- 2012/09/14 掲載
【塚越健司氏インタビュー】ネットにおける新しい社会運動を考える──アノニマスは仮面を被った2ちゃんねらーなのか?
『ハクティビズムとは何か』著者 塚越健司氏インタビュー
ハッカーの過去と現在
──塚越さんはこのたび『ハクティビズムとは何か』という本を上梓されましたが、ずばり「ハクティビズム」とは?塚越健司(以下:塚越氏)■ハクティビズム(hacktivism)というのは「ハック(hack)」と「アクティビズム(activism)」を掛け合わせた造語で、1995年頃から使われはじめたといわれています。ハックとは、解釈が難しい言葉なんですけど、情報技術を操って物事を改善する、合理的あるいは創造的なプログラミング行為のことを指しているといえます。
一方のアクティビズムとは、「積極行動主義」ないし「政治的行動主義」と呼ばれる考え方で、ある目的を達成するための政治活動や社会運動を意味します。つまりハクティビズムとは、情報技術を用いて社会運動を行うことです。
──そのハクティビズムには現在、大きく分けて2つの潮流がある、と著書の中でおっしゃっていますね。
塚越氏■はい、1つは、何らかの新しいツールを開発し、法律や政策を無効化することによって間接的に社会の変革を促すタイプで、僕は「正統派ハクティビズム」と呼んでいます。代表的なのはリークサイトのウィキリークスですね。
もう1つは、政府系サイトなどにDDoS攻撃(Distributed Denial of Service attack=分散型サービス拒否攻撃。特定のサーバに多数のコンピュータが一斉にアクセスすることで、サーバを処理不能にさせるサイバー攻撃)を仕掛けたり、不正にアクセスして個人情報を流出させたり、ときには現実社会でデモを行うなどして直接的に社会の変革を目指す「直接抗議型ハクティビズム」。こちらの代表としては、国際的抗議集団のアノニマスが挙げられます。
──このウィキリークスやアノニマスはいきなり出てきたのではなく、彼らが生まれるに至った歴史的背景がある。すなわち1950年代後半から脈々と続くハッカーの伝統があり、時代を経て彼らは徐々に政治性を帯びていったと。その過程を追うとともに、そこに根づく「ハッカー倫理」について考察したのが本書です。執筆のきっかけは?
塚越氏■僕はもともとフランスの思想家、ミシェル・フーコーの研究をしていたんですけど、そこでフーコーの権力論と現実の社会的変化の接点について考えていたとき、たまたま2010年にウィキリークスが公開したイラクの民間人殺傷動画を見たんです。ネット上にありながら、かつ決して大きな団体でないのにもかかわらず社会に影響を与えるようなものがあることに驚き、そこからアノニマスの活動にも興味を持って、文献を探っていくうちにハクティビズムという言葉に突き当たりました。
特にアノニマスは、日本では「ハッカー集団」といわれていますけど、そもそも「ハッカー」というものがあまり体系化されていないし、実はアノニマスの行動は日本のネット文化・匿名文化に近しい側面があるので、僕ら日本人が彼らについて語ることは大きな意味があるんじゃないかと。そんな関心からスタートしています。
──実際、アノニマスの起源は日本の画像掲示版「ふたば☆ちゃんねる」(もとは巨大掲示版「2ちゃんねる」の避難所として設立されたサイト)を模して2003年に作られたアメリカの巨大画像掲示版「4chan」にありますからね。
塚越氏■4chanに書き込むときの初期設定のハンドルネームが「アノニマス(anonymous=匿名)」で、これは2ちゃんねるにおける「名無しさん」と同じ。要するにノリが似ているというか、2ちゃんねるに代表される日本の匿名文化が欧米にも根づいてきた感じがするんですね。
たとえば、2000年代半ばに欧米圏で「フラッシュモブ」という現象が流行しました。これは「一瞬の群衆」や「閃光の暴徒」と訳され、伊藤昌亮さんの著書『フラッシュモブズ』(NTT出版)から引用すると「インターネットや携帯電話を通じて呼びかけられた見ず知らずの人々が公共の場に集まり、わけのわからないことをしでかしてからすぐにまた散り散りになること」です。
詳しくは伊藤さんが上記の著書で論じられていますが、これって、2000年代初頭に見られた2ちゃんねるの「吉野家オフ」(指定された時間に牛丼チェーン店の吉野家に集まり、決められたルールで牛丼を食べて帰るオフ会)なんかにちょっと通じるものがありますよね。
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