• 2010/10/01 掲載

【浅井愛氏インタビュー】ネットで読める文芸誌『マトグロッソ』が目指すもの(3/4)

『マトグロッソ』編集長 浅井愛氏インタビュー

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作家と読者の交歓をつなぐ

――『マトグロッソ』の反響はどうですか?

 浅井氏■反響は、めちゃくちゃいただきましたね。最初のうちは、出版業界内からの反響のほうが大きくてちょっと複雑な気持ちでしたが(笑)、いまは読者の方から個々の作品に対しての感想をいただくようになって、すごく嬉しく思っています。

――想定する読者層というのはあるのでしょうか?

photo
浅井 愛氏
 浅井氏■年齢であったり趣味嗜好であったり、そういう意味でどういう人に読んでもらえているのかはわかりません。ただ、自分としては……うまく説明できるかわかりませんが、人間関係だけで成り立っている「世界」というのはキツいなと(笑)。そういう気持ちが根っこにあって、どうしても、「読む」という行為でしか受け取れない手応えというか、読むことでしか補強されない部分というのがあると思うんですよ。たとえば夜中に、どうしようもなく何かを求める気持ち、飢えみたいなものが湧き上がってきたとき、誰かと「話す」ということだけでは解消できない部分が絶対にある。そういうときは、書かれていることと、深いレベルでつながっていく以外にはないと思うので、そういうものを満たすことができるものを発信する場所でありたいなと。

 だから、そういう思いを抱えている人全般というのが想定読者ですね(笑)。さっき、Web上には「何かを読みたい」という欲望を持った人がたくさんいると言いましたが、自分の実感としても、たとえばTwitterだったりYouTubeだったり、Web上にはいろんな楽しみ方ができるものがたくさんある。でもやっぱりもっと「読みたい」んですよ。求めている気持ちに見合う重さで返してくれる場所がほしい。そこはまだまだ需要と供給のバランスが悪いと思うんです。

――強度のあるものを突き詰めていって、根源的なものであるからこそ余計なものが剥がれてシンプルになるわけですね。そのシンプルさは内容やサイトの見映えに限らず、編集方針にも表れているように感じます。たとえば「編集部より」というニュース1つとっても、自社宣伝に拘らずに作家をフィーチャーする形で編まれていて、良い意味で出版社サイトらしくないです。

 浅井氏■読者にとってはどこから出された本かなんて関係ないですからね。そもそもこちらもその「作家」に惚れ込んで執筆依頼をしているわけですし、その人が“いま”やろうとしていることに何より興味があるわけなので、そこは大切にしていきたいと思っています。でも、確かにそれが不思議だと言われれば、そういう考え方もあるかもしれません。『マトグロッソ』を立ち上げた後、他社の人たちからは「Amazon.co.jpと連携するなんて」といろんなニュアンスで言われたりもしましたし(笑)。でも弊社の場合、社長が「会社都合の発想はやめろ」と口グセのように言う人間で、かなり柔軟な発想をする人なので、読者に不利益が出ないことならなんでもやってみろという感じでしたね。そもそも、自社他社にこだわるならAmazon.co.jpと連携する意味もないですしね。伊坂幸太郎さんの特別企画(注2)なんかもそうですが。

――「刊行記念」とありますが双葉社のものですもんね(笑)。

 浅井氏■そもそも、Web媒体というのは読者の反応がダイレクトだし距離が近い。おまけに即時性もある。今日起こったことに今日反応することができる。その特性を有意義に使って、たとえば好きな作家の新刊を読んだとき、自分だったらその気持ちを誰かに伝えたくなったり共有したくなったりする。著者にとってもその感想がなにより知りたい。そこに橋をかけたいなと。もちろん、検索してブログに書き込まれた感想を探してみたりすることはこれまでもできたけれど、そういう一方的なものではない形が作れたら、どちらにとってもいいのではないかと考えました。これまで書き手側の方々から読者の反応がもっとわかればなあという希望をさんざん聞いていたので、『マトグロッソ』を立ち上げるにあたっては読者の感想を積極的に募り、それを書き手に届けていこうと思っていました。

――個々の読み物のページに感想欄が必ずありますよね。

 浅井氏■結局のところ、本当の意味で書き手に力を与えられるのって読者しかいないんですよね。原稿料が潤沢に払えるわけでもないし、『マトグロッソ』に書くことがステータスになるわけでもない。それでも一生懸命スケジュールをやりくりして書いてくださるのは、毎週待ってくれている読者の存在が確かに感じられるからで、突き詰めればそういう理由以外では書けないのが作家というものなんじゃないかと、最近は思っています。だから、私はなんとしても読者に届ける工夫をしなくてはいけないし、読者から届いた感想はできるだけフィードバックしていきたい。

 伊坂さんの特別企画を実施したときには、新刊『バイバイ、ブラックバード』に対するアツい感想をたくさんいただいて、伊坂さんもとても喜んでくださっていました。抽選で感想を寄せてくださった方数名にプレゼントをお送りする際も一人ひとりにメッセージを書いてくださって、またそれを受け取った方からどれだけ嬉しいかという長文のお手紙をいただいたりして、ああ、つなげられて良かった! としみじみ思いました。

――伊坂さんは「今日、なに読んだ?」(注3)も毎日マメに更新されていますよね。

 浅井氏■『マトグロッソ』を立ち上げてから実に一日も休まれていません。本当に毎日書いてくださっています。


注2:伊坂幸太郎・著『バイバイ、ブラックバード』(双葉社)刊行記念特別企画
2010年6月30日、双葉社から刊行された、太宰治の未完の遺作『グッド・バイ』にインスパイアされて綴られた『バイバイ、ブラックバード』。その刊行記念として、『マトグロッソ』上にて「伊坂幸太郎からの5つの質問」と題された読者へのアンケートが実施された。回答者のなかから抽選で選ばれた数名には、“ゆうびん小説”がプレゼントされた。

注3:「今日、なに読んだ?」
『マトグロッソ』の連載企画。その日読んだり聴いたりしたものについてコメントとともに紹介するもの。現在は、伊坂幸太郎と高橋源一郎の両氏が参加。

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