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  • 2019/09/05 掲載

「趣味で早退」は悪いことか? オタク女子に聞く「お仕事」と「推し事」の両立

『本業はオタクです。』著者 劇団雌猫

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『浪費図鑑』シリーズなどを手がける人気サークル、劇団雌猫。その新刊『本業はオタクです。シュミも楽しむあの人の仕事術』(中央公論新社)が話題だ。仕事と趣味という切実な問題について、豊富な取材を交えながら考えた一冊。今回、本書について劇団雌猫のひらりさ氏とユッケ氏に話を聞いた。
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劇団雌猫のひらりさ氏(左)とユッケ氏(右)

転職との向き合い方

──『本業はオタクです。』は、書名のとおりオタク女子の仕事と趣味のバランスの取り方にフォーカスした本ですが、意外と就職・転職ガイド色も濃いですね。

ひらりさ氏:自分たちの興味関心をもとに話を聞いていったら、おのずとそうなったんですよね。私はオタクのライフスタイル以上に、オタク活動が仕事にどう生かされているかといったことに興味があったので。

ユッケ氏:私たちの目に見える範囲では、もちろん「オタ活(オタク活動)をしたいから楽な仕事に就く」みたいな人もいるんですけど、それよりも「定時で上がって舞台を観にいくために、全力で仕事終わらせる」みたいな人のほうが多くて。「どうやったらそんなことできるんだろう?」と不思議だったんですよ。それプラス、劇団雌猫のメンバーは今みんな30歳なので、転職適齢期というか、世代的に転職を考えだす時期というのもあって……。

ひらりさ氏:今の仕事とは全然違う業種にも転職できる余地がまだ残されている年齢でもあるので、「もしこの職業に就くなら?」という点でも興味がある職業の方に、お話を聞きましたね。

ユッケ氏:だから雌猫のトークイベントにキャリアカウンセラーの西尾理子先生をお招きしたときも、おのずと転職を意識した話になっていきましたね。

──その西尾先生とのトークの模様は、本書の第3章に収録されていますね。

ひらりさ氏:第3章に関していうと、雌猫のメンバー4人はみんな転職を経験しているんですけど、私たちが働く女性たち約1700人を対象に実施したアンケートを見ると、転職未経験者のほうが圧倒的に多数派なんです。だから、ハードルをかなり低めに設定できてよかったなと。一般的なビジネス書とかだと、キャリアアップがうんぬんとか、完全に意識高いところから入ってしまうので。

──西尾先生の「転職と“転職活動”は別」という視点も面白いですね。つまり「本当に転職するかどうかは保留でいいので、自分の現在地にちょっとでも不満があるようなら、転職活動をしてみてください」と。

ユッケ氏:その考え方、すごくいいですよね。実際に転職するのはリスキーだけど、転職活動ならリスクを負わずに自分の仕事を客観視できるっていう。

ひらりさ氏:いわゆる転職エージェントの方に相談すると、転職させたほうがお金になるので「転職しろ、しろ」と言われがち。でも、西尾先生は「カウンセラー」という立場から助言してくださるので、とってもやさしいんですよね。

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『本業はオタクです。』
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──西尾先生が「マズローの欲求5段階説」を持ち出されたのにも驚きました。

ユッケ氏:人間の欲求には①生理的欲求(ご飯食べたい、寝たい)、②安全欲求(安全な家に住みたい)、③社会的欲求(他者と関わりたい、集団に属したい)、④承認欲求(自分を認めたい、人から認められたい)、⑤自己実現欲求(能力を発揮して創造的活動をしたい)という5つの階層で表すことができるという。

ひらりさ氏:この①~⑤の欲求を全部「お仕事」で満たそうとしている人が多そうだけど、オタク女子は特に③、④をアイドルを追いかけたり好きなアニメにお金を使ったりといった「推し事」で満たしているのではないか、という話でしたね。ゆえに「推し事のあるオタク女子は最強」であると西尾先生もおっしゃっています。

オタクもさまざま

──本書の第1章と第2章は、計10人の働くオタク女子へのインタビューで構成されていますが、とりあえずどの方もめちゃくちゃ楽しそうなのがとてもいいですね。

ひらりさ氏ユッケ氏:うんうん。

ユッケ氏:やっぱりオタクの濃度にもグラデーションがあって、オタ活に大金をつぎ込んでる人や、ツアーの現場などに全通(全て通うこと)してる人もいるんです。でも、そういう人よりは、たとえば「推しの魅力を自分の言葉で楽しく伝えられる人」みたいなところが、人選のポイントとしてあったかもしれないです。

──ちなみにインタビューしたオタク女子の方々はお知り合い?

ひらりさ氏:「匿名」がコンセプトなのではっきりとは言えないのですが、雌猫のメンバー4人の交友関係から「こんな人いないですか」と声かけて、色々な方に協力してもらっています。あと、おかげさまで劇団雌猫の読者コミュニティみたいなものもあるので、今回はそこからも手をあげていただきました。

──第1章は仕事と趣味を分けて考える「切り替え」型、第2章は趣味と関係のある仕事をする「公私混同」型という、2つの類型でまとめられていますね。

ひらりさ氏:第1章と第2章は「Zing!」というWebメディアでやっている「オタ女子おしごと百科」というインタビュー連載がベースになっているんですけど、連載当初は類型化みたいなことはあまり考えてなくて。私たちとしてはオタク趣味を仕事に生かしている人の話も聞きたいけど、必ずしもそういう働き方ができるオタク女子ばかりではないし。

ユッケ氏:連載は毎月更新するので、なんとなく前月、前々月と職業やオタクのジャンルが被らないようにしようとは決めていて、結果的にいいバランスになったところはありますね。それと並行して「あなたは切り替え型? それとも公私混同型?」みたいなアンケートもとっていたんですけど、オタク趣味と関係ない仕事をしてる人の方が圧倒的に多くて。

ひらりさ氏:まあ、そりゃそうだよね。

ユッケ氏:「推しと仕事した!」みたいなマスコミ系の友達もいたりするんです。だけど、世の中的にはそういう人は少数派だから、趣味と関係ない仕事をしているオタク女子にも光を当てようみたいな話になりましたね。

【次ページ】 キャリアに「アップ」も「ダウン」もない
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