- 2008/05/01 掲載
教育言説の迷走を斬る-ケータイフィルタリングやモンスターペアレント、そして教育再生会議まで
――『凶暴両親』ではモンスターペアレント問題を扱っていますが、モンスターペアレントに関心を持ったきっかけは何ですか?
成松氏■ぶっちゃけてしまえば「祭り好きの出入り好き」というか、火事場の野次馬みたいなもんです(笑)。一昨年ごろからワイドショーや週刊誌が「キレた親が学校で大暴れしている」とか「モンスターペアレントの攻撃で学校がダメになる」なんて言い出した。もし、本当に学校が保護者のせいで大炎上しているなら、言い方は悪いけど、ちょっと面白そうだし、注目してみようかな、と。
――本の内容は、学校や教育行政を批判したり、反対に保護者を叩いたりするものではないですよね? メディアの報道に疑問を投げかけるものになっています。
成松氏■火事場に行ってみたら、どうも様子が違ったんです。当初、メディアは、モンスターペアレントに右往左往させられ、炎上している学校を冷静に俯瞰して、冷や水をぶっかけているもんだと思っていました。ところが、各媒体の報道を追いかけてみると、その多くは消防隊なんかじゃなかった。あれ、放火魔ですよ(笑)。
最近は少し変わってきましたが、僕が取材を始めた半年前あたりまでのモンスターペアレント報道というと、さっきも話した「モンスターペアレントがヤバい!」「教育崩壊だ!」なんてノリのものが多かった。確かにモンスターペアレントなる人たちに先生は頭を悩ませているんだろうけど、じゃあ、そのモンスターペアレントとどう付き合っていけばいいのか、その状況をどう打開するか、という見解はほとんど書かれていなかった。
『凶暴両親』 |
成松氏■確かに一朝一夕に解決できる問題じゃありません。ただ「だったら煽んなよ」って話なんですよ。「ヤバいよ、ヤバいよ」って喧伝すればするほど、読者や視聴者の中では、モンスターペアレントに対する恐怖心ばかりが大きくなって、ことの本質を見誤りますから。
――「モンスターペアレントという火種が大きくしている」という意味で放火魔だ、と。
成松氏■そうです、そうです。恐怖心を煽るだけの言説は、消化液なんかじゃなくて、薪であり、酸素なんですよ。与えれば余計に燃えるし、類焼も生む。それなら、火消しとまではいかないまでも、火災現場の実況見分というか、モンスターペアレントの実態を見に行くくらいのことはできるんじゃないか、と。それでなくても、メディアでライターなんて商売をやってるんですから。これが執筆のきっかけのひとつですね。
――それだけメディアで煽るような言説がまかり通っているわけですね。
成松氏■そうですね。モンスターペアレントが言ったとされている、どこまで本当かわからないような暴言や迷言を束ねてあげつらうだけのものとか、ひどい言説は多いですよ。ページ中央に大きく「高い授業料を払ってるんだから、親も接待しろ」というモンスターペアレントの言葉が大きく書いてあって、その脇で「議員のように事務所費で落とすか」と著者が小さくツッコんでいる新書とか。笑えない上に、有効な対応策などひとつも提供していない。ただ、無根拠に危機意識を煽っているだけなんですよね。
そもそも取材した先生や教育関係者に言わせると「モンスターペアレント」って言葉自体NGワードらしいんですよ。ここまで、さんざん使っておいてなんですけど(笑)。保護者=怪物なんて、ちょっとした人権侵害だろう、と。だから、僕たちは「モンスターペアレント」と銘打っている報道を見る時は、その言葉をどういう意図で使っているのか、見極めなきゃいけないんでしょうね。
――ただ、モンスターペアレントは実際にいるんですよね?
成松氏■残念ながら、そう言われてもしかたのない保護者はいるようです。でも、暴れる側にだって、それなりの理由がある。だから、教育関係者は「安易にモンスターって呼んで怯えるな」と言っている。この「それなりの理由探し」が、さっき話した「実況見分」であり、この本の主題のひとつなんですよ。理由も探らずレッテル貼っても仕方ないですしね。
――ちょっと話はそれますが、モンスターペアレントのように外に向かう保護者がいる一方で、児童虐待や放置など、家庭内で起きる事件も絶えません。これらの問題については、どのようにお考えですか?
成松氏■それによって子どもが傷つけられることには義憤すら覚えますが、具体的な解決法は、正直わかりかねます。保護者によって抱える事情が違いすぎますから。
ワガママな理由で虐待・放置する保護者は批判されるべきでしょう。ただ「アンガー・マネジメント」、要は、怒りの感情のコントロールができない人も増えているといいます。普段は温厚なのに、一度キレると手が付けられなくなるタイプです。これを解決するのは、精神医療の仕事ですよね。それに怒りの対象によっても、対処法は変わるはずです。子どもの言動に腹を立てているのか、それとも子どもの存在自体が疎ましいのか。言動を矯正するのなら「しつけ」と言えなくもない。でも、存在が嫌いな場合は、人間関係の問題です。いくら血をわけた子どもでも、絶対に愛せるわけじゃないですから。こうなると、僕みたいなド素人には、もうどうしていいのやら……。ただ、ひとつ言えるのは、子どもを虐待・放置すると、損をするのは保護者です。
――損をする?
成松氏■家庭で抑圧されている子どもは「内弁慶」ならぬ「外弁慶」になるらしいんですよ。ベタな学園ドラマによくあるじゃないですか。どうしようもない不良が、実は家庭で虐待されていた、放置されていたとかって。あれは、家で溜めたストレスを学校や街で発散しちゃってるんです。
そんな調子の子どもが、もしも他人様の物に手を付けたり、傷つけたりすれば、その子の手が後ろに回るだけじゃなくて、保護者だって「親はどんな育て方をしてたんだ」って叩かれますよね。虐待・放置なんかしていようものなら、申し開きの余地もない。嫌いな子どものせいでバッシングされるリスクを回避するなら、イヤかもしれないけれど、子どもは家庭でノビノビ過ごさせたほうがいい。中長期的に見れば、そっちのほうがおトクです(笑)。
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