『早稲田と慶應の研究』著者・オバタカズユキ氏インタビュー
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『大学図鑑!』シリーズの監修でも知られる、ライターのオバタカズユキ氏が、『早稲田と慶應の研究』を上梓した。かつての「バンカラ」早大生は消え、慶應は学部のヒエラルキーが大変動……。イメージも様変わりした両大学を通して、今の大学と大学生の姿も見えてくるはず。著者のオバタ氏に話をうかがった。
われわれ世代が知っている「早稲田」「慶應」とはだいぶ変わっている
──オバタさんは、現役学生やOB、OGへの取材などから各大学のリアルな姿を紹介する『大学図鑑!』(ダイヤモンド社)シリーズを20年間監修されています。当然、大学の変化には詳しいと思いますが、その中で早稲田と慶應のどのようなポイントに着目されたのでしょうか?
オバタカズユキ氏(以下、オバタ氏)まず、どこの大学にも独特の文化があるのは知っていたのですが、あらためて調べてみると早稲田と慶應はそれが他大に比べて大きいのですね。大学の文化は、それぞれの歴史やシステムに起因します。早稲田や慶應の場合はどうなっているんだろう、と考えていくと、「私大の両雄」として対比される理由もわかってくるんです。
もうひとつは、私は今53歳で、ちょうど大学受験生の親世代の中心年齢にあたりますが、われわれ世代が知っている「早稲田」「慶應」とはだいぶ変わっているからです。本書では両大学の比較にももちろん重きをおいていますが、実はそれよりも30年前との比較に力を入れています。
たとえば「学部ヒエラルキー」でも、30年前とはかなり違います。私が大学受験をした1980年代だと、慶應の文系では経済学部が圧倒的トップでした。偏差値で比べれば法学部もいい勝負だけど、付属校からの内部進学生にとっては経済学部が一番で、「法学部に行くヤツは落ちこぼれ」という雰囲気だった。それは外部受験者にとっては「一段下」という感じでした。でも、今は法学部のほうが人気があります。
慶應は、付属校の中でもっとも人数が多い慶應義塾高校(通称「塾高」)の価値観が、学校全体の価値観を決めているようなところがあるんですね。その彼らが進学希望先として法学部をあげる。彼らは大学の情報を先輩たちからいっぱいもらいますが、「法学部政治学科は楽勝科目が多いらしい」と聞いているから人気なんです。結果、学部のヒエラルキーで法学部がトップになっている。
──私は早稲田出身なので、拝読して「自分の在学中と比べて、こんなに変わってるのか!」という驚きがありました。学部のヒエラルキーでいうと、早大では2004年にできた国際教養学部(略称「SILS」)が非常に存在感を増していると書かれていましたが、私の在学中は「新しい学部ができたんだな」という程度でそこまで強い印象はありませんでした。
オバタ氏:SILSは、上智大学の国際教養学部(旧・比較文化学部)やICU(国際基督教大学)をもっと華やかにしたような感じで、およそ早稲田らしくないんですよ。学生の雰囲気も見かけからして肌の露出の多い西洋人風で、商学部と同じ建物に入っていますが、商学部の学生はノリが違いすぎて居づらいらしいです(笑)。
私の世代は、早大の社会科学部(社学)が難関学部になっていることで驚くと思います。昔は、早慶を狙う受験生の中では「社学に妥協してまで入学したいのか」とバカにされていました。でも、今は人気学部ですし、偏差値も高くなっている。30年のあいだに大躍進しています。
早大生7~8割が「バンカラ」を知らない
──学生の変化はどうですか? 本書では、「バンカラ」という言葉を知らない現役早稲田生のエピソードが書かれています。
オバタ氏:「ここまでイメージが薄くなったか」と思いました。私は『大学図鑑!』の監修をやっているので大学生の変化を知っているほうです。それでもあらためて驚いたくらいだから、私と同世代の人はもっと驚くと思いますよ。早稲田生に「バンカラ」イメージについて聞くと、「バンカラ……?」って止まっちゃうんですよ。これは別に取材で無知な子に遭遇したわけじゃなくて、声をかけた早稲田の男子学生の7~8割がそういう反応なんです。
そもそも今の早稲田は男子の方がおとなしくて、「ワセジョ(早稲田の女子学生)」が圧倒的に元気になっています。私と同世代のワセジョも才気あふれる人が多いけど、特に政治経済学部なんかではまだマイナーな存在だったので、「超変わったやつ」という評価を甘んじて受けざるを得なくて、それをはね返すために武装しすぎている人が多かった。でも今はそういう印象がまったくなくて、内面も自由な感じの子が多いですね。単純に、見た目も今風の子が多いです。
一方で、慶應ガールは堅かったですね。基本的にキャンパスへ行って、その場で学生に声をかけて取材をしましたが、ワセジョはノリがよくて「じゃあ、◯◯さんも紹介しますよ~」なんて盛り上がるんだけど、慶應は本当に優等生の回答が多かった。「この大学に入ってよかったと思います」とか「慶應はすごく英語が大変かなと思いましたが、そうでもなかったです」みたいな、聞かなくてもわかるようなことしか答えてくれない。そこからもう少し掘り下げようと質問をしても、「う~ん……」「どうなんでしょうね~」となってしまう。絶対に彼女たちにも考えはあるんですよ。でも簡単に答えてはくれないんです。
慶應ガールの堅さは、われわれ世代と基本的に変わっていないと思います。昔からそうですが、「そつがない」「したたか」という言葉がしっくりくる。出る杭として打たれないための保身を、さらりとこなすんです。その印象が強くて、ちょっと窮屈に見えました。これは慶應ボーイも一緒です。
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