0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
2010年5月24日、「まんがで読破」シリーズなど個性的な書籍を手がける出版社イースト・プレスが、Amazon.co.jpからのみアクセスできるWeb文芸誌『マトグロッソ』を創刊した。ラインナップには森見登美彦や伊坂幸太郎、内田樹ら豪華な作家の面々が名を連ね、そのすべてを無料で読むことができる。Amazon.co.jp内に立ち上げる試みの新しさもさることながら、内容面も、小説の連載だけでなく読者参加型企画など、「文芸誌」の枠に捉われない広がりを見せている。電子書籍への対応に追われる出版業界の混乱をよそに、毎週着々と更新されるコンテンツがユーザーからの評判も高く、毎日更新されるちょっとした読み物さえある。そんな話題の『マトグロッソ』を立ち上げた、イースト・プレスの敏腕編集者・浅井愛氏にお話を伺った。
どうして「Amazon.co.jp」で、「文芸」?
――「文芸」の印象が強い版元ではないイースト・プレスさんが、それもWeb上で、どういう経緯から浅井さんが『マトグロッソ』を立ち上げることになったんでしょうか?
浅井愛氏(以下、浅井氏)■どこかで発信する「場所」を作りたいなあとぼんやり考えていたところに、イースト・プレスからお誘いをいただき、「それならぜひWeb媒体を立ち上げませんか」と提案させてもらいました。紙ではなくWebでというのは最初から決めていましたね。Web上には「何かを読みたい!」という欲望を持っている人がたくさんいることをひしひし感じていましたし、いまの時代に編集者であるならば、そういう人に向かってこそ発信をするべきだと思っていたので。
――イースト・プレスの公式サイトではなく大手通販サイトであるAmazon.co.jp内に『マトグロッソ』を立ち上げたのはどういう理由だったのですか?
浅井氏■作りたい場所との相性がよさそうだというシンプルな理由です。Web上とひと口にいってもそこにはもちろんいろんな性質のテキストを求めている人がいて、なかでも「Amazon.co.jp」を訪れる人というのは、「何かを読みたい」という欲を強く持っているように私には思えました。もっというと、自分が生きていくうえでの支えを「本」に求めている人ですね。意識しているか否かに関わらず、そういうものを求めている人が集まる場所であれば、こちらが発信していきたいものと幸福な出会いをしてくれる人もたくさんいるだろうと。
――Amazon.co.jpさんへは浅井さんのほうから提案をなさったのですか? また、最初にご提案された時点でそれは「文芸誌」だったんでしょうか?
浅井氏■こちらから提案をさせていただきました。「Web文芸誌」という表現はその時点では使っていませんでしたが、反射的に受け取ることができる性質の、情報に近いテキストではなく、じっくり読んでもらい、時間をかけて読者のなかで熟成させていってもらえるような「作品」を発信する場所にしたいとは思っていました。そういう場合に「オンラインマガジン」だけでは説明不足だし、ひとことでいうならやはり「Web文芸誌」かなと、それはあとで決めました。『マトグロッソ』では「文芸」という言葉を広くとって、小説から、ノンフィクション、エッセイ、評論、マンガ、写真作品と掲載する作品の形態は多岐にわたります。
――Amazon.co.jp内で創刊するにあたって、苦労された部分はありますか?
浅井氏■こういう形で出版社や「媒体」と連携するのはAmazon.co.jpさんにとっても初めてのことだったので、話し合いは何度も重ねました。『マトグロッソ』自体はイースト・プレスが編集責任を持って運営するものなので、具体的な内容についてそれこそ検閲的に何か意見をおっしゃるということはありませんが、サイトの作り方に関してはたくさんのアドバイスをいただきました。また、「Amazon.co.jpでだけ読める媒体であること」というのは先方が強くこだわられた点です。
――それで、『マトグロッソ』のサイトURLからは直接アクセスできない仕様になっているんですね(注1)。
浅井氏■そうです。あくまでAmazon.co.jpにある入口(バナー)からしか辿り着けない場所にしましょう、ということです。また、著作権保護の観点や、読みやすく美しい書体を使いたいという
気持ちから、テキスト部分は一枚の画像として作っています。他にも、サイトの見せ方や読者の動線、色やフォントに関しては徹底的に意見をいただき、それを受けて『マトグロッソ』のADを務めていただいているartlessさんもいろいろ工夫してくださり、現在のような形となりました。
注1:『マトグロッソ』へのアクセス
Amazon.co.jp内にある『マトグロッソ』のバナーからしかアクセスできない仕組み。バナーは、Amazon.co.jpの「文学・評論」カテゴリページ(http://www.amazon.co.jp/matogrosso)や、関連著者などの「著者ページ」等に設置されている。「お気に入り」に登録したり、URL(http://matogrosso.jp/)を直接打ち込んだ場合は、自動的にバナーのあるAmazon.co.jpの「文学・評論」ページに飛ぶ。