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  • 2006/04/25 掲載

芹沢一也氏インタビュー~今でも日本はもっとも安全な国です。

Business CoffeeBreak ~少年犯罪を考える~

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『狂気と犯罪』(講談社+α新書)に続き、『ホラーハウス社会』(講談社+α新書)で、治安管理体制が急速に進む現代の日本社会に警鐘を鳴らした芹沢一也氏。「ホラーハウス化」する社会の実態と、今後の行方について話を伺った。


Q.前作『狂気と犯罪』で精神障害者と犯罪の歴史が主題になっていましたが、最新の著作『ホラーハウス社会』では精神障害者とともに少年の犯罪にも焦点が当てられています。精神障害者と少年という両者を扱う動機とは何だったのでしょうか。


【芹沢】『狂気と犯罪』は、明治時代以降の狂気と犯罪の関係を歴史的に見直し、その帰結として2003年に「心神喪失者等医療観察法」(以下、医療観察法)が成立した流れを追ったものです。医療観察法とは、精神障害者の再犯を防止するためにつくられた法律です。重大な犯罪を起こしたけれども、精神障害を理由に不起訴処分や無罪になった人たちを、強制的に入院、もしくは通院させるという実質的な「保安処分」です。
 じつはこれまで何度も、触法精神障害者に対して保安処分をつくろうという動きはずっとありました。ずっとあったのですが、いつも潰されてきたのです。でも2001年の池田小学校事件の後、急に法案が成立した。「なんでこの時期に医療観察法ができたのか」を解こうと、異なった視角からふたたび取り組んだのが『ホラーハウス社会』です。
 精神障害者犯罪の領域で医療観察法ができた理由は、少年犯罪の領域の動きを視野に入れるとよく理解できます。医療観察法の成立は少年法改正と同じ歴史的な文脈のなかにあります。そこで本書では、精神障害者犯罪と少年犯罪を組み合わせて、90年代半ば以降の社会で起こった“ロジックの転換”を取り出してみようと試みています。


Q.『ホラーハウス社会』では、犯罪は凶悪化も急増もしていないと指摘されていますよね。

【芹沢】 [芹沢]『犯罪白書』を見ると、たしかに2000年ぐらいに急激に検挙率が下がって、犯罪認知件数がすごく上がっています。そこで、犯罪の急増に対して警察力が追いついていないという議論が起きましたが、実際はそんなことはありません。
 2000年というのは、ストーカーやドメスティックバイオレンスなど、それまで警察が不介入だった事件を受理するようになった時期です。つまり「これからは市民の声を受け入れよう」と、それまで受理されていなかった事件が積極的に受理されるようになった。その結果、認知件数が増えたというだけの話です。
 検挙率に関しても理由があります。たとえば窃盗犯を捕まえると、だいたい50件くらいは余罪があったりします。50件認知されても、犯罪者は1人。余罪を追求すれば、50件ぜんぶ検挙されたことになりますが、警察の方針が変わってそうしたことをしなくなった。そうすると、残りの49件は検挙されていないことになって、検挙率が下がるわけです。  


Q.治安は悪化していないのに、人々が過剰に不安を覚え、治安管理が急速に進んでいるということでしょうか。

【芹沢】 そうです。さらにその不安に、セキュリティビジネスが乗っかってきています。人びとの不安がマーケットになっているわけです。アメリカのように何万件も連れ去りがあるとか、防犯を強化しなければならないだけの治安悪化の現実があればいい。でも日本の場合は、治安が安定している、あるいはいいほうに向かっているのに、そうした状況が起こっているのがおかしいんです。


Q.防犯活動に走る人々を、“「子供を守る」という名分のもと、楽しんでやっている側面もある”と冷や水をかけましたよね。恐怖を快楽として消費している社会を「ホラーハウス」と名付けられています。

【芹沢】 実際、防犯ボランティアをやっている人たちからは、「いままでバラバラだった地域が治安でまとまった」といった喜びの声が必ず聞かれます。防犯活動は地域住民にやりがいを与えているのです。「子供を犯罪から守るために、こういう効果が実際にある」という科学的な分析のもとになされているわけではありません。治安を守ること自体はもちろん悪くはありません。ただ、不安を打ち消すために防犯活動にいそしみ、治安管理に邁進しているところに問題があるのです。しかも、そのような治安管理の強化こそが、不安をさらに強めてしまっているという悪循環です。
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