『バンド臨終図巻』著者 速水健朗氏・円堂都司昭氏インタビュー
0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
解散が不可能になった?
――この本の各章のコラムでは、「バンド名=看板を貸すことでバンドの延命をはかる」(円堂都司昭)、「ユニットと“中の人”は分離可能」(栗原裕一郎)、「メンバーの死により解散ならぬ消滅するバンドがそろそろ出てくる」(速水健朗)といった具合に、どれも解散の不可能性が示唆されているように思ったのですが。バンドの解散の形というのは、昔と現在とではかなり変化しているんでしょうか。
円堂氏■ロックに関していえば、昔は大人になったらもうやらないみたいなイメージがあったけれど、それがなくなっちゃったし。むしろ、いかにバンドを維持していくかに重点が置かれているというか。僕がこの本で取り上げた中で言うと、イエスって、すごく紆余曲折あって、人事異動がものすごくあるんだけど。あそこのベーシスト(クリス・スクワイア)は「人事部長」と呼ばれているほどで(笑)。新しいメンバー入れるときはたいてい彼が決めてるの。
でね、イエスでは歴代のメンバーが2派に別れて、どっちが本家か争った時期があって。本来5人組のバンドが(新メンバーも入れて)4人対4人に別れてしまって、和解したあとに8人でツアーに出たもののそんな状態が続くわけがなく、そのうち3人がやめて5人に戻るんだけど、やめた3人のうち2人は『シンフォニック・イエス』っていう企画に参加したのね。それはイエスの曲をオーケストラアレンジでカバーするという企画で、イエスに関わった人から何人か呼んできたという。さらにその2年後かな、今度はイエスのトリビュート盤っていうのが出て、ここでもイエスの歴代メンバーが何人かゲスト参加していて(笑)。本家をやめてるのにイエスの看板から逃れられないのね。組織としてのバンドと、もう1つブランドとしてのバンドみたいなのがあるとすれば、イエスの場合は後者がかなり強くなっている。
速水氏■いまと昔の違いでいうと、たぶん作品のリリースの間隔も変わってきてるんですよ。たとえば昔だったら1年間でもレコードをリリースしなかったら、ものすごく休んでる感があったんだけど、いまはミスチルなんか平気で2、3年間休むし、スピッツやドリカムも1年にシングルを1枚出すというペースだけど、それで十分にやっていけている。90年代前後に出てきたバンドって、みんなそういうふうに寡作のビッグバンドと化しているんです。
要するに、レコード会社のリリースやビジネスのタイムスケールが変わっているから、いちいち解散する必要がなくなった。存続するだけだったら維持費もかからない。せいぜい必要なのはホームページの運営費ぐらいで。それすらも払えなくなったら、ようやくホームページで解散を宣言するという。最近そんなケースがけっこうありますね。
――考えてみたら、globeもMy Little Loverもまだ解散してませんしね。
速水氏■解散ビジネスというのは最後の切り札なんですよ。サンライズが、ガンダムのDVDボックスを切り札に引っ張ったのと同じ。ただ、あんまり引っ張りすぎても商品価値なくなるから、どのタイミングで出すかっていうのもけっこう重要になってると思います。あと、音楽産業自体がでかくなったというのもありますね。70~80年代って音楽産業は豆腐業界ぐらいの規模って言われていた。それがミリオンセラーが続出する90年代に急に巨大産業になったんです。そうなると、たとえばサザンオールスターズみたいなバンドがいざ解散となると、経済的な事件なんですよ。レコード会社や所属事務所、協賛している企業の株価にめっちゃ影響を与えてしまう。なので、実質解散でも、とりあえずは無期停止にしておこうとか。
円堂氏■あと、昔はバンドのメンバーがソロ活動を始めると、すぐ解散って言われたけど、いまはそうじゃない。ソロ活動や別ユニットは、かえってバンドの延命策として使えるというぐらいに考え方が変わってきた。
バンドにおける“派遣切り”問題
――音楽に関しても、かなり1人でできる部分が大きくなってると思うんですけど、そういうこともバンドに影響してるんじゃないですか?
速水氏■それは影響してるかなあ。バンドからドラマーがいなくなるっていうのは、まさにそういう話じゃないですか。いらないわけですよね。くるりはドラマーが脱退して、そのあと補充しなかった。オレンジレンジもそうだし、そういうバンドはけっこうある。高校生が「バンドやろうぜ」と言っても、「俺ギター!」「俺ボーカル!」「俺DJ!」とかってなりそうじゃないですか。ドラマーはなくともバンドは成り立つと。
円堂氏■ある程度でかくなったバンドだと、誰かが抜けたあとに交代で新メンバーを入れるっていうんじゃなくて、サポートを入れたほうがうまくいくっていうか。サポートなんかいつクビ切ってもいいわけだから。正社員は雇わない、派遣でいいよみたいな感じで。
速水氏■バンド業界でも派遣業の規制緩和が行われたと(笑)
担当S氏■Twitterでの読者の方の感想を見ていて、秀逸だなと思ったのは、バンド解散の理由として「音楽性の違い以外に、後輩に抜かれる、ソロ活動にはまる、イメージチェンジに失敗する」、そして「打ち込みにハマる」っていう。
速水氏■TMNってたしかにそういうところがあったよね。
円堂氏■2、3作やって伸び悩んでくると、たいてい打ち込みを始めて誰かやめるんだよね。
――たぶんこれだけ技術が進むと、みんなで集まって曲を作ったり演奏したりするっていう必然性みたいなものもなくなってくるんじゃないでしょうか。それこそ、会社でいえばもうオフィスはいらない、みたいな感じで(笑)。
速水氏■P-MODELの平沢進が似たようなことを言っていて。P-MODELは、メンバーはプラグインが集まったユニットだ――みたいなことを言っています。それは最終的にやっぱり、メンバーはいらないってことになって、ひとりでやっている。AKB48でも秋元康が「ウィンドウズからリナックスへ」みたいなことを言っています。絶対、リナックスは触ったことないと思うけど(笑)。プロデューサーとしての勘は鋭い人なので、グループをカーネルと各コンポーネントみたいな関係を組織に当てはめているのは間違いない気がします。実際にAKB48は、モジュール化された組織としてみることができます。
――つきつめていくと、どうしてもそういうことになっちゃうんですかね。
円堂氏■ポール・マッカートニーもビートルズが解体した直後、多重録音という方法で、割と個人でできる方向のアルバムを作りました(『マッカートニー』)。それに対してジョン・レノンは、小野洋子と組んでプラスティック・オノ・バンドというバンドを始めた。これはコンセプトとしては、誰がメンバーになってもいい、出入り自由というものだったんですけど。
それがいまや、ポールのやった多重録音みたいなのは、打ち込みの技術の発達でどんどんできるようになっているし、ジョンが言っていたような出入り自由っていう概念も、ソーシャル・ネットワーク化によって実現してきている。そう考えると、ビートルズ解散後の2人の態度はかなり象徴的ですよね。
取材・構成(
近藤正高)
●速水健朗(はやみず・けんろう)
1973年石川県生まれ。フリーランス編集者・ライター。ポップスターの自叙伝コレクター。著書に『タイアップの歌謡史』(新書y)、『自分探しが止まらない』(ソフトバンク新書)、『ケータイ小説的。』(原書房)など。
●円堂都司昭(えんどう・としあき)
1963年千葉県生まれ。文芸・音楽評論家。小説、ロック、Jポップ、ディズニーランドなど幅広い事象について語る。2009年『「謎」の解像度』(光文社)で日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞を受賞。著書に『YMOコンプレックス』(平凡社)。共著に『ニアミステリのすすめ』(原書房)など。
評価する
いいね!でぜひ著者を応援してください
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。