『ハクティビズムとは何か』著者 塚越健司氏インタビュー
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企業はネットの声とどう向き合うべきか
──2011年4月に、ソニーの運営するオンラインサービスがアノニマスのDDoS攻撃を受けました。その後、アノニマス以外からも攻撃は続き、1億件を超える個人情報が流出した事件となりました(アノニマスは最初のDDoS攻撃以外は関与を否定)。ソニーの被害額は百数十億円ともいわれますが、これは日本の企業にとっても他人事ではない部分もありますよね。
塚越氏■アノニマスは「情報の自由を守る」という抽象的な大義を軸に、時に法的規範を飛び越えて活動することもあります(アノニマス内のアノンオプスという派閥。日本で活動するアノニマスには合法活動に専念する者たちが多い)。だから、企業側は「別に法に違反しているわけじゃないから問題ないでしょ?」と思っている行為でも、ネットで不評を買えば攻撃される可能性は常にあります。市民がネットを通じて声をあげるようになり、実力行使を伴うようになった結果、企業としてはコンプライアンスを超えた対応を考える段階にきているといえますね。もちろん、だからといってアノニマスの非合法行為を私は賞賛はしませんが。
──何が火種になるかわからない恐さもありますよね。
塚越氏■企業がネットの世論を恐れて、つまりアノニマスの仮面が単なる恐怖の対象になって『1984年』(全体主義国家における監視社会の恐怖を描いたジョージ・オーウェルのSF小説)の逆バージョンみたいな、アノニマスによる監視社会が到来しても困ります(もちろん市民の側からの企業・政府に対する監視は必要ですが)。その点では、僕はアノニマスの活動に危機感を覚えてもいます。
だから企業側も、何かあったら謝るだけじゃなくて、自分たちが絶対に間違っていないと思えばそういう声明を出せばいいと思うんですよね。そうすることで「お、よく言ったな」みたいな反応が期待できるかもしれない。いわば企業価値の上げ下げの幅がさらに大きくなった。あるいはネットユーザーとの対話の中で、評価される指標が1つ増えたわけで、必ずしも企業にとってマイナスばかりではないですよ。
──ネットおよびハクティビズムにより、企業とネットユーザーのやり取りが可視化されたと。
塚越氏■企業側がどんな対応をしていたかっていうのがすぐバレてしまうじゃないですか。クレームの電話対応がネット上にアップされたりして。それは大きな脅威であり、良くも悪くも極端なんですよ。しかも、それは加速化する方向にありますよね。これは識者みたいな人が道徳的な発言をして啓蒙しても、止まらない流れでしょう。もちろん啓蒙すること自体は大事ですよ。ただ、それでは止まらないんです。であれば、その極端さや加速とどう付き合っていくかのということを考えなければならないですよね。
──ハクティビズムなどの潮流をより深く理解するために、『ハクティビズムとは何か』と併せて読むとよい本はありますか?
塚越氏■まず必読といえるのはスティーブン・レビーの『ハッカーズ』(工学社、1987年)ですね。「ハック」および「ハッカー」の成り立ちや、この界隈で必ず参照される「ハッカー倫理」について詳細に書かれた基本書です。
レビーにはもう1冊『暗号化──プライバシーを救った反乱者たち』(紀伊國屋書店、2002年)という本もあって、こちらは主に90年代の、暗号輸出を巡るハッカーと政府の争いにフォーカスしています。要するにハッカーが政治的な活動をするようになった経緯、あるいはハッカーの1つの転換期を捉えた本ですね。ただ、レビーの本はいずれも大著でやや古いのが難点といえば難点ですが。
──日本人が書いたものだと?
塚越氏■東浩紀さんの『情報環境論集──東浩紀コレクションS』(講談社BOX、2007年)がまずあります。同書は東さんが『中央公論』で2002~03年まで連載していた論考が収録されているのですが、90年代のハッカー倫理にまつわる話や、ハッカーたちの政治的な活動にも触れていて、ハッカーと社会との関係を考える上で重要な本だと思います。
それから、池田純一さんの『ウェブ×ソーシャル×アメリカ──〈全球時代〉の構想力』(講談社現代新書、2011年)。これはアメリカ西海岸のハッカー文化の紹介をはじめ、さまざまな論点が散りばめられていて、非常に知識豊富で、文字通りWeb、ソーシャル、アメリカというものがよくわかります。これを読んでおくといろいろなところで役に立ちますよ。
あと、ウィキリークスやアノニマスは人々を「動員」するのが上手なんですが、TwitterやFacebookといったソーシャルメディアには、動員をより容易に実行させる機能が備わっています。それについてよくまとめてらっしゃるのが津田大介さんの『動員の革命──ソーシャルメディアは何を変えたのか』(中公新書ラクレ、2012年)。
同じく「動員」というテーマでおすすめしたいのが、2011年の「オキュパイ・ウォールストリート」(アメリカの金融界や政界に抗議するデモ活動)や、それを含めたデモの歴史などを扱った五野井郁夫さんの『「デモ」とは何か──変貌する直接民主主義』(NHKブックス、2012年)。ここで五野井さんは「クラウド化する社会運動」という言葉を提唱し、リアルな社会運動とソーシャル的なものとがどう結びついているかを論じられています。
──では最後に、塚越さんは今後どのような活動をしていきたいですか?
塚越氏■これまでハクティビズム、特にアノニマスの活動を見てきた身としては、この運動がよい方向に動いてほしいと思っているんですね。だとするならば、どうすれば社会に有効に働くのかを探るというのが実践的な課題としてはあるのかなと。それは国の法律をいじるのか、それとも、僕が直接アノニマスを手伝うことはないと思いますけど、アノニマス側に立って方法論を導き出すのか。
あるいは、日本のネット文化との比較研究をするなかで新しい発見をして、それを社会的に還元していくことでハクティビズムの活動を有益なものにできないか。学問としてハクティビズムについて突き詰めて考えていくことが重要である一方で、実際に自分に何ができるのか、そういう価値を考えることをしたいです。
(取材・構成:須藤輝)
塚越健司(つかごし けんじ)
1984年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程在籍中。専攻は情報社会学、社会哲学。研究対象は、思想家ミシェル・フーコーからウィキリークスやハクティビズムなどネット社会の諸現象まで幅広い。
著書に『ハクティビズムとは何か』(ソフトバンク新書)、共著に『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)がある。その他にも雑誌やラジオなどでも積極的に自身の研究に基づき発言を続けている。
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