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  • 【真実一郎氏インタビュー】サラリーマン漫画を通して見えてくる日本人の働き方と生き方の変化

  • 2010/10/12 掲載

【真実一郎氏インタビュー】サラリーマン漫画を通して見えてくる日本人の働き方と生き方の変化

『サラリーマン漫画の戦後史』著者 真実一郎氏インタビュー

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日本型雇用の象徴であった「終身雇用」と「年功序列」というシステムが崩壊する過程の中で、「サラリーマン」という存在は岐路に立たされている。そのような大きな潮流をサラリーマン漫画から読み解いていった本が『サラリーマン漫画の戦後史』(新書y)だ。ブロガーとしても活躍されている著者の真実一郎氏に、サラリーマン漫画が何を描いてきたのかについてお話を伺った。

なぜサラリーマンなのか?

――真実さんは、「インサイター」というブログを、まだブログサービスが登場する前から始めていて、『SPA!』や「毎日コミュニケーションズ」のサイトなどでも、漫画やグラビアアイドルについてのコラム連載を持っていますよね。ただ、『サラリーマン漫画の戦後史』という本は、人気ブロガーが本を書いてみましたといったものとはかなり違うように思えます。漫画は以前から興味の対象だったというのはわかるのですが、なぜ“サラリーマン漫画”を題材に本を書いたのでしょうか?

 真実一郎氏(以下、真実氏)■以前は、「サラリーマン」というテーマをとくに意識したことはなかったんですよ。でも、ここ数年、自分の仕事が忙しくなって、まったく家に帰れない状態になった。こんなに精も根も尽き果てるほど働かなくてはいけないんだろうか、という精神状態で「サラリーマンって何だ?」「仕事って何だ?」という問題意識が芽生え始めたんです。それで、ちょうど時間ができた頃に、かつてのサラリーマン映画が20本くらい特集上映されていたのを観に行きました。それまでは森繁久彌の「社長」シリーズと植木等の「日本一」シリーズくらいしか知らなかったんですが、それ以外にも1950~60年代にはたくさんのサラリーマン映画が日本で作られていたこともわかってくるわけです。

――その時代のサラリーマン映画って、今の僕らが観ても楽しめますか?

photo

『サラリーマン漫画の戦後史』

 真実氏■いや、面白くはないです(笑)。個人的には好きですけど、今観るとテンポが遅いし、物語の起伏も乏しいので、基本的には同時代を経験してないと退屈でしょう。社長シリーズ以外はあまりDVD化もされていないんですけど、やっぱりされないなりの理由があるんですね。そのサラリーマン映画特集が組まれた趣旨って、“いまのサラリーマンは元気を失っているから、サラリーマンが元気だった時代の映画を観てがんばろう”というメッセージだったようなんですけど、働く状況がまったく違うので、がんばろうという気分には全然ならない。ノスタルジーでしかないわけです。でも、かつてサラリーマンがエンターテイメントの主役として輝いた時代があった、というのは自分にとって発見でした。そして日本にはサラリーマンを題材にした娯楽作品がたくさんあるのに、それをまとめて研究したものが意外とないことにも気が付いた。

 そして、これは偶然ですけど、去年は、サラリーマン喜劇を代表する役者の森繁久彌が亡くなったり(※この取材の直後に、サラリーマン喜劇の常連だった小林桂樹の逝去もあった)、映画の『釣りバカ日誌』のシリーズが終わったりといった、昭和のサラリーマン文化の終焉を象徴するニュースが目に付くようになってきた。これを機に、それなら自分が調べてみようという気になったんです。

――それで、ブログを通してサラリーマンコンテンツ研究を発表し始めたと。

 真実氏■最初に突き当たった存在が、作家の源氏鶏太でした。かつてのサラリーマン映画ブームの頃の作品の半分以上に源氏鶏太のクレジットが入っているのに気が付いたんです。それまでも、名前としては知っているんだけど、1冊も読んだことのない作家でしたが、これを機に読んでみました。サラリーマンが登場する小説や映画は、これ以前にも存在しますけど、ジャンルとしてのサラリーマンものは、源氏から始まったんだと思います。サラリーマンを主人公に、サラリーマンの生活を描くということは、それまで誰もやっていなかったと源氏自身が言っています。それと、『課長 島耕作』の弘兼憲史はインタビューで源氏鶏太の影響の話をしているんです。そういった意味においても、この人がいまに続く「サラリーマンもの」の元祖といっていいでしょう。

――源氏鶏太は、今となってはまったく顧みられることのない作家だと思うのですが、どういう人だったんでしょう?

 真実氏■1912年生まれで、1951年に『英語屋さん』で直木賞をとっている、戦後に大変な人気を博した流行作家です。今の住友不動産の前身である会社に勤めるサラリーマンをしながら小説を書き始めていますね。彼の『ホープさん』と『三等重役』という作品が映画化されてヒットして、これが「社長」シリーズにつながっていきます。彼の書くサラリーマン小説っていうのは、仕事の場面がほとんど描かれないんです。派閥争いとか社内恋愛とかが中心ですね。のちの城山三郎の企業小説などとはまったく違う世界がそこにはあります。ただ、今回の本では、テーマを“サラリーマン漫画”に絞ったので、小説や映画は最低限しか触れてないんですよね。そのあたりを本当に掘り起こそうと思うと、大変な作業になるでしょう。

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