『ハクティビズムとは何か』著者 塚越健司氏インタビュー
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──なつかしいですね。たしかに日本ではフラッシュモブ的な行為が欧米に先駆けて行われていました。
塚越氏■そういうのって、もともと日本人が得意だったはずなんですよね。だから、もちろん欧米の人が文化人類学的なアプローチでアノニマスを読み解くという手もありますけど、やっぱり匿名文化に慣れ親しんでいる日本人が「アノニマスってこういうこと考えているんじゃないの?」と考察できる面もあるかと思います。
その一方で、日本でもハックの伝統について考える人々がいて、そういう形で議論が盛り上がるのは、非常に有益だと思うんです。その意味でも、この本が少しでもハクティビズムを考える叩き台ないし参考文献になれば嬉しいですね。
──たしかにアノニマスって、政治に特化した2ちゃんねらーみたいなところがありますよね。では逆に、アノニマスと、2ちゃんねるに象徴される日本の匿名文化の相違点は?
塚越氏■決定的なのはアイコンの有無ですね。つまり、アノニマスにはガイ・フォークスの仮面(1980年代の英コミック『Vフォー・ヴェンデッタ』で、全体主義国家となった近未来のイギリスで主人公「V」がこの仮面を被って体制に抵抗した。仮面自体も17世紀のイギリスに実在したガイ・フォークスという体制への反逆者を模したもの)があった。
この仮面によってアノニマスのブランドというものが確立されたわけです。一方で2ちゃんねるは「やる夫」(2ちゃんねるで考案されたAA[アスキーアート]の人気キャラクター)などいくつかの有名なものはありますが、いまだに有象無象の衆がうごめくよくわからない場所として認識されていますよね。
アノニマスは、2010年以降は4chanから分離して、IRC(インターネット・リレー・チャット)というチャットシステムを立ち上げ、そこでより密なコミュニケーションをとっています。このように急速に政治色を強め、かつ曲がりなりにも1つの組織としてまとまっているというのは、すごく特徴的なことだと思います。
──あの仮面はちょっとした発明ですよね。
『「統治」を創造する』
塚越氏■仮面を被るっていうことは別の人格になることだし、すでにアノニマスブランドができあがっているから「オレもアノニマスの一員だから」みたいな意識が生まれるんですよね。
僕は2012年7月、日本のアノニマスが行った渋谷清掃作戦(「オペレーション・アノニマス・クリーニング・サービス」。同年6月20に可決された「違法ダウンロード刑事罰化」に抗議する目的)を見に行ったんですよ。おそらく参加者の大半が一度もアノニマスの活動をしたことがない人だったように思うのですが、みんな驚くほどちゃんとしていました。だからあの仮面は、良くも悪くも集団を規律化する装置としても機能しているんです。
──中身は有象無象の集団なのに、みんなで同じ仮面を被ることで、なんだか統一された意思を持っているように見えてしまう。
塚越氏■いわば、仮面を被ること自体が1つのネタなんですよね。顔を隠して匿名性を維持できる上に、仮面を被った人が100人集まるだけで面白いという、それ自体でネタとして成立してしまっている。人を動員しようとするとき、そこに1つネタを噛ませれば、結構な数が集まるわけですね。それと、もう1つ重要なのが大義の存在です。アノニマスは、一枚岩でないからこそ、「情報の自由を守る」という抽象的な、しかし誰もが賛同しやすい大義を掲げて人々の動員を図っているんです。
それから、最初にお話しした「ハック」の定義からすると、アノニマスってかなり異質な存在なんですよ。つまり、本来のハクティビズムは独創的なツールを開発することで社会をハックしようとしていたわけですけど、アノニマスは既存のツールを用いて人を動員して、数の論理でそれをやろうとしている。
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