- 2010/10/13 掲載
【迫川尚子氏インタビュー】制約を踏まえて創造的な仕事を!――小さなお店ベルクの豊富なアイデアとネットワーク
『食の職 小さなお店ベルクの発想』著者 迫川尚子氏インタビュー
成長は人から教えてもらうのではなく、自分で発見すべきこと
――『新宿駅最後の小さなお店ベルク』に続くベルクの本である『食の職 小さなお店ベルクの発想』は、さまざまな店のこだわりが垣間見える素敵な本でした。この本をお書きになるきっかけをお教えいただけますか。迫川尚子氏(以下、迫川氏)■ありがとうございます。2年前にうちの店長が上梓した『新宿駅最後の小さなお店ベルク』がそこそこ売れまして、同じ出版社から第2弾のお話がすぐ私にあったんですね。正直、私は写真家でもありまして、写真集を出したいという気持ちはいつもあるのですが(今のところ1冊だけ『日計り』という写真集を6年前に新宿書房から出しています)、文章となると店長と同じで本業じゃありませんし、え? 私が書くの? と半信半疑でした。20年も店をやっていますと、ネタには困りませんけれど(笑)。
というわけで、人様のお役に立てるかどうかの判断は担当編集者の稲葉さんにお任せすることにして、思い浮かぶことを片っ端から書いていきました。ただ、前回あまりつっこめなかった商品開発に関することは、読者からリクエストもいただいていましたし、私の担当なのでそれが中心になるだろうとは思っていました。
――本書では、商品開発について「スペース、コスト、そして時間」という3つの制約をクリアしつつ美味しいものを生み出そうとされている様子が描かれています。大変さの中にある醍醐味ややりがいにはどのようなものがありますか。
迫川氏■映画でもそうでしょう? 低予算、短時間、限られた空間の中で作られた映画に、意外と後世に残る名作があります。ある程度、制約というのはあった方が発想の転換を求められるし、いろいろ知恵が働いて、創造的な仕事が生まれやすいのではないでしょうか。と、客観的に言えばそうなりますが、当事者は「こんちくしょう!」と思ってやるしかありません(笑)。あきらめさえしなければ、道は開けるものです。
もしチェーン展開していて、本部とか倉庫、セントラルキッチンがあれば、調理1つとってもこんなに苦労しなくてすんだのでしょう。でも、あらゆるものが1つの場所におさまっていると、生活感は出ますね(笑)。やっぱりその場でお作りしたものをお出しする方が、単に物を売るんじゃなく、自然とおもてなししているという感覚になれます。それが飲食店本来の姿じゃないでしょうか。って、ほとんど負け惜しみですが(笑)。
――スタッフやアルバイトについても本書では綴られていますが、とくに「しっかり育てたい」とお考えになっていることが興味深かったです。改めて店におけるスタッフやアルバイトの方々へのスタンスをお教えください。
迫川氏■仕事って、何か自分なりに発見がないとやってられませんよね? 例えば、順番でオーダーを伺っているのに、なぜこのお客様はそれを無視されるの? と思うことがあります。でも、お客様って、ほかにどれだけお客様がいらっしゃっても、自分だけがお客様なんです。理不尽に思えますが、そういうものなんです、お客様って(笑)。もちろん、順番は守っていただきますが、それさえわかっていればこちらの対応も微妙に変わってきます。少なくともイライラすることはありません。イライラしたら負け。負けというのも変ですが。
そういうのは、人から教えてもらうというより、自分で発見することなんです。そうでないと、成長もありません。本当にそれは本人次第。時間も必要ですね。それを上の立場にいるものは待たなければなりません。ある程度のことは指導しますが、それから先は見守る。そう考えると、本当に教育です。ここは職場だ! 学校じゃない!――と悲鳴をあげたくなるときもそりゃありますよ。職場としての割り切りと言いますか、「あなたにこの仕事は向いていない」と見極めてあげた方がお互いのためだったりする。ただ、鍵になるのはやっぱり本人のやる気ですね。やる気さえ感じられれば、私は10年だって待ちます(笑)。
PR
PR
PR