『バンド臨終図巻』著者 速水健朗氏・円堂都司昭氏インタビュー
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速水健朗、円堂都司昭、栗原裕一郎、大山くまお、成松哲の各氏の手になる『バンド臨終図巻』(河出書房新社)がこのたび刊行された。本書は、古今東西、200組におよぶ音楽グループの解散の経緯を、膨大な資料にあたった上でまとめたもの。淡々とした記述の中に、ときおり皮肉な視点があったりとユニークな内容になっている。バンド解散からは一体、どんな人間関係の形が見えてくるのか? 担当編集者S氏にも同席していただき、著者を代表して速水、円堂両氏に話をうかがった。
バンドで語る“組織論”
――『バンド臨終図巻』、楽しく読んだのですが、いわゆる音楽書とはちょっと毛色が違いますね。
速水健朗氏(以下、速水氏)■生粋の音楽ライターではない人間が集まって書いていますしね。僕としては、組織論みたいなことをバンドで語れないかと思って企画したんです。これはまえがきでも書きましたけど、結成の理由はたいしてない……だいたい高校時代の同級生で作ったとか、ライブで気に入って引き抜いたとか、割と偶然でというパターンが多いけど、解散にはドラマがある。そのドラマを集めてみようと思ったのがそもそものきっかけです。
『バンド臨終図巻』
それでいざ書き始めたら、なんでこんなに楽しいんだろうと思って。もともと僕は連合赤軍とか新撰組とか、革命やテロの組織が好きだったんですね。みんなで集まって、この国を引っくり返そうぜって盛りあがっていたのが、だんだん組織が壊れて、内ゲバになっていくという過程が面白くて。で、それはバンドに置き換え可能じゃないかと。たとえば新撰組では、その前身となる組織(壬生浪士)でリーダー格だった人(殿内義雄)が殺されて、近藤勇と芹沢鴨が主導権を握っていくわけですけど、それってローリング・ストーンズで、リーダーだったブライアン・ジョーンズから、ミック・ジャガーが権力を握っていったのと近いんじゃないか、とか。
円堂都司昭氏(以下、円堂氏)■バンドの成長から崩壊ということでいえば、やっぱりビートルズはいちばん図式がはっきりしてますよね。ちょうどビートルズが崩壊していく時期は学生運動の時期とかぶってるから、それこそ安田講堂に学生が立てこもっている映像と、屋上コンサートの映像がからまって……というふうに、お互いに結びついてイメージされてるっていうところはあると思う。
速水氏■愛と革命の予感とサイケデリックに溢れた60年代は、ビートルズの解散とともに終わるんですよ。すごく象徴的です。ビートルズほどの大きなバンドの解散は、時代の空気すらも変えてしまう。
――この本では速水さんがビートルズの項目を担当してますね。書いてみて何か新しく気づいたこととかありますか?
速水氏■僕はビートルズの中では、ずっとジョン・レノン派だったんですよ。ジョンって暗殺されたせいもあってドラマチックな人生を送った人だし、ジョンだけは特別な存在って思っている男の子って多いんだけど、でも今回いろいろ資料にあたってみて、ポール・マッカートニー派にコロッと変わったんです。
なんていうかポールの気持ちがわかるようになった。実はビートルズを最後までつなぎ止めていたのって、ポールなんですよ。ポールは、メンバーの心がどんどん離れていったときに、率先してつなぎとめようとするんです。さっき言った、屋上ライブもそうですよ。ビートルズは1966年からライブをやらなくなっていて、すでにスタジオバンドになってたけど、もう1回ひとつになるためにライブ録音だけでアルバムを作ろうぜ、ってポールの呼びかけで集合して、一瞬だけみんな仲良くなるんですよね。でも、例の屋上ライブの前のスタジオ・セッションでけんかが起こっちゃって。たしかジョージ・ハリソンが、ギターで何かポールに指摘されて……。
円堂氏■おまえが言う通り弾いてやるよ、みたいなことを言うんだよね(笑)。
速水氏■そうそう。それでジョージはへそまげて怒っちゃって、また亀裂が生まれるんですね。そのあとで、ポールは『アビイ・ロード』のB面を……これが奇跡的なアルバムだって言われるんだけど、要するに、みんながバラバラに作ったものをポールがスタジオでひとつにまとめあげた、美しい作品なんですよ。
ジョンは、そんなポールの気持ちは踏みにじって、好き勝手やるんですよ。外部の変な人間を連れてきたり、音楽とは別の活動をやったりとビートルズを置き去りにしてしまって。僕は昔、生徒会の連中とかとは絶対友だちになれないタイプだったんですけど、今は彼らの苦労がわかるんです(笑)。会社とか仕事の組織なんかを経験すると、言いっぱなしと、それをすくって形にすることの違いみたいなのがわかるようになるじゃないですか。ジョンみたいな奴が1人いると組織って難しいよねえ、みたいに思えるようになった。いや、ほんとポール大変だっただろうなあって(笑)。
長寿バンドの解散“しない”理由
――この本はバンドの解散の本ですけど、逆に解散せずに長続きしているバンドもあるじゃないですか。さっき出たローリング・ストーンズもそうですよね。
円堂氏■ストーンズは、しばらくミック・ジャガーとキース・リチャーズが仲悪くなった時期もあるけど、そう何年も経たないうちに仲直りしてるんですよね。
速水氏■ミックとキースの関係性のバランスなんでしょうね。ミック・ジャガーは経済大学出身でビジネスにしか興味がない人だし、キースは美術系の学校。出自も性向もキャラも正反対という。
円堂氏■クッションとしてチャーリー・ワッツがいるっていうのもでかい。
速水氏■あと、ロン・ウッドが宴会部長で盛り上げ役としてドライブさせてる感じがあるじゃないですか。ロン自体、最近まで正式メンバーにしてもらえてないみたいな、メンバーシップの強固さみたいなのも関係ありそう。
――ストーンズが長続きしているのにもそれなりに理由がありそうですね。もう結成から50年ぐらい経つのかな。
速水氏■デビューが63年だから、47年。もうミック・ジャガーが68、9歳でしょう。この本のコラムでも書いたけど、このままいくと最初に老衰でバタバタ逝くバンドになるんじゃないかって。
――日本で長く続いているバンドというとなんだろう。
担当S氏■ムーンライダーズは30年以上続いていますね。
円堂氏■ムーンライダーズは売れすぎなかったから(笑)。
速水氏■それはでかい(笑)。あそこはみんな個々に独立して仕事を持ってるんですよ。メンバー全員が外でプロデューサーをやれるし、CM音楽、アニメや映画、ゲームの音楽とか、みんなそれぞれべつの仕事を中心にやってるんですね。それは理想的な在り方ですよね。バンドで稼ぐ必要はないから、解散する必要もそんなにないという。
――現存する日本最古のバンドはムーンライダーズということになるんですかね。
速水氏■鈴木慶一さんがその話をしていたことがあって、俺たちが日本最古のロックバンドだっていったらアルフィーに怒られたらしい(笑)。結成からいうと、アルフィーのほうが長いんだとか。
――確かムーンライダーズがデビューしたのは76年じゃなかったかな。
担当S氏■アルフィーのデビューが74年ですね。
速水氏■だから、ブレイクがせいぜい83年ぐらいなので、それ以前がそうとうに長かったってことですよね。誰もアルフィーをロックバンドと考えていなかったという問題も大きいんだけど(笑)。
――最初はフォークグループでしたっけ。
速水氏■ずっとフォークで売れなくて、「最後に1枚、好きなことやって終わりにしよう」ってたかみー(高見沢俊彦)が、自分の趣味全開でロックをやったら大ヒット。それが「メリーアン」で。それ以来、まあどこまで本当なのかわからないけど、高見沢が一切の音楽面を取り仕切っていて、ほかの2人には口を出させないって(笑)。
――アルフィーはなんで解散しないんでしょうね。
速水氏■3人の趣味があまりにかみあわないからじゃないでしょうか(笑)。確か菊地成孔が言ってたんだけど、アルフィーはヘヴィメタの人とフォークの人とジャズの人が一緒にバンドやってるって。
――あれだけルックスがバラバラなバンドもないですもんね(笑)。
速水氏■たぶん役割がはっきりしてるとかぶらない。だから逆に、ロキシー・ミュージックの初期みたいに、ブライアン・フェリーとブライアン・イーノとフロントにかぶるやつが2人いるとだめなんですよね。
――両雄並び立たずというか。
速水氏■あそこはどうしてブライアン・イーノを追い出したんですか。
円堂氏■ブライアン・イーノっていうと、いまじゃ環境音楽をやってる不思議なおじさんのイメージだけど、デビュー当時はギンギラギンのメイクして羽根つけて宝塚の人みたいで。で、ピアノもほとんど弾けないのよ。何かシンセサイザーをウィーン、ウィーンって鳴らしていただけみたいな(笑)。なのに人気があって、ボーカルのブライアン・フェリーとしては面白くないから追い出しちゃって。でも、イーノのソロアルバムには、フェリー以外のロキシーのメンバーがみんなゲスト参加しているという。
速水氏■じゃあロキシーは、フェリー派とイーノ派と2つに別れていたと。
――2派に別れるというと、チェッカーズもそうでしたね。
速水氏■チェッカーズの場合は、バンドの始まったときの関係性というか権力バランスが、売れていく過程で変わっていくんですよね。主に高杢禎彦と藤井郁弥(フミヤ)だけど、幼馴染で、いじめっ子といじめられっ子という2人の関係が、バンドを始めてからひっくり返ってくるんですよ。歌もうまくて顔もよくてキャーキャーいわれるフミヤと、あまり自分で曲を作ったりできず、コーラスの1メンバーでしかなくて自分の立ち位置のない高杢というふうに。だけど高杢的には昔の関係性というのが自分の中では変えられないから、すんなりフミヤのいうことを聞くわけにはいかなくて。解散直前まで高杢はフミヤにタバコを買いにいかせていたって、高杢自身が暴露本――彼は「ボウロ本」って呼んでたけど(笑)――で割と素直に書いちゃってますね。
円堂氏■デビュー時と力関係が変わったというと、JUDY AND MARYもそうだったね。
速水氏■そう、あとから入れたギタリストが期せずして音楽的才能を発揮してしまい、バンドの権力図が、バランスが変わっていくんですよね。そこでやっぱり維持できなくなっていくっていうか。
パターンとしてはもう1つあって、売れなくなって、意見が別れるというケース。それはプリンセス・プリンセスのパターンなんだけど、メンバーのうち奥居香は、もうロックンロールとか言ってる年齢じゃないし、フレンチポップスとか大人の音楽をやりたいと。それに対して、中山加奈子は、もう1回私たちはヒョウ柄着て(笑)、原点であるロックンロールに戻ろうよっていう。でもこのまま行くと私たち絶対けんかするから、仲のいいうちに解散しとこうよ、ってことになったんですね。
円堂氏■もめるということでいうとまた、誰までが作曲者なのか? みたいな問題もあるじゃない。全員で曲を作っていくときに、ボーカルの人は歌の部分を作るのが作曲だと思っていて、ギターの人はコード進行とギターリフを作るのが作曲だと思っている。ドラマーの人は、最初のデモの段階ではロックンロールだったのを俺がレゲエに変えたよ、みたいなのがあって。で、キーボードの人は、12小節とか与えられたスペースでアドリブをバーッと弾き、最後にベースが、みんなに合わせて僕も弾いたよ……といったときに、誰までが作曲者と認められるかっていうのは、それぞれのバンドによって違うじゃない。力関係とかが関わってくる。
速水氏■(ビートルズの)リンゴ・スターは間違いなく認められなかった。でも、(レッド・ツェッペリンの)ジョン・ボーナムとかはまさにそこは中心的に入っていくわけよね。
円堂氏■やっぱり、自分の手柄をうまく訴えることのできない人は淘汰されちゃうのかな。
速水氏■でも、組織ってそういうものなのかもしれませんね。