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  • 2013/04/09 掲載

ブラック企業というジレンマ──容易に白黒つけられない就職の話

『大学図鑑!2014』監修者 オバタカズユキ氏 論考

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「大学図鑑!」シリーズ(ダイヤモンド社)の監修者で、沢田健太『大学キャリアセンターのぶっちゃけ話』(ソフトバンク新書)の企画・構成も行い、大学生の就職事情に明るいオバタカズユキ氏。各大学の就職力にも注目したという『大学図鑑!2014』の刊行を前にして、何かと話題の「ブラック企業」の問題についてコラムを書いていただいた。会社と学生それぞれのブラック企業に対する声とはどのようなものだろうか?

ブラック企業への関心の高まり

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『ブラック企業』

 インターネット上のスラングとして使われ始め、いつしかマスコミも好んで使用するようになった「ブラック企業」。2012年11月には、その問題の実態や構造を克明に描いた今野晴貴『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)が出版され、大きな話題を呼んだ。いまでは「若者」「就職」「仕事」といったテーマを語るのに、「ブラック企業」は欠かせない重要ワードだ。

 新書の『ブラック企業』は、一読をお勧めしたい力作である。新しいタイプの労働運動家といえる著者の主義主張に同意できるかどうかはともかく、この一冊を読めば「ブラック企業」のなんたるかをおおよそ理解できる。

 刊行まもなく読んでみた私の感想は、「ひどい世の中になっちゃったんだなあ」というものだった。我ながら芸のない感想だとは思うけれど、衝撃的な読書体験の直後にはそういう単純な言葉しか出てこないものだ。

 低賃金長時間労働で若手社員を「使い捨て」まくる。あるいは、大量採用した新卒社員を激務やハラスメントで追い込み、自己都合退職に至らせて「選別」する。そうした「ブラック企業」の残酷な仕打ちのせいで、大勢の若者が鬱病を患い、人生を壊されている。 読み進めるほどに、気分がドーンと重くなった。と同時に、該当企業の社長の顔や店構えを思い浮かべてはフツフツと怒りを覚える読書であった。

 ただし、である。立場が異なれば、物事の見え方はまるで違ってくる。当然と言えばそうなのだが、「ブラック企業」に関しては特にその傾向が強い気がする。

人事マンはブラック企業をどう捉えるのか

 例えば、こんなことがあった。ちょうど『ブラック企業』を読んだ頃に、人事マンたちが集まる酒席に参加し、そこでこの話題を振ってみたのだ。すると、すぐさま「いやー、ブラック企業には困っているんですよー」との声が返ってきた。「ブラック企業」の存在ではなく、その言葉や概念の広まりに困っているらしい。どういうことか?

「会社説明会や選考面接などの場で、学生に自社の紹介がやりづらくなっているんです。うちでは新卒採用のミスマッチを減らすため、会社説明会などで仕事のシビアな側面もできるかぎり伝えようとしてきました。ところが、ここ1、2年、そうした話に学生が拒否反応を示すんです。ちょっときつい現実を話すと、それはブラックということか、と引かれちゃう。就職活動生とのコミュニケーションが取りづらくなっています」

 企業名は伏せるが、私の知る限り「ブラック」とは縁遠い優良企業の新卒採用担当者が、そうぼやくのである。そして、これを隣の席で聞いていた、また別の企業の新卒採用担当者が「そう、その通り!」と話に加わってくる。

「ほんと、今の学生はブラック企業かどうかを気にしすぎで、困るんですよね。企業研究、業界研究もろくにやっていないのに、残業時間や3年以内離職率ばかりを知りたがる。それって順序が逆じゃないですか。微妙な話を引き出したかったら、こっちのことを最低限わかってからにしろ、って言いたいですよ。その手の学生は即刻ペケですね」

 うーん、おっしゃりたいことはわかる。けれども就職活動における学生は、企業と比べて絶対的な情報弱者であり、その弱者が勇気を出して残業時間や離職率を聞いてきたのなら、そこはできる限り答えてやるべきではないのか。この新卒採用担当者も「実は話のわかるいいおじさん」に見えたから、余計なお世話かもしれないが、私の意見を言ってみた。「それで即刻ペケというのは、まだ社会経験のない学生には酷じゃないですか?」。

 そうしたら、当人は「うーん」と考えこんでしまった。やっぱり「いいおじさん」なのだ。でも、こんどはテーブルの向こうから別の人事マンの声が飛んできた。「そーゆー学生の相手も懇切丁寧にできる時間と人と金、それがあったら私らの仕事は最高っすよねー」。

 酒の入っていたとはいえ、あきらかに私への皮肉だった。人を使う苦労を背負わずに済むフリーランサーは気楽でいいね、という視線をしっかり感じてしまった。私はひとまず聞き役に徹することにしたが、彼ら人事関係者の鬱憤はそうとう溜まっているようだった。酒席は、その後も熱い「ブラック企業」談義が続いた。

「マスコミが安易にブラック企業という言葉を使うからいけないんだよ」
「学生の母親が、うちの子の内定先はブラックじゃないかしらと心配し始めたりしてさ。もう集団ヒステリーの状態に近いよね」
「じゃあ、ホワイト企業の定義をしてみろって言うの。理不尽なことがまったくない職場があったとして、そこで社員は成長できるのかな」
 ……などなど。

 たしかに白か黒かを執拗に探られる立場からしたら、昨今の「ブラック企業」の話題の広まりは、迷惑千万に他ならないのかもしれない。意図的、戦略的に若手社員を「使い捨て」「選別」するような真っ黒な「ブラック企業」は実在する。そのこと自体はみなさんも認めていた。が、そういうやつらとうちらを一緒くたにしないでくれ、という不満や愚痴が、あの酒席では噴き出していた。

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