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- 2025/04/11 掲載
AIエンジニア安野貴博氏「通勤ルートを変えるだけで未来の見え方が変わる」と語るワケ
“手触り感”のある情報が差をつける
私は未来のことをあれこれ考えるのが好きです。何かを思いつくたびに、「これって、こういうふうになるんじゃないかな」などと、興味がありそうな人に聞いて回っています。そんな私ですが、何か特別な情報源を持っているわけではありません。皆さんと同じようにネットのニュースやSNSを見て、気になる情報や新しく発表されるプロダクトがあれば、それについてちょっと調べてみる。
そんなことなら自分もやっているよ、という声が聞こえてきそうです。
まさにそうなのです。私が特別な何かをしているわけではないのです。ただ、違いがあるとすれば、私はそこから一歩踏み込んで、興味が湧いたらなるべく手触り感のある情報を取りにいくことを心がけています。今や情報をどう処理するのかという点では差はつきません。だからこそ、入力情報で差をつけることを考えています。
たとえば、新しく発表された技術があれば、実際にそれを触ってみる。それをつくった人に話を聞きにいく。メディアで見聞きする情報は、誰かが加工した二次情報ですから、より一次情報に近い情報を取りにいったほうがよいということです。
実際に触れてみると、人から聞いたり、用意された説明を読んだりしただけでは見えてこないものが見えてきます。「すごくいい」と言われていたものが案外そうではなかったり、逆に、たいしたことないと思われていたものが、実はポテンシャルを秘めていたりといったことは、実際に触ってみてはじめて実感できます。その手触り感を大事にしています。
日本でVR(バーチャルリアリティ)が流行る少し前、世界に先駆けて6人同時プレーができるVRアトラクション施設Zero Latency VRができたということで、オーストラリアのメルボルンまで遊びにいったことがあります。ニュースで見るだけでなく、実際に体験してみたいと思ったのです。メルボルンの市内中心部から車で15分ほど離れた閑静な住宅地の中の、倉庫のような建物にそれはありました。
体験したのは、チームでゾンビと戦うシューティングゲーム。オキュラス社のヘッドセットと銃を受け取ります。バーチャルな空間の中でどのように銃の位置や向きが認識されるのだろうと思っていたら、天井にたくさんのカメラが仕込まれており、そこでプレイヤーの動きを捕捉しているようです。今では当たり前ですが、当時ここまでの大がかりなVR体験はほとんどありませんでした。
壁や他のプレイヤーに近づきすぎるとアラートが発せられるようになっていたり、臨場感を増すために扇風機で風をつくったりと、さまざまな工夫が凝らされていました。このような工夫は現地に行かなければなかなか知ることのできないものでした。こうした1つひとつの解像度の高い体験が未来を考えるときのヒントになります。
二次情報はみんな見ていても、一次情報をとっている人はなかなかいません。コストをかけてでも自分の五感で確かめることにこだわると、自分に入力される情報の差別化ができます。
いつもと違う行動をとることで「世界が拓ける」?
VRで遊ぶためだけに海外まで行くと聞くと、ものすごくハードルが高く感じられるかもしれません。でも、自分にとっては、街をプラプラ歩きながら、気になったお店に入ってみたり、書店で目についた本をパラパラめくってみたりすることの延長線上にあるのです。毎日できることもあります。たとえば、いつもとは違う気づきを得るために、通勤ルートを日々変えてみる。日々の生活を「毎日同じもの」と眺めていると、変化に鈍感になってしまいます。ルーチンから外れる面倒くささをちょこっと外してあげて、いつもとは違うルートで帰ってみたり、1駅手前から歩いたりするだけで、新たな発見があるものです。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』という、2023年のアカデミー賞で7冠を達成したSF映画があります。この作品における重要な設定に、「この世界には多数の宇宙が存在しており、どの宇宙でも『自分』が存在している。それぞれの宇宙の自分はまったく違う境遇にある」というものがあります(複雑で説明しづらいので、興味があればぜひ鑑賞してみてください。オススメです)。
面白いのは、物語の主人公エブリンは「別の宇宙の自分」に乗り移れる能力を持つのですが、この能力の発動には「できるだけ発生確率が低い行動(つまり突飛な行動)をする」ことが必要になります。左右の靴を履き換えたり、変なダンスをしたり、いきなり鼻くそをほじってみたり。論理的に非連続で、統計的にあり得ない奇妙な行動をとることが、遠くの世界の自分とつながり、新たな能力を得るカギなのです。
映画を見ながら私は、「これって現実でも同じじゃないか?」と感じました。遠くのどこかに行きたければ、新しい自分を見つけたければ、なるべく想像もつかない、発生確率が低いことをしなければなりません。「エブエブ」ほどでなくても、日常の中で何かいつもと違うことをするための習慣を持つようにすると、世界が拓けるのではないかと思います。
私はどこかに出かけたときに、行きと同じルートで帰るのがイヤで、なるべく別の道を歩くようにしています。人は行ったことのない場所へ行くと、より幸せを感じるという研究もあるそうです(注)。そういえば、都知事選挙への出馬を決めたのも、散歩中に妻と交わした言葉がきっかけでした。
散歩に加えて、大きい書店に行くのもよいでしょう。大きめの書店にはいろんなコーナーがあって、自分の知らない世界と出会えます。そこをグルグル見て回るだけで、最近こういうのが流行っているんだとか、この人はこういう本を書いているんだといった発見がある。気になった本の1ページ目をめくるかめくらないかでも、気づくことは変わってきます。
そうして何か気づきを得たら、少し先の未来を想像してみる。ペット向けのサービスが急増しているのを見て、今後ペットへの遺言書サービスも出てくるのではなどと考えられるかもしれません。
思いつきをほかの人に話してみるというのも有効です。話しているうちに、自分だけでは気づけなかった発想やフィードバックがもらえます。友人や知人を巻き込みながら、ぜひ自分なりの仮説をぶつけ合ってみてください。
私は年末にみんなで集まって、来年はそれぞれの業界で何が起きそうか、お互いに発表し合うという忘年会をやっていたこともあります。翌年末にまた集まって、発表内容が実際に当たったのか? を振り返ると学びも大きく、盛り上がるのでオススメです。
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