- 2007/01/30 掲載
【朝山実氏インタビュー】 イッセー尾形に学ぶ人生のエッセンス
イッセー尾形の人生コーチング
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――「インタビューの達人」として知られる朝山さんにインタビューするのは緊張します(笑)。
朝山氏■(笑)。僕も取材するときはいまだに上がりますよ。手が震えるとかね。「イッセー尾形のつくり方」に出てみようとしたのも、舞台に立つ人というのはどうやって自分を落ち着かせるのかな、という興味があったから。イッセー尾形さんや演出家の森田雄三さんとは10年以上のおつきあいですが、動機は冷やかし半分って感じで……。そうしたら、面白かったんです。
――演劇とは縁もゆかりもない人たちが4日間集まって、最後には観客を入れて本当に舞台に立っちゃうんですものね。参加者はどういう人ですか。
朝山氏■演劇をやっている人もなかにはいましたが、大半がいわゆるしろうとさん、それもイッセー尾形ファンじゃない人のほうが多いんです。地元の会館でやるから行ってみるか、みたいな気持ちで申し込むようですね。看護師、教師、裁判官、フリーター系、中学生、そしてシニアな方々。じつに多様です。ただ、ワークショップでは自己紹介が一切なく、後になってその人の職業がたまたまわかったりするだけなんで(笑)。
――「自己紹介禁止」に始まり「困りなさい」とか「準備をするな」とか、挙げ句の果ては「自分探し」でなく「自分を捨てよ」(笑)。ワークショップとしては結構……ヘンですよね?
朝山氏■たしかに、いきなり「困りなさい」と話を振られても困りますよねえ(笑)。じゃあ、芝居の稽古で、なにをどう、困ればいいのか。
ワークショップの講師を務める森田さんは、人が困るというプロセス自体を重要視します。「準備をするな」と強調するのも、準備してきたものですべて通そうというのがいまのマニュアル社会だからです。そればかりだと人間おかしくなる。前もって用意したことがすべてなんかじゃなく、現場、現場でぶち当たっていくことにこそ発見があると森田さんは伝えたいわけですが、もちろん参加者にすんなり通じるはずもなく、泣いたり、怒ったり、笑ったり。やっぱり相当変わったワークショップですかねぇ(笑)。
――参加者の奮闘ぶりと4日後の舞台出演の模様はぜひ本で詳しく、といいたいのですが、参加者が模索する様子はあちこち出てくるのに、「晴れ舞台」については殆ど言及がないんですよね。
朝山氏■それは、僕にさほど興味がなかったからです(笑)。発表会は全部取材してますけど、僕は結果よりもプロセスのほうを描きたかった。
何人かをピックアップして集中的に追っていく手法も考えましたが、それもやめようと。というのも、人って、求められれば応えちゃうところが必ずあるんですね。誠実な人ほどそうです。僕はインタビューの仕事が長いのでそこはわかる。特定の人を追うと、取材されているとわかっているぶん、山あり谷ありで、だけど最後はなんとか晴れ舞台に立ちました、みたいな応え方をしてくれちゃったりするんです。今回の仕事では本を読んだ人に、お、これってオレのことじゃん、と感じてもらいたかったので、人物描写の無名性をむしろ意識しました。
――「4日間であなたも○○の達人に」といった「達成系」のワークショップとは決定的に違うんですね。ただ、ビジネスマンなどの参加者は、わかりやすい形でのヒントや成果が欲しいのでは?
朝山氏■取材しながらビジネス系のウェブサイトで連載を始めたせいか、ワークショップの2年目からはビジネスマンが増えました。ここへ来れば4日でプレゼンの達人になれるかも、とかいった、よこしまな人がね(笑)。マルチ商法やってる人もいましたよ。カモを求めて何度も通ってくるわけ(笑)。
ただ、そういう人たちもね、最初は背広の意識でふるまうんですが、自己紹介の必要がないこともあって、だんだん意識からスーツが脱げていくんです。
朝山実氏
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うまくやろうとすればするほどうまくいかない自分。でも、それはあくまで自分に映るおのれの姿でしょ。他人からすれば、見るからに売り込みの下手くそなセールスマンがやってきたとしても、その下手さ加減にほだされてじゃあ、買ってやろうかという展開だって実際にはあり得るわけです。ワークショップでは「他人になりきって動いてみる」といったセッションを重視します。自分探しでなく、いってみれば「他人探しのススメ」。逆転の発想ですね。
企業の研修が社員に要求する方向性とはかなり違うんで、初めは面食らっているビジネスマンも、芝居の稽古をするうちに、ややこしい部分がすっと抜けていくみたいですよ。
あと、引きこもりの人が結構参加してましてね。親御さんが連れて来たりするんですが、最初はやはりとまどいが大きいみたいです。
森田さんという人が面白いのは、そこで参加者を一様に扱わないことです。何十人かが輪になって、ひとりずつ発言させるようなときでも、この子応えられないだろうな、と思うと無理にものをいわせようとはしない。指名されたときうまくできないと、だめな自分だと思ってしまうけれども、「じゃ、そのへんで見てたらいいよ」といった対応で出られた場合、人間ってそのうちなにかやりたくなったりするんですね。しかも、芝居の稽古という、ある種の共同連帯性があるから、そのなかで失敗してもさほど恥ずかしくはならない。
引きこもりの人にかぎらず、能力がない、人と交われない、などと自分を否定してきたような人たちも、その場にいることがとりあえず苦痛ではないという境地になっていく。ワークショップに来て友だちがたくさんできたとか、そういうのじゃないんだけど、ある場所にずっと居られるようになる。これって大切なことだと思うんですね。
マルチ商法の人ですか? あ、通ってくるうち「ここではやらんことにした」らしい。客引きをってことです。マルチな商売自体は辞めてないんだけど(笑)。
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