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  • 2010/06/18 掲載

【守屋 淳氏インタビュー】いま、クラウゼヴィッツの『戦争論』から何を学び取るべきか

『超要点解説とキーワードでわかる・使えるクラウゼヴィッツの戦略』著者 守屋 淳氏インタビュー

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中国古典に精通する守屋淳氏が、クラウゼヴィッツの『戦争論』のエッセンスを抽出した『超要点解説とキーワードでわかる・使えるクラウゼヴィッツの戦略』(ソフトバンク クリエイティブ)を上梓された。現代のビジネスなどにおいても活用できるヒントが『戦争論』にはどれほど含まれているのか――早速お話を伺った。

『戦争論』の特性を考える

――守屋さんは中国古典の分野を中心にご活躍なさっており、『孫子』に関する本も出されておりますが、クラウゼヴィッツの『戦争論』についてはどのようにご覧になっていたのでしょうか? また中国の兵法書と大きく異なる点などはありますか。

 守屋 淳氏(以下、守屋氏)■『戦争論』と中国の兵法書に限らず、古今の戦略書や兵法書には、似ている点と、異なっている点があります。まず似ている点は、「競争状況のなかでいかに勝ち、いかに負けないか」を探究する、という意味ではいずれも大きな違いはないですから、そこでのノウハウは共通する点が出てきます。

 一方で、大きく異なっている点もあります。その端的な例が、状況認識が違う場合。たとえば『戦争論』は基本的に一対一の「決闘」をひな型に考えました。よくハリウッド映画のサスペンスものに出てきますが、自分が虫の息になっても、仇役を倒せばハッピーエンドが待っているわけです。ところが『孫子』はライバルが多数いる「バトル・ロイヤル」。そんな戦い方をしていたら、前半戦で「ハイ。消えた」にならざるを得ません。当然、振舞い方はまったく違ってくるわけです。

 この意味で『戦争論』と『孫子』は、戦いに関する、一方の極点を示していると考えています。この意味では両者はぜひ読まれるべきものだと考えています。

――この本では『戦争論』の中からキーとなるような言葉の数々を選んで論じられていますが、どのような基準でそれらをピックアップしたのですか。

 守屋氏■ポイントは2つあります。1つは、戦争や争いごとの本質をついた言葉。たとえば、「戦争はほかの手段をもって継続する政治の手段にすぎない」「戦争は明らかに自身の文法を有するが、戦争は自身の理論を持ってはいない」といった名言は、その思想的立場に賛否両論はあるにせよ、今後、参照し続けられる内容を持っています。

 もう1つは、クラウゼヴィッツ自身が抱いていた問題意識として、「理論はいかにして現実に当てはめられるのか」というものがあります。これは優れて現代的な意義を持っている観点で、たとえば日本でも、「欧米で流行っていた成果主義をそのまま取り入れたら大失敗」「選択と集中したら、見事にコケた」といった例があるわけです。なぜ、こうなってしまうのかを考える上でも、「理論と現実の齟齬」に関わる名言はなるべく入れていくようにしました。

――現代において、クラウゼヴィッツおよび『戦争論』から学び取るべきポイントがありましたらお教えください。とくにビジネスマンにとってはどのようなメリットがあるのかをお伺いできればと思います。

 守屋氏■『戦争論』は、戦いや争いの「原理原則」を、徹底して緻密につめていったところがあります。現代でも個人、組織、会社、国家と、競争はいたるところに存在し、好むと好まざるとに関わらず、われわれはこうした局面での振舞い方を知っておいた方が、生き残りやすくなるわけです。この際『戦争論』の「原理原則」は、知っていれば勝てるとは限りませんが、知らなければ確実に負ける原因になる面があります。

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『超要点解説とキーワードでわかる・使えるクラウゼヴィッツの戦略』

 また、前の質問の観点から言いますと、「一見、単純に見える戦略も現実にうまく適用できれば、大きな成果が上げられる」というケースが古今東西で散見されるのです。本書の中でも触れていますが、キヤノン電子の酒巻 久社長の成功事例は、まさしくこの典型です。いわば対極の立場から戦略を探究した『孫子』とともに、競争社会における必読書といってよいと思います。

――守屋さん個人はクラウゼヴィッツという人物をどのようにご覧になっていますか? 伝記などを見る限りでは軍人として勤勉に働く一方で、良き家庭人だったようですが。

 守屋氏■私の友人で「自分は、クラウヴィッツを目指しているんですよ」という人がいます。理由を聞きますと、クラウゼヴィッツは、自分でまずさまざまな体験を積み、それを踏まえて抽象化した理論を構築していった。これは、自分のようなサラリーマンでもできることではないか、と思ったというのです。これはとても的を得た指摘だと思います。何度も触れた「理論と現実の齟齬」という問題とも絡んできますが、彼は、いわば叩き上げからの理論を構築した生涯を送った人物。現代に置き換えると、サラリーマンの方が長い現場経験をもとに、すばらしい営業理論やマネジメントの本を書き上げてしまう、といった感じになると思います。

 さらに幸せなことに、彼には素晴らしいマリーという伴侶がいました。ドイツ観念論に目を開かせてくれたのも彼女だ、と言われていますし、未完で終わった『戦争論』を今の形にまとめたのも彼女です。いわばクラウゼヴィッツは抽象思考に秀でた頭の良さと、戦場という過酷な場で力を発揮できるタフさを持ち併せていたわけです。その上に、素晴らしい伴侶がいれば、これは鬼に金棒なんだな、と。

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