『教養としてのゲーム史』著者 多根清史氏インタビュー
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話題作『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)は、往年の名作ゲームを通じて幾つもの発想やアイデアなどを捉え、その変化や進化を追ったものだ。誰もが知るゲームの数々がもたらしたものの多さに読者は驚かされるだろう。ゲームライターとして活躍中の著者・多根清史さんに、本書の狙いなどについてお話を伺った。
ソーシャルゲームなどに今も受け継がれる流れ
――『教養としてのゲーム史』は、アクション、RPG(ロールプレイングゲーム)、SLG(シミュレーションゲーム)など、幅広い分野のなつかしのゲームが論じられています。そこから「ゲームの文脈における発想の進化」を浮き彫りにしようというのが本書の狙いだと思うのですが、取り上げるゲームはどのように選ばれたのか改めてお教えいただけますか。
多根清史氏(以下、多根氏)■発想に進化を促す上で役割を果たすためには、やはり「メジャーであること」が第一条件ですね。どれほどよくできたゲームであれ、市場にあまり流通せず、人に知られることがなければ、大勢に影響をあたえることができませんから。
この本の出発点がテニスゲームの『ポン』であるのも、その当時「最も売れていたゲーム」で「最も真似されたゲーム」だからです。ブロックくずしの『ブレイクアウト』も発想を本歌取りした作品が多かったですし、『スペースインベーダー』もしかりです。人は売れたものを真似たがり、改良したがる。これは絶対の真理でしょう(笑)。
『教養としてのゲーム史』
その上で、基礎─応用─ジャンルの定着という流れを作った一連の作品群もあります。車がチェックポイントをすべて踏破する『ヘッドオン』と、画面中のドットをすべて食べる『パックマン』は、直接のつながりはなくても、固定画面上での表現力の進化の流れを象徴するものです。同じ任天堂作品の『ドンキーコング』や『マリオブラザーズ』、『スーパーマリオブラザーズ』の3本には、より確かなアスレチック・アクションの進化がうかがえますね。
さらにジャンルをまたがった進化もある。たとえば『スクランブル』と『ゼビウス』は画面が流れていく技術(スクロール)を基礎としたSTG(シューティング)というジャンルを確立した。その一方で、スクロールは広大なマップ上を「旅する」という発想を産み、やがて日本にコンピュータRPGを根付かせた『ドラゴンクエスト』の誕生にもつながっている。そうした「ジャンルを作った系譜」と「ジャンルをまたがる系譜」、2つのマクロな流れが浮かび上がるよう選んだつもりです。
最終章のSLG(シミュレーション)については、それまでの「ソフトとハードの積み上げ」とは視点を変えて、「欲望」という軸を設定してみました。『信長の野望』と『ときめきメモリアル』にはシステム上の連続性はそう無いけれど、「欲望を叶えるツールとしてのゲーム」という文脈では一本の道の上にある。その道の果てに『ラブプラス』があるという、「ヒゲから恋人」への軌跡を描くために必要なタイトルを考え抜いています。
――改めて昔なつかしいゲームを体験しながら書いたのではないかと思われます。実際にそれら古いゲームをやってみての感慨などはありましたか。
多根氏■敵を避けるとうれしい、踏んづけて倒すと「よっしゃあ!」と思わず声が出てしまう。そういう原初的な喜びを思い出しました。だって手元が狂うと即死するんですから(笑)。非常に荒削りではありますが、砲台が弾を撃ったり、ジャンプで飛び越えたり、ワンアクションごとにお客さんだけじゃなく開発者も感動しつつ作っていたんだろうなあと。単純なだけに、誤魔化しの利かないスゴ味を感じましたね。
それに久しぶりにプレイしてみると、当時の自分がフラッシュバックしてくることもある。『ときめきメモリアル』とか時間がかかるSLGは、あの頃は時間がたっぷりあったんだなあ、他に娯楽がなかったんだなあって(笑)。その面白さの欠片は消滅したわけではなく、ソーシャルゲームだったり他のエンタメに分散して受け継がれている。結果的にそれらのゲームは自らのライバルとなるソーシャルゲームを育てたんだな、と思うところはありました。
――残念ながら取り上げられなかったゲームとしては、どういったものがあるでしょうか?
多根氏■正直、個人的に思い入れのあるセガのゲームをばっさりカットしたのは身を切られるようで辛かったですね。「ファンタシースター」シリーズも『スペースハリアー』も大好きだけど、ゲーム全体の進化にはあまり影響してないよね、ごめんなさい!って。
もともとが業務用のリッチなゲーム作りに慣れていて、技術がずば抜けていたために、他社が真似しようと思ってもできなかったんでしょうね。ある程度は敷居を下げてあげないと、フォロワーも付いて来られず、真似したゲーム群のコロニーも作られない。セガよ、君らトバしすぎだ!って。まぁそこに惚れたんですが(笑)。