『文化系トークラジオLife』プロデューサー 長谷川裕氏
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津田大介、速水健朗、古市憲寿、水無田気流などなど、テレビ、ラジオ、雑誌をはじめ、各メディアにおいて「若手論壇ブーム」と呼ばれる現象が起きている。新たな言論シーンを生み出す彼ら「若手論客」を続々と輩出している番組があることをご存知だろうか? それが、TBSラジオ『文化系トークラジオLife』。社会学者・鈴木謙介氏がメインパーソナリティを務め、毎月最終日曜の午前1時から4時までという深夜の3時間、多士済々の顔ぶれが1つのテーマについてトークを繰り広げ、リスナーをも巻き込んで熱い議論が展開されている。その番組からこのほど、2冊目の書籍『文化系トークラジオLifeのやり方』が刊行された。なぜ、数々の論客がここから登場するのか? この番組が注目を集める理由は何か? 同番組のプロデューサーでもある、「黒幕」こと長谷川裕氏に話を聞いた。
──2007年に発行された『文化系トークラジオLife』(本の雑誌社)に続く、番組2冊目となる本が今回刊行されました。このタイミングで出た理由があれば教えてください。
『文化系トークラジオ Life のやり方』
長谷川裕氏(以下、長谷川氏)■タイミングに大きな理由はなかったんですが、今、津田大介さんをはじめ、『文化系トークラジオLife』(以下、『Life』)の出演者がブレイクしている感覚がありますので、その意味ではいいタイミングで出せた気はします。それと、本は常に出したいという気持ちもあるんですよ。ラジオというのはやっぱり「フロー」。もちろん、そこがラジオの面白いところなのですが、一方で形として残るものがあると愛着も湧くし、単純に嬉しいですよね。
──「番組の作り方」から始まり、これまでの出演者が一覧できる「Life名鑑」、そしてパーソナリティ鈴木謙介氏が語る「Lifeの思想」は読み応えがありました。
長谷川氏■『Life』という番組はとても説明が難しい存在なんですね。毎回テーマも異なる上に、1回の放送の中でもさまざまな側面がある。他のメディアなどで紹介される場合、「気鋭の学者が多数出演」という具合にアカデミックな捉え方をされることも多いのですが、一方で深夜のバラエティ番組と似たような感覚で面白がって聴いているリスナーも多いと思います。だから、「こんな番組ですよ」と名刺代わりになるものができた、という意味合いもありますね。
──先ほど津田さんの名前が出ましたが、サブパーソナリティの速水健朗さんやメディアの中でもいち早くゲストに迎えた古市憲寿さんなどが他の番組でも活躍し、「若手論壇ブーム」と呼ばれる現象が起きています。番組が牽引してきた、という感覚はありますか?
長谷川氏■うーん……1つには、結果的にそうなった、という側面が大きい気がします。例えば、私が担当していた『森本毅郎・スタンバイ!』という番組にしても、テレビなどでは知られていない雑誌の編集長などをコメンテーターとして招いて、その人が後にテレビのコメンテーターになるというようなことはよくあります。
昔からラジオというメディアにはそういう役割があったわけで、その「若手版」をやろうとは思っていました。特に今、メディアのさまざまな部分が高齢化し、新しい人が求められている状況にあったと思うので、その流れの中でうまく通過点になった部分はあると思います。
──他のメディアにしてみたら、「TBSラジオに出ている人だ」ということで起用しやすい側面もあるかもしれませんね。
長谷川氏■そうかもしれませんね。もう1つは、「席をつくろう」という意識がありました。僕はいわゆる「ロスジェネ世代」(バブル崩壊後の就職氷河期に新規卒業者となった世代を指す)で、この世代は就職など多くの局面で狭き門にぶつかり、苦労を味わっています。振り返ってみれば、学生時代の仲間で自分より凄いと思える人は何人もいましたけど、なかなか活躍の場がないケースも多いです。そういった人たちが活躍できる場がきちんとあってほしいと思うんですよね。だから、個人的なミッションとしては、まだ世に出ていないけれども優れた人たちのための席をつくりたいというものがあったんです。僕の中には、席を「奪う」という発想がなくて、席は「つくる」という発想。だから、席をつくって、新しい人に座ってもらいたかったんですよね。
──そういった「世間的に知られていない人」を起用することにリスクは感じませんでしたか?
長谷川氏■幸いにもリスクが取りやすかった、と言うと変ですが、もともと土曜8時に放送していた番組が、ある種打ち切りのような形で月1回・日曜深夜の放送休止枠に移動して今の『Life』の形がある。そんな枠だからこそ冒険しやすいんです。上司もさすがにこの時間は聴いていないだろうという気持ちがありますから(笑)、思い切って起用することができるわけです。最初は当然慣れていないのでうまく喋れない人でも、出演しているうちにだんだん喋れるようになってくるんですね。失敗することによってみんな成長するので、失敗する機会を提供することができた、というのがこの番組の大きな意義だと自負しています。