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  • 【大住力氏インタビュー】ディズニーランドと難病の子どもたちのおかげで自分の「役割」が見えてきた

  • 2013/01/22 掲載

【大住力氏インタビュー】ディズニーランドと難病の子どもたちのおかげで自分の「役割」が見えてきた

『一生の仕事が見つかるディズニーの教え』著者 大住力氏

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『一生の仕事が見つかるディズニーの教え』(日経BP社)は、オリエンタルランドに20年間勤めた著者・大住力氏が、40代半ばにして同社を退社し、難病の子どもとその家族を東京ディズニーランドに招待する団体を立ち上げるまでの道程、および現在の活動を記した本だ。自分の「役割」とは何か──それを探し求めるうちにこの事業へ行き着いたという大住氏に話を聞いた。

ボランティアとお金の問題

──大住さんは、東京ディズニーランドを運営する株式会社オリエンタルランドに約20年間勤めたのち、難病と闘う子どもとその家族をディズニーランドに招待するための団体「難病の子どもとその家族へ夢を」を設立されました。まずはそのきっかけからお聞かせ願いますか?

 大住力氏(以下:大住氏)■厚生労働省の発表によれば、日本には難病と闘う子どもが20万人います。僕は14年ほど前に、たまたまその子たちからとったアンケートの結果を見る機会がありました。それで、「病気が治ったら何がしたい?」という設問への回答の第1位は「ディズニーランドに行ってミッキーマウスに会いたい」で、これが全体の48.6%を占めていたんです。

 僕も昔入院していたことがあって、そのとき小児病棟に足を運んだこともありました。そこで、ブランケットにプーさんがあしらわれていたり、歯ブラシをさしてあるマグカップがミニーちゃんの柄だったりするのを見ていましたので、この結果はなるほどと思いましたね。

photo

『一生の仕事が見つかるディズニーの教え』

──当時ディズニーランドで働いていた身としては、興味を持たないわけにはいきませんね。

 大住氏■その後も、アメリカのフロリダにある「ギブ・キッズ・ザ・ワールド」(2000人のボランティアによって運営される滞在型施設。難病を患う子どもが、主に誕生日の前後に世界中から家族全員で招待され、ディズニーワールドやユニバーサルスタジオに行ったり合同誕生パーティに参加したりして1週間を過ごす)の存在を知るなど、いくつか転機となるような出来事はあったのですが、結局はその48.6%という数字を放っておけなくなったんですね。誰かがやらなきゃいけないだろうと。40代になってようやく自分の「役割」に気づきまして、2008年にオリエンタルランドを退社しました。家族からは猛反対されましたけど。

──実際、『一生の仕事が見つかるディズニーの教え』を読むと、会社を辞められてから資金面でかなり苦労されていたことがわかります。考えてみれば当然ですけど、慈善的な活動をするにもお金がないと始まらないわけですね。

 大住氏■本当にお金がなくて、最初の2~3か月はずっと銀行回りをしていましたよ。そのときに企画書や収支計画書を出してプレゼンするんですけど、行く先々で融資を断られまして。それまでは「オリエンタルランドの大住です」って言うと、どこでも「オリエンタルランドさんですか!」って、非常に好意的な対応をしてもらえていたのに(笑)。

──天下のディズニーですもんね。

 大住氏■でも、そのとき見られていたのは会社名だけで、「大住力」ではないわけですね。それは当たり前のことなんですけど、当時の僕はそれすら気づいていなかったから、「オレは何のために会社辞めたのか?」って悩みました。幸運にも、1人の熱意ある銀行員の力添えもあって、2010年に「難病の子どもとその家族に夢を」を設立できましたが。

──お金にまつわる話でいえば、大住さんは団体の活動を「ビジネス」としても捉えていますよね。そこがこの本を読んで面白いと思ったことの1つでした。

 大住氏■やっぱり何が一番大事なのかっていうと、立ち上げることより、続けることだと思ったのです。僕はあと何十年かしたら死にますけど、この団体は死なせちゃいけない。現在、日本には子どもを支援する団体が200くらいはあるのですが、そのほとんどが寄付金と助成金でやりくりしています。これはいわば片輪走行みたいなもので、長続きさせるのは難しいと思うんですよ。それを痛感したのが、2011年3月11日の東日本大震災です。あのとき、僕らの団体には20社くらいスポンサー企業がついていたのですが、みなさん一斉に東北の支援へ回られました。もちろん、あれだけの災害があればそういう流れになるのは当然ですし、不満があるわけでもないですが、一方で僕らの足もとの弱さも感じるわけです。

──寄付金だけに頼っていたら、寄付がストップした時点で活動も立ち行かなくなってしまう、と。

 大住氏■だから僕は最初から、寄付金というタイヤと、ビジネスというタイヤの両輪を回していくことで、この活動を長いスパンで発展させていこうと考えていました。では、僕にはどんなビジネスができるのか。頭をしぼった結果、僕は長年ディズニーランドで人材育成に携わってきた経験があったので、その実績を社会に買ってもらえないかと思ったわけです。

──具体的には、難病の子どもとその家族をアテンドするボランティア活動を、企業研修のプログラムと位置づけ、その企業から支払われる研修費を活動資金に充てるというかたちですよね。

 大住氏■そうです。ただ、最初は、子どもたちが「ミッキーマウスに会いたい」と言っているわけですから、僕もミッキーに会わせてあげることしか頭になかった。つまり企業に対して研修プログラムを説明するときも、ディズニーランド一辺倒だったんですよ。そうすると、企業にしてみれば「いや、それはあなたがオリエンタルランド出身だからでしょ?」って(笑)。

──「ただの営業じゃないか」と。

 大住氏■正直、そう思われたときは辛かったですね。でも、単純にミッキーに会わせれば、子どもたちや家族の笑顔が最高に輝くかというと、そうではなかったんですよ。彼らが本当に求めているものは何か、よくよく様子を見たり話を聞いてみると、名前を呼ばれて、みんなでお喋りして、一緒にご飯を食べるとか、そういうことだったんです。要するに、社会の一員として当たり前の生活をしたかったわけですね。

 それまでずっと病院や自宅のベッドで過ごしてきた子どもにとっては、社会に飛び出して、社会の人と普通に接すること、それ自体が幸福であり楽しいことなんだと気づいてから、この活動の方向性も定まっていきました。いま僕らが提供しているのは、簡単にいえば「ウィッシュバケーション」という名の2泊3日の旅行で、そのうち1日をディズニーランドなどのテーマパークで過ごしてもらっています。でも、旅行はあくまで難病の子どもとその家族が社会の人たちと触れ合うきっかけであって、大事なのはその先ですよ。

──ご家族も含めて、社会の中では特別扱いを受けてきたというか、特別視されることが多かったわけですからね。

 大住氏■だから、僕らはウィッシュバケーションの期間中、あえてフルサービスをしません。同行する側が「御用はありませんか? カバンお持ちしましょうか? 何でもしますからね!」みたいに応対していたら、それは上と下の関係になってしまいます。僕らは常に「自分でできることは自分でやってください。できないことは言ってください」というスタンスで接しています。みんな対等の関係でいきましょうと。

──その姿勢は、本の中でも複数使われている写真に表れていますね。

 大住氏■はい。ボランティアが、難病の子どもの車いすを押しているような写真じゃないんですよね。隣で手をつないで「一緒に行こうぜ!」っていう関係です。

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