- 2006/04/18 掲載
栗本慎一郎氏インタビュー~「邪馬台国」は正確には「邪馬壹(ヤマイ)国」です
Business CoffeeBreak ~歴史に想いを馳せる~
Q.近著『シリウスの都 飛鳥』(たちばな出版)では、蘇我氏の出自をゾロアスター教的、ミトラ教的要素などさまざまな角度から解明しています。 「日本の古代王権」を主要な研究テーマに据えていらっしゃる理由をまずはお聞かせください。
【栗本】 私はもともとカール・ポランニーの経済人類学を勉強していて、初期にはその研究を日本に紹介する仕事をやっていました。
ポランニーは人類学といいながら、バビロニアなど古代文明史における「貨幣とは?」といった研究も手がけていました。それは、元来の経済人類学のメインテーマです。
経済人類学を学び始めた頃、私は奈良のウワナベ・コナベ古墳近くに住んでいました。
当然、私も日本の古代史について研究すべきだったのですが、当時の日本の古代史研究はひどいレベルにあったんです。
『シリウスの都 飛鳥』でも書いている通り、「邪馬台国」は正確には「邪馬壹(ヤマイ)国」です。 事実、魏志倭人伝にも「邪馬壹国」と書かれているのに、別の字を当てて「邪馬台国」にしてしまっている。こんな史料の改竄は他の分野では考えられません。
そんなところで正しいことを言っても仕方がないと、日本の古代史からしばらく離れていました。でも関心はずっと持っていて、それが病気後にだんだんまとまってきたというだけです。私にとって、古代社会は何十年も研究してきた分野の一つなのです。
Q.『シリウスの都 飛鳥』で、「蘇我氏の先祖はスキタイ[※]である」という説を唱えていらっしゃっていますが。
[※]紀元前8世紀~紀元前3世紀頃、南ロシアを中心に活動した遊牧騎馬民族国家
【栗本】 もちろん、まだ一応は推論ですが、根拠はたくさんあります。スキタイ人と蘇我氏は、神話、価値観において驚くほど共通点があるのです。
スキタイという名称は、ギリシャの歴史家ヘロドトスがそう呼んだだけで、ペルシア人は同じ民族を「サカ」と呼んでいました。サカがスキタイの本名です。
ソガとサカ、名前が似ていませんか。おまけにサカ人はアッシリアの記録では「アシュクザイ」なんですよ。「アシュク=アスカ」じゃないですか。
名称が非常によく似ていて、しかも同じ価値観を持っている。その二つを考えあわせれば蘇我氏の起源はスキタイである」と思うことは自然です。
でも「蘇我氏はスキタイだったかもしれない」という結論から入るとみんなひっくり返っちゃう。
誰もまともに言ってきていないだけで、十分あり得ることなんですよ。
Q.「蘇我氏=スキタイ」説は我々が教えられてきた歴史とはずいぶん異なります。こういった斬新な視点はどこから生まれてくるのでしょうか。
【栗本】 自分のやり方を素直に思い起こしてみると、説明を聞いて「普通に考えてこれはおかしい」と感じることが最初です。それから調べていきます。
最近は、東西文明の交流をテーマにシルクロードを研究していますが、それもシルクロードの道筋を聞いて単純に「おかしい」と感じたのがきっかけです。
中国人の説では、シルクロードはタクラマカン砂漠を通ることになっていますが、私は東西の交易はもっと北の草原地帯を通っていたと考えています。
誰が過酷な砂漠地帯を好んで通るのか。物理的には草原の道のほうが歩きやすくていいに決まっている。だから「草原の道」を通ったに違いないと考えるわけです。歴史は、軍や国の政治的都合によって歪めてられてしまうことがある。
人類学、民族学、考古学はみんな政治に利用されるんです。だから、注意しなければいけない。
「問題に気づく力」というのは、「素直に考えたらおかしい」ということから始まるものです。
Q.先生のお部屋は意外に本が少ないですが、どのように情報を整理されているのでしょうか。
【栗本】 15、6年前、朝日新聞の書評委員の仕事をやっていたとき、次々と本が送られてきて、数えてみたら蔵書が1万3,000冊を超えてました。
整理が悪くてやたら積み上げていただけだったので、事務所を移すときにどんどん捨てました。それからは研究に関する具体的なものだけに絞っています。そもそも自分の本に対しても、誰の本に対しても“フェティシズム”というものがないんですよ。わかりやすい例で言えば、私は自分の本を三分の一も持っていない。
二か月くらい前まで「半分持っていない」って威張っていたけれど、あるきっかけがあって調べたら半分なんてとんでもない。三分の一がいいところです。情報整理は悪いですよ。印象を頭に入れておくのが精一杯。ましてや他人の本なんて頭の中にあればいいのです。
だから、どこにその本があるかがわかっていればいいと割り切ってます。
「あれはあそこにあるだろう」「あるいはあの大学にあるだろう」――それだけです。必要な本の在り処は一応、頭のなかでマッピングされています。
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