- 2008/05/01 掲載
教育言説の迷走を斬る-ケータイフィルタリングやモンスターペアレント、そして教育再生会議まで(2/2)
――モンスターペアレント問題について、行政はどのように対応しているのでしょう?
成松氏■大阪大学大学院の小野田正利教授が、文科省の科学研究補助金を受けて発足した研究会は「学校保護者関係研究会」。“モンスターペアレント対策”や“苦情処理”なんて名前ではない。保護者だけでなく学校側の抱える問題も洗い出しつつ、良好な関係作りを目指しています。港区や京都市の教育委員会は、弁護士や警察OBに協力を仰いでいますが、これも金銭が絡んだり、恐喝されたりと、先生にはおよそ解決できない問題が起きた時に相談できる窓口を確保しておくというものです。報道されているような「学校に寄せられる苦情を警察や弁護士が処理する」なんてものじゃありません。
「保護者を悪と断じるのではなく、対話から解決の糸口を見出すべき。いよいよ解決できない時だけ、しかるべき機関に相談」という行政サイドの姿勢は、評価してもいいんじゃないでしょうか。保護者対応に追われる先生をフォローしつつ、この考え方をどうやって浸透させるか。これが次の課題でしょうね。
成松哲氏 |
――教育行政というと、安倍内閣も教育再生会議を立ち上げたりと、熱心な姿勢を見せていました。あれらの取り組みについては、どのように評価していますか?
成松氏■評価のしようがないんですよ。内閣の念願だった小学校での外国語の必修化は、3月告示の小学校学習指導要領に盛り込まれたばかり。成果が出るとしたら、これからなんじゃないですか。
ただ、当時の安倍総理を見ていると、言っていることに対する賛否は別として、かわいそうでしかたがなかった(笑)。「小学校でも外国語を必修に」とブチ上げた瞬間、それを実行する部下であるはずの伊吹文科大臣(当時)に「まだ美しい日本語も話せない子どもに、英語を教える必要などナシ」なんてバッサリぶった斬られちゃうし。道徳の教科化の議論もありましたけど、いまだに結論はどっちつかず。再生会議にしたって「親学」の提言にケチがついて以来、ほとんど黙殺されてますよね。みんなもう忘れているかもしれませんけど、アレ、福田内閣になってからも、ちゃんと活動してるんですよ。国会議員になっちゃったヤンキー先生の代わりにオール1先生を入れたりして。支持率の急落とともに、せっかくの議論もうやむやにされちゃった感じは否めませんよね。
――成松さんはもともとITライターですよね。最近の子どものケータイへのフィルタリングについての議論はどう見ますか?
成松氏■僕の小学校来の友人で、元上司でもある津田大介君が書いたITMediaの記事に、400ものはてなブックマークが集まっているのを見るに「あっ、お祭り好きはオレだけじゃないんだ」と安心しています(笑)。
冗談はさておき、記事中でも指摘されているとおり、現在のフィルタリング法案には穴があります。あれで手に入るのは「安心」であって「安全」ではありません。フィルタリングすれば、保護者は「子どもがヤバいサイトを見ずに済む」と「安心する」ことはできます。でも、それは、保護者が勝手に安心しているだけで、子どもがネットのトラブルに絶対に巻き込まれない「安全」な場所に置かれたわけじゃない。第三者にいつ不安に陥れられるかもしれません。フィルタリングの場合、その第三者は子どもかもしれない。僕が今の中学生なら、エロサイトを見たい一心で、フィルタリングなんて絶対に突破してやりますよ(笑)。
――では、どうすればいい?
成松氏■個人的には「学校の学区が拡がり、アルバイトを始めたりして生活圏と交友関係が広がる上に、小中学生よりは分別が付くだろう高校生になるまで、ケータイなんて持たせなくてよろしい」「高校の入学祝いにでも買ってやれ」とも思います。ただ、子どもにしてみれば、クラスのみんなが持っている物を自分だけ持っていないのは、ちょっとイヤですよね。僕らも「みんなファミコン持ってるんだから、ウチも買ってよ」って親にねだったじゃないですか。
なら、折衷案を探ればいい。たとえば、子ども専用のケータイを買い与えるのではなく、家族共用のケータイを1台買って、それを使わせてみてはどうでしょう。すでに子どもにケータイを持たせているなら「通話料を払わないぞ」と共用に格下げさせてしまえばいい。そして「持ち歩いていいのは、学校や塾、習い事の行き帰りだけ」「その時以外の通話やメール、コンテンツの閲覧、充電は、家族の見ているリビングですること」なんてルールを作れば、端末自体の機能と保護者の目という二重のフィルタリングがかかることになります。今の法案に100%頼るよりは「安全」な状態に近づけるはずです。まぁ、それ以外のやり方でもいいんですけど、一律な方法ではなく、それぞれの家庭のローカルルールを作る方が、お上に頼るよりはいいんじゃないでしょうか。
――さて、処女作が無事完成しました。次はなにをしましょう?
成松氏■今、一番興味があるのは、言うなれば「イマドキの子どもはバカになのか?」。
ゆとり教育による子どもの学力低下が叫ばれていますが、本当に今の子どもの学力って低下してるんですかね?よくOECDの「学習到達度調査」(PISA)の成績が、その証拠として挙げられますが、PISAが初めて実施されたのは、ゆとり教育導入後の2001年。得点は年々落ちているから「ゆとり教育世代の学力が徐々に低下している」とは言えるかもしれない。でも「ゆとり教育世代がそれ以前の教育を受けた世代よりも学力が低い」とは言えません。再生会議は、今年1月の合同分科会で「PISAでの順位が落ちているから『教育のグローバル化』が必要だ」と提言していますが、OECDの要求する学力が、本当に日本の子どもに必要なのか、僕にはわかりかねます。もしかしたら、再生会議の言うとおり、教育や学力の質や意味が変わっているのかもしれない。
――ただ、PISAの結果から学力低下が証明できないなら、向上しているかどうかも、わからないですよね?
成松氏■そこが悩みの種なんだよなぁ(笑)。どうやったらゆとり以前/以後の学力を比較できるんでしょうね? 正直な話、結果はどっちに転んでもいいんですよ。子どもの学力低下が待ったなしの状態になっているなら、教育の国際競争力が本当に必要なら、解決策を探ればいい。逆に、実は、当時より学力が向上しているなら、それはそれでもちろんOK。いずれにせよ、火事場の野次馬としては、その様子を実況見分してみたいんですよね。
(取材・構成=松山友子)
●成松哲(なりまつ・てつ)
1974年生まれ。『日本経済新聞』『週刊SPA!』『日経エンタテインメント!』などで教育問題や若者文化から、インターネット、オタクカルチャーまで多岐に渡る分野で執筆活動を展開する。
また、江頭2:50の映画評論本『江頭2:50のエィガ批評宣言』(扶桑社)の企画・構成や、アニメ作家・蛙男商会のアニメ作品のコミカライズなども手がける。ブログ:三十路でアニメ
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