『食の職 小さなお店ベルクの発想』著者 迫川尚子氏インタビュー
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大手も個人店も切磋琢磨して、飲食業界全体を盛り上げよう!
――本書の2章を読んで、ベルクが優れた職人さんとつながっていることがよくわかりました。その方たちとつながれた理由については「出会いそのものは偶然で、運に助けられた」とも書かれていらっしゃいますが、何かそのような優れた職人さんを探すコツはありますか?
迫川氏■好奇心とフットワーク。その2つかな。「味見」は私の仕事です。自分の店のものもそうでないものも、けっこう毎日、さまざまな食材を試しています。でもただの仕事だったら、苦痛になるかも。やっぱり好きじゃなきゃ続けられない。食べ続けるうちに、作り手に会ってみたい! と思わせる食材に出くわすこともあります。そのとき、どう動くか。すぐ会えそうなら会うし、難しそうなら名刺だけでも置いていく。とにかく、何らかの形でつながりを作っておきます。それがどこでどう生きるかはわかりませんけれど。
私は写真家として街のスナップを撮っていまして、街歩きがライフワークでもあるんです。それも大きいかな。写真家心をくすぐる街ってあるんですよ(笑)。探しに行くというより、誘われてさまよい込む感じ。くねくねと曲がりくねった路地。さあーっと吹き抜ける風。古びた看板。電線の影。ふり返ると、猫がこちらを見ている。一休みと思うと、昔ながらのパン屋さんやお菓子屋さんが開いている。即、仕事につながるかどうかは別にして、掘り出し物はそんなふうにふいにあるものです。
――JR新宿駅の東口改札のすぐ近くにベルクはありますが、この場所へのこだわりや思い入れなどございましたらお聞かせください。
迫川氏■やっぱりターミナルであるということ。しかも、世界一の乗降客数を誇る鉄道の大中継地点です。多種多様な人たちが多種多様な目的で行き交うこの場所に、今でもクラクラと立ち尽くすことがあります。ここで何かやれないか、という興味からベルクを始めました。何の制約もなかったら、何をしでかしていたかわかりません(笑)。一応、飲食店としての営業許可が降りていましたので、その制約の中でやれることをやろうと思いました。
――この本を出されたことについて、周囲の反応はいかがだったでしょうか? またお客さんや読者からはどのような感想がございましたか?
迫川氏■読むと、「お腹が鳴ってしょうがない」というのはよく言われますね。私も書きながら鳴りました(笑)。やっぱり、今、商品開発の章で紹介したメニューがガンガン出ますよ。読者の方からもじわじわ感想が寄せられていまして、男性の読者の方で、「この世知辛い時代に仕事(職)をもっているすべての人に、誇りと勇気を持たせてくれる本」と言ってくださって、出版社の方もそのフレーズをいたく気に入って、宣伝などに使っているようです。
また、ご職業がシンガーソングライターだったかな、広島の女性で、書店でふと背表紙にひかれて、買ってくださって。いい本にめぐりあえたってメールをいただきました。「読み終えたこれから、心に残った言葉を書き留めてみたい」と言ってくださいました。息子が飲食店を始めたので、プレゼントしたという方もいらっしゃいました。
――飲食業界で働いている人やこれからチャレンジしようとする人へ何かアドバイスやメッセージがあればお聞かせください。
迫川氏■いや、みなさん、ライバルですよ(笑)。何か新しくて面白いことをしている人がいたら、同業者ならなおさら気になるし、見に行けるところは絶対行くし、やっぱりそれが刺激になって自分の仕事にもかえってきます。飲食店も一度軌道にのると、よほど信用を裏切ることでもしない限り(それはそれで気が抜けませんが)、とりあえず安泰です。この仕事って、本当に99%は地道な作業の積み重ねですから。かえってアンテナが鈍り、成長が止まる恐れもあるのです。だから、今、私たちの課題と言うか、自分自身に言い聞かせているのは、現場も大事だけど、現場を離れるのも大事だということ。一つひとつのお店が成長し、飲食業界全体が活性化しないと、結局、自分たちの首をしめることになります。
店長は、前回の本で、個人店(インディーズ)から出店のチャンスすら奪う(大手優先の)法制度のあり方に「待った!」と書きました。それはそれとして、ライバルという意味では、個人店も大手系列店もカンケイありません。みんなで刺激しあいながら盛り上げていきましょう!
●迫川尚子(さこかわ・なおこ)
ベルク副店長。写真家。種子島生まれ。女子美術短期大学服飾デザイン科、現代写真研究所卒業。テキスタイルデザイン、絵本美術出版の編集を経て、1990年から「BEER&CAFE BERG (ベルク)」の共同経営に参加。商品開発や人事を担当。唎酒師、調理師、アート・ナビゲーターの資格を持つ。日本外国特派員協会会員。1年364日ベルクに勤務する一方で、職場を脱出しては、日々、新宿、東京を撮り歩いている。写真集に『日計り』(新宿書房)がある。
サイト:
BERG
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