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- 2016/08/25 掲載
「脳」をめぐるリテラシーは何に役立つのか?
山本貴光氏・吉川浩満氏インタビュー
脳への関心の高まり
──2004年に刊行された『心脳問題』は、心と脳はどのように関係しているのかという難問を通して、脳の情報とどう付き合うかを説いた先駆的な本だったと思います。当時、この本を書こうと思った動機をお聞かせください。山本貴光氏(以下、山本氏):少しさかのぼってみると、私たちが大学に入った1990年頃、養老孟司さんの『唯脳論』(青土社、1989)が話題にもなって、「脳を考えることは社会や世界を考えることでもある」という気運が高まっていたんですよね。その後、脳科学や技術の発展とともに、脳にかんする議論が盛り上がってくると、「女性が電車で化粧をするのは脳の構造のせいだ!」といったおおざっぱな主張なども出てきて、そうした本も増えていきました。つまり、脳科学で分かることと、分からないことの違いが見えにくくなった。そうなってくると、当然リテラシーは必要になってきますよね。
吉川氏:(1)は「カテゴリー・ミステイク」、(2)が「パラドックス」と呼ばれるものですね。脳科学のリテラシーが正しく機能しているかをチェックする際に、このような観点が有効だと思います。
山本氏:脳について考えることは、一方では脳という物質について考えることであり、科学の課題です。それと同時に、他方では心や精神という人間のあり方、さらには人間と環境の関係、人間と人間の関係について考えることでもあります。脳をめぐる言説を哲学や倫理の面から見ることも重要なわけですね。
知見は広がり、技術は進んだ、が……
──今回『心脳問題』から12年が経ち、増補改訂版として『脳がわかれば心がわかるか』と改題され刊行されました。この間の脳科学のリテラシーをめぐる変化をどのように捉えられていますか?山本氏:脳科学の知見を活かした技術が、誰の目から見てもわかるかたちで提示されるようになったことは大きいと思います。たとえば、ブレイン=マシン・インタフェースなどはその典型です。手を動かさずとも、意識することで機械を操作するという技術の力を目の当たりにできるわけですよ。ここまでできるくらい脳のことがわかってきているなら、心もわかるだろう、そう思う人が増えても無理はありません。心と脳の関係、つまりは心脳問題についてあれこれ悩まずとも、技術が大半のことをカバーしてくれるように見えるわけですね。
──裏を返せば、問題はかすんでいるだけで解決していないとも言えますね。
吉川氏:そうですね。技術的にはさまざまなことが可能になっているのですが、突き詰めて考えたら謎だらけであったり、あるいは技術の進展によって新たに生じた問題なんかもあります。たとえば医療などでは脳死・臓器移植やターミナルケアといった問題がそうですね。脳科学についても同じで、クオリアの解明、自由意志の有無、エンハンスメント(能力やルックスの強化)の是非など、新旧さまざまな未解決の問題が転がっています。
【次ページ】 リテラシーの重要性
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