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  • ひろさちやの究極の人生相談/経営者こそ、人間らしく生きろ

  • 2008/06/24 掲載

ひろさちやの究極の人生相談/経営者こそ、人間らしく生きろ

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宗教評論家のひろさちや氏が、仏教の智恵という視点から、読者に現実の諸問題を主体的に考えることを促す書籍『ひろさちやの究極の人生論』(ソフトバンク クリエイティブ)。この連載では、ビジネスにおいて興味深い内容を抜粋して紹介する。
執筆:ひろさちや

知らないことも罪

【質問】
不祥事が起こった。基幹工場の管理がずさんだったようだ。賞味期限切れの商品が大量に出荷されていた。担当役員は入院したと家族から連絡があった。「ふざけるな」と思った。私は、彼に任せていた。工場のことは何も知らない。工場長を呼びつけようにも、現場での対応に追われていて夕方にならないと来られないという。これから記者会見に赴かなければならない。原稿は広報が用意した。その原稿を読んで、実は自分は何も知らなかったということに思い至った。経営者ではあるが、知らなかったことは果たして罪なのか?


【答】
 知らなかったのは、罪だよ。心底知りたかったのではなくて、この社長は自分が知らなくてもいいような仕組みを作ったのでしょう? いちいち全部報告しろと、担当者に求めたわけではきっとないよな。どんな些細なことでも報告しろとは言わずに、「そんなこと、いちいち俺に言ってくるな」とふだんから言っていたのでしょうね。

 ギリシャの哲学者で著述家だったプルタルコスが、こんな話を残している。

 ある貴族は、常日頃、部下に「問われたことだけに返事をしろ」と命じていた。「饒舌になるな、俺の聞いたことだけに答えろ」というわけだ。あるとき召使に誰それのところに招待状を届けるよう命令した。

 お客人を持て成す準備をしていたのだが、約束の時間をすぎてもいっこうに現れない。くだんの召使を呼び寄せて、「お前は招待状をちゃんと届けたんだろうな」と問いただす。「はい、届けました」との答えだ。「しかし、ちっとも現れないではないか。相手はどう言っていたんだ?」と聞き返すと、「用事があって伺えないとのことでした」と言う。貴族が「おい、なぜそれを早く報告しない!」と怒ると、「いつも、問われたことだけに返事をしろと命じられております。あなた様は相手の返事をお聞きにはなりませんでした」と言うわけだ。

 これと同じことだと思う。「社長は知らなかった」という体制を自分で作り上げていたんだな。だから、責任を取るべきだよ。泣き言など言うべきじゃない。担当者が悪いことは悪いのだろうけど、そういう人間を担当者にした任命責任もある。どこかの総理大臣と同じことを言っているんだよ。

勝つための戦いほどつまらないものはない

【質問】
そろそろ引退を考えている。そこで社長を誰に引き継ぐべきか。候補者は2人いる。1人は若い頃から目をかけて鍛えてきた副社長。彼は事業にも精通し、決断力もあり、部下からの人望も文句がない。会社の発展を一義的に考えるのであれば、間違いなく彼であろう。ところが、私には息子が1人いる。出来の悪い息子ではない。大学を卒業後、私の会社に入社し、まだ32歳であるが、業務部長として取締役にもなっている。親としては息子に社長の座を継ぎたいという気持ちも正直強い。リスクはあるが、楽しみも多い。さてどうしたものか。


【答】
 読売巨人軍が、川上哲治を監督にしたときが、まさにそうだった。巨人軍は名門チームで、三原監督や水原監督のように、それまでは皆、大学出の人間を監督にしていた。阪神には藤村という旧制中学出の名監督がいたけど、巨人軍は決して旧制中学出の人間を監督にはしなかった。

 川上は旧制中学出なんだ。しかし、巨人軍の4番バッターとして巨人を優勝に導いた功労者だ。論功行賞の意味で、一度は川上に監督をやらせてやりたいと上は考えた。番頭的な性格で、まさに、この質問に登場する副社長と同じ存在だ。それで川上が監督になった。

 そうした背景を川上はよく知っていた。自分がいわば、ピンチヒッターだとわかっていた。1年だけの監督で、負ければすぐにも首を挿げ替えられる。

 それをわかっていた川上は、自分が生き残るためには、とにかく勝つしかないと思った。それで、勝つための野球というものを考え出したんだ。確かに巨人軍はV9を達成したけど、おかげで野球の面白味が全然なくなってしまった。

 それはどういうものか。右ピッチャーならば左バッター、左ピッチャーならば右バッターを当てる。ヒットはできるだけシングルヒットで留める。そのために、決して後ろにそらさないように、外野に飛んで、取れないかもしれない球には危険を冒さない。ファインプレーなど狙わずに、しっかりとシングルヒットで押さえる。それからバント。これは牧野方式といわれるが、確実に1点を入れるために、1塁にランナーが出たら、必ずバントで2塁に送る。今に通じるこういう野球を川上は始めた。

 この人が、副社長にバトンを譲ったら、きっとものすごく堅実な経営をしてくれるだろうね。でも、その結果、この会社は夢のない会社になってしまう。読売巨人軍を見ていると、そう思えるね。

 では、どうすべきか。たとえば2年とか3年とかと区切って、社長をしてもらいたいとちゃんと副社長に因果を含めるのがいい。ただ、せっかく一緒に長いこと苦労をともにしてきた副社長なんだから、いきなり結論を言うのではなく、まずは相談するのがいい。それで向こうが辞退すると言い出したら、やっぱり「サイコロで決めようか」と。ゆくゆくは息子に継がせたいという自分の気持ちを正直に話して、話し合うのがいい。

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