- 2008/06/24 掲載
ひろさちやの究極の人生相談/経営者こそ、人間らしく生きろ(2/4)
頑張れば頑張るほど、業績が落ちることもある
【質問】役員や社員を頑張らせるには、危機意識を植え付けるのが1番と思い、会社の危機を連呼し、長期雇用の約束はできない旨を声高に叫んできた。ところが、この方法が裏目に出たのか、最近、覇気がない。挑戦したいという人間が影を潜めてしまった。私の方法は間違っていたのであろうか。
【答】
これは、完全にこの人の間違いだ。確かに、社員にやる気を起こさせるには、ほかに方法はないかもしれない。この方法で、やる気を起こさせることはできるはずだ。ただ、私がいいたいのは、やる気を起こさせようと思うこと自体が間違っているということだ。
やっぱりプロ野球で考えるとわかりやすい。要は勝ちたいんでしょう? 勝つためには相手を負かさないと勝てない。ところが、相手だって勝ちたいと思っている。ではどうしたら勝てるチームになれるのか。やる気というのは一体、何なのか。頑張れば勝てるのか。選手にやる気があれば、それで勝てるのか?
この社長は、自分の部下に何を求めているのか。頑張らせたいだけなんだ。でも、役員や社員を頑張らせるのが目的なのか。そうではなくて、あくまでも勝つことが目的のはずだ。勝つためには、頑張らせないといけないと思っていること自体が間違いなんだ。
勝つということは、言い換えれば会社の利益を上げるということだ。そのためには、頑張らせないといけないという発想が、おかしくないかな。
「売上を上げるように努力してくれ」と頼むのも、「利益率を高めろ」と言うのもいいけど、「頑張ってくれ」と言うのはちょっとおかしい。それでは社員が何をやればいいのかわからない。
たとえば野村克也が阪神の監督時代に、今岡誠をほした。理由は、「あいつはやる気がないから」。本来、監督が求めるべきことは、「打率を上げてくれ」とか「打点を増やしてくれ」ということであって、それならば今岡選手もできたはずだ。それなのに、やる気がないからという理由で2軍に落としたり、使わなかったりした。あれはおかしいと思った。
この社長が役員や社員に求めるべきことは、頑張ることではなくて、営業成績を上げることなんだ。だって、頑張った結果、かえって営業成績が落ちることだってあるでしょう。会社の仲間は皆、ライバルなんだから、皆が頑張るということは、結局足の引っ張り合いになるんだ。下手に頑張らなければチームワークもよくなるのに、頑張った結果、足の引っ張り合いになって、皆だめになる。
日本軍と同じだな。陸軍と海軍は敵と戦うよりも、お互いに争っていた。上はそれぞれ頑張れと発破をかけていた。お互いにつかんだ敵の情報を公開もしない。それで「士気を高めるために」と言って、仕舞いには陸軍が船まで作り始めた。それで陸軍と海軍がそれぞれ工場を押さえたりした。これでは戦争には勝てないよね。
頑張らせるということは、そういうことなんだ。たとえば営業部と開発部が対立する。それでは会社は潰れてしまう。
あなたの気持ちは、誰にもわからない
【質問】ここ最近、売上よりも、むしろ利益の重要性を説いてきた。するとどうだろう。売上は低迷、確かに利益率は高くなってきているが、気がつくと、現場では無理なコスト削減に走っており、いわゆる下請けいじめも横行していた。これほどまでに、うちの役員や社員は、言葉を額面どおりにしか受け取らないのかと、唖然とした。来週、役員会でこの問題を取り上げたいと思っている。さて、どのようにわからせることができるのだろうか。
【答】
言葉足らずなわけだよね。でも、この人に限ったことではない。日本人はえてして表現能力が劣っているものなんだ。「阿吽の呼吸」とか、「みなまで言うな」とか言って、それが美徳だという人もいるけど、要は説明不足。
ある会社の部長が秘書に、「この手紙をついでのときに投函しておいて」と頼んで、速達を手渡したという話がある。なぜ、そんな言い方をしたかというと、それはプライベートな手紙だったからなんだ。ところが、何日経っても先方にその速達が届いていない。催促されたので、「あの手紙どうした?」と秘書に聞いたら、「まだハンドバッグに入っています」という答え。「なんで?」と問いただすと、「まだ、ついでがありません」だとさ。
おかしいよね。切手が貼ってあって、速達のスタンプが押してある。誰が見ても急ぎだとわかるはずだ。手紙そのものが、「ついでなんて言っているけれど、これは急ぎの手紙だぞ。早く投函しろよ」という情報を語っている。だから部長も、秘書がわかってくれると思っている。ただ、遠慮して、「ついでのとき」などと言う。ところがそうすることで、2つの信号が矛盾した情報を発信してしまう。混乱が起こるから、言葉のほうを重んじてしまう。もちろん、秘書もどうかと思うけど、無言で「行間を読め」と言っても無駄な場合もある。
この質問のケースもまさにそう。ただ「利益を上げろ」と言ってしまえば、利益の重要性を強調しているわけだから、手段は選ばないとも読み取れる。売上よりも利益が大事だと説いたとしても、その意味するところは全然説明していない。
「俺の気持ちはわかるはずだ」というのは、1番よくない。「俺の目を見ろ、何にも言うな」なんて、嘘だよね。目を見たからって、コンタクトかどうかすらわからない。
私生活でならば、まあいいとしても、こういった経営や商取引の問題については、ちゃんと説明しないとだめだな。わからなくても、文句を言えない。
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