映画『大鹿村騒動記』監督・脚本:阪本順治氏×脚本:荒井晴彦氏
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2011年7月16日公開の映画『大鹿村騒動記』。この作品をめぐって阪本順治監督と、阪本監督とともに脚本を執筆した荒井晴彦氏に対談をしていただいた。映画、脚本、人間関係など話題は多岐に渡った――。
映画のあらすじ
妻(大楠道代)と幼なじみ(岸部一徳)が、嵐の夜に駆け落ちし、村から出て行ったのは18年前。残された亭主(原田芳雄)のもとには、離婚届が送られてきたきりで、その後音沙汰ナシだった。そんな2人が、長年続く村歌舞伎の公演を控えたある日、ひょっこり村に戻ってくるところから起きる物語が映画『大鹿村騒動記』だ。
妻が認知症の兆候を示し、もてあました友は「返す」と亭主にいう。モノじゃないんだと怒るものの、亭主はとまどいつつ妻も友も受け入れてしまう。原田と岸部、大楠。ベテラン俳優の三角関係を演じる、奇妙な魅力が交じり合い、シリアスコメディな展開をみせ、遺恨を越え「ありえなそうだが、あったらいいよな」と希望を抱かせもする、大人の映画になっている。
実際、映画の製作過程で面白いのは、10年前に映画の製作をともにしたことから決裂した荒井晴彦と阪本順治が共同脚本に名を連ねていることだ。
(朝山実)
『大鹿村騒動記』公式サイト
10年前の『KT』のこと
──阪本順治監督×荒井晴彦脚本で製作された『KT』(注1)の完成後、絶縁状態にあったと噂された二人が10年の歳月を経て、新作『大鹿村騒動記』で共同脚本にクレジットされているのが業界の話題になっていますが。
阪本■先に、ぼくは『KT』に関して理由の如何の前に、荒井さんに謝らないといけない。あのときは荒井さんに連絡もしないで、現場で台本を直していったんです。それで、完成披露の日まではなんとか楽しく飲めるんじゃないかと思っていたんですが、実際には酒場で深作欣二さんを間に挟んで怒鳴りあった。深作さんは、寝たふりをされていましたけど(笑)。
──どうして連絡しなかったんですか?
阪本■お願いしても言うことを聞いてもらえないだろう。時間の猶予もなかったのと、自分が撮るかぎり、自分の生理にあわないものはできないというのもあって……脚本家としたら、相談してくれたらというのはあったのかもしれないですけど、荒井さんに対する先入観がそうさせたんですけどね。
荒井■あのときは、試写を観たとたん椅子から転げ落ちそうになった。俺もう脚本家やめようかと。
阪本■でも、やめてませんよね。
荒井■まあそれ以降ネットでも、阪本と俺は犬猿の仲ということになっているんですよ。だけど、絶縁というのはちょっと違っていて、行き付けの酒場が同じなんで、会ったら一緒に飲んだりはしていたよな。
阪本■しかし、撮る映画はことごとく酷評されましたけど(笑)。
荒井■見るたび、なんでちゃんとした脚本でやらないんだろうと思い、俺に書かせればと思う。だから酷評になる。
阪本■もう辛らつですからね、荒井さんとやろうと思うと監督は大変なんですよ。
荒井■そういうことを言うから、俺のところに仕事が来なくなる。風評被害だよね。
──犬猿の仲ではなかったにしても、いったんこじれた関係であることにはかわりないんですから、あらためて仕事を依頼するのは気が重かったのでは?
阪本■荒井さんの家で脚本を練るんですが、あのときは『荒井さん、コーヒーは何がいいですか?』と訊いたりして、機嫌をとろうとする。なんていやらしいんだろうと思う自分がいて、ときには米を持って行ったりしてね(笑)。
まじめな話をすると、今回は原田芳雄さんで1本撮るというのがまずあって、ただ自分1人で書き切れそうにない。じゃ誰と組んだらいいんだろうというので、原田さんの世代の物語を書ける人、しかも芳雄さんの不良性を受け止めることのできる人ということで探したら、ここは荒井さんだなぁと。
あのときの断絶を回復できるんであればというのは、ありましたよ。でも、関係性の修復自体は、あとからのことで。とはいえ、度胸はいりましたよ、声をかけるまでに。
ただ、前回の『KT』と違うのは、暗いトーンで終わる話ではなかったこと。基本は喜劇ですから。それはそれで、この人に、人を笑わせることができるんだろうかという心配はありましたけどね。
荒井■撮影所の時代を知っていますから、当時はなんでもこなせてこそプロとされていた。だから、なんでも発注されたものは書けなきゃダメだと思っていて。そうは言っても嫌いな喜劇というのはありますよ、三谷幸喜の映画はヒットするけど、俺は全然笑えない。
阪本■荒井さん、固有名詞を出すのは、ご自分の責任でやってくださいね(苦笑)。
注1:『KT』 旧KCIA(大韓民国中央情報部)が大統領候補を拉致したとされる金大中事件を扱った、2002年公開の日韓合作映画。監督は阪本順治、脚本は荒井晴彦。映画公開後、脚本を無断で監督が書き換えたとして荒井が阪本を批判したことでも話題になった。