしたので、戦犯が十分に裁けなかったそうだ。このことは、後に問題になった。フランスを中心に論議が起こって、その後、この問題について欧米ではコンセンサスが得られた。

 それはどういうものかというと、軍隊において、「ある作戦の指令が出た場合には、部下は上官の命令にきちんと従わなければならない。しかし、作戦終了後、部下には上官に、なぜあんな命令を出したのかという説明を求める権利がある。上官にはそれに答える説明義務がある」というものだ。

 戦場で、もし非武装の市民を殺せと上官から命令されて、その場で反抗したら、自分が銃殺になるかもしれない。だから、やるしかない。しかし、その後にそのことを公表して、なぜ非武装の市民を殺す必要があったのか、そんなことが許されていいのかと説明を求めることは許される。それをしなかったとすれば、その人間が殺人犯だ。

 この新聞記者は、そのことを知らないようだ。社の方針で、「こういう記事を書け」「こういうコメントを取ってこい」と言われたら、たとえそれが自分の意に反すること、方法であっても、その指示に従わなければならない。しかし、その取材なり仕事が終わった後で、「うちの会社は(あるいはこの編集部は)、なぜこんな記事をつくろうとするのか」という説明を求める権利がある。

 もし、その権利を行使していないとすれば、それは自分の怠慢であって、同罪になる。自分の意に反するならば、はっきりとした説明を求める。その説明義務がもし果たされなければ、あるいはその説明にどうしても釈然としなければ、その会社を辞めるべきかもしれない。この人は、そうした権利も行使していないのじゃないかな。そうだとしたら、新聞記者として恥ずかしいよ。ふだんから編集会議で、「なぜそんなことをやる必要があるのか」と説明を求める機会はたくさんあるはずだよね。

 どんな仕事でも同じだと思う。悪徳商法も同じだ。売ってこいといわれて、その場で拒否できなくとも、なぜそんなことまでするのかと、経営方針に文句を言えばいい。それもせずに、そこに勤め続けているのならば、それは社長と同罪だと思う。

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