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「団塊ジュニア」とは、1971~74年に生まれた世代のこと。人口は多いがバブル景気の波には乗れず、不況や社会構造の変化に翻弄されてきた世代である。『団塊ジュニア世代のカリスマに「ジャンプ」で好きな漫画を聞きに行ってみた』(講談社)は、書名のとおりこの世代共通のバイブル『少年ジャンプ』を切り口にしたインタビュー集だ。「成功の秘訣」ではなく「好きな漫画」を聞くことで、40歳を迎える彼らの生きる姿勢をあぶり出した、同じく団塊ジュニア世代の著者・岩崎大輔氏にお話をうかがった。
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キラキラした人よりシブい人の話を聞きたかった
──なぜ『少年ジャンプ』(以下:ジャンプ)をテーマに取材を?
『団塊ジュニアのカリスマに「ジャンプ」で好きな漫画を聞きに行ってみた』
岩崎大輔氏(以下、岩崎氏)■私は1973年生まれなんですけど、自分を含む団塊ジュニア世代には、当然いろんな立場、経歴、肩書きの人がいますよね。大学を卒業して、山一證券や北海道拓殖銀行のような大手に入って一生安泰と思いきや、いきなり破綻してしまって(1997年)、そこから別の人生を歩むことになる人などがいる。一方で、団塊ジュニアはインターネットとビジネスを結びつけた最初の世代でもあるので、私と同い年の堀江貴文さんが代表的ですけど、ITの分野で華々しい活躍をしている人たちも多い。「勝ち組/負け組」なんて言葉が流行る風潮とも結びついた世代でもあるかと思います。
取材で同世代の人と会っても、見てきたものや体験したことはバラバラだとよくわかります。でも、話のとっかかりとして、たとえば「『北斗の拳』で誰が好きでした?」「雲のジュウザです」「どうして?」と聞いてみると、同じものを読んでいる経験があるので話が膨らみ、そこから相手のパーソナリティが見えてくるんですよね。
──僕は78年生まれで、団塊ジュニアのちょっと下の世代に当たるのですが、その感じはわかります。
岩崎氏■「『スラムダンク』の井上雄彦は、その前に『カメレオンジェイル』描いていたよね」やら、荒木飛呂彦だったら「『ジョジョの奇妙な冒険』もいいけど『バオー来訪者』と『魔少年ビーティー』も面白いよね」とか。自分たちの成長の足跡とともに読んできたので、同世代なら大半の人と盛り上がれるんですよ。
──ジャンプが共通言語として機能するわけですね。
岩崎氏■私たちのおじいちゃん世代なら、いたましい出来事ではありますが、みなさん戦争を体験されています。おじいちゃんたちが靖国神社で嬉々として軍歌を歌ったりするのも、あれはあの場を訪れる彼らの共通言語なんだなって。父親の世代なら、私の父は縁がなかったんですけど、全共闘などの学生運動を経験した人が多いですよね。ゲバ棒を持って云々みたいな思い出を飲み屋で目を輝かせて語ったりして。
──どこのセクトにいたとか。
岩崎氏■そういうかなりの広がりを持つ共通体験って、私たちでいえばジャンプだ、と思い当たったんです。で、企画書を書いたのですが、私には「『フライデー』の記者」という顔もあるわけですよ(苦笑)。『フライデー』の取材は断られるのが前提だから、そこはちょっと心配でしたね。特にヤフー副社長の川邊健太郎さんとか、ああいう最先端企業の経営陣として世間の関心を集めているような人は難しいかなと。
でも、あとで聞いたら、取材依頼のファックスを見たときから、「受ける、受ける! 絶対受ける!」とノリノリだったらしいんです。実際の取材でも、広報の人が時計を気にしだしても「いいから、もうちょっとだけ話す!」って感じでしたね。実は何人かに断られた場合に備えて、二の矢三の矢の候補を用意していたんですが、その必要はありませんでした。
──人選はどういう基準で? 俳優の山本太郎さんはメジャー感ありますけど、共栄ジムのトレーナー・新井史朗さんや、「ザクとうふ」を開発した相模屋食料社長・鳥越淳司さんなどは、知る人ぞ知る渋いメンツですよね。
岩崎氏■単純に私の趣味です。キラキラ輝く人よりも、いぶし銀の人が好きなので。たとえば団塊ジュニア世代のIT経営者っていうと、まずホリエモンが浮かんできます。でも、取材を始めたとき彼は刑務所にいたのでそもそも話を聞けなかったわけですが、仮に逮捕されていなくてもオファーしなかったと思うんですよね。それよりは川邊さんのように、ナンバー2の立場だけど、実質的に組織を回している人に当たりたいなと。
──ジャンプは、団塊ジュニア世代が少年だった80年代に300万部から500万部へと急激に部数を伸ばし、95年3-4号(発売は94年12月)で歴代最高部数653万部を記録しています。それを「共通体験」に見立てたのは着眼点としてキャッチーですし、みなさん積極的に取材に応じられたというのもよくわかります。
岩崎氏■「成功の秘訣はなんですか?」なんて月並みの質問をしても、みなさん何遍も答えてきているので、手垢のついた言葉しか返ってこないわけです。でも、「ジャンプで好きだった作品は何?」「心に残っている名場面あります?」って、どうでもいいことを聞くと彼らは乗ってくれる。オイシックス(有機野菜や無添加食品のネット通販を行う会社)代表の高島宏平さんなら「気分が落ちたときは『スラムダンク』の13巻を読んで自分を元気づける」(ジャンプ・コミックスの『スラムダンク』13巻には海南大付属高校との試合中、キャプテン赤木剛憲の負傷によって流川楓が覚醒するエピソードがある)とかね。結果としてビジネス書的にも読めちゃうような話がとれました。
──たしかに書店でビジネス書の棚に置かれていても違和感ないですね。全体としてある種のサクセスストーリーになっていつつ、随所で「ジャンプあるある」のような話題や思い出で盛り上がる感じ。
岩崎氏■本来は月曜日発売なのに、なぜか土曜日にジャンプを販売している店へ買いに行った経験とか(笑)。
──それ、多くの人の記憶に残っていますよね。とにかく早く読みたくて、隣町まで夢中になって自転車をこいで。
岩崎氏■しかも書店じゃなくて、なぜか雑貨屋とかなんですよね……とこんな具合に話も盛り上がるわけですよ。