『科学との正しい付き合い方』著者 内田麻理香氏インタビュー
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科学が苦手な根っからの文系人間は多くいるだろう。でも、そういった人たちでも、試しに科学と付き合ってみると、意外な新しい扉が開けるかもしれない――そんな風に思わせてくれる、話題の書『科学との正しい付き合い方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者、内田麻理香氏にお話をうかがった。
文系と理系の間で
――まずこの本を書き始めたきっかけを教えていただけますか?
内田氏■最初は小さな子供を科学好きにする本の依頼をいただいたのがきっかけでした。そのために必要なものはなんだろう? という方向性でずっと考えていたんですが、でも子供を科学好きにさせるなんてことは自分にはできないし、むりだなと思ってしまって。何回も編集者さんに相談して泣きついた結果、それなら子供だけでなくもっと多くの人が読める科学リテラシーの本にしましょうということになったんです。
――文系の人が初めて科学に触れるための入門書でもあり、理系の人が改めて科学を理解するための参考書でもありますよね。
『科学との正しい付き合い方』
内田氏■だから実はこの本って結構ブレているところもあるというか、ねじれてるなと自分では思っていまして。最初の方は理系分野に対してアレルギーがある文系の人に向けて書いたんですが、最後の方になると理系の人に向けてのメッセージになっているんです。科学が一般の人から遠く離れてしまっていることは危惧していることなので、理系の人たちへ向けたメッセージも込めつつ、文系の人にも「お願いです、一緒に科学を見守って下さい」という想いで書きました。
――本の中では「疑う心」という言葉が多く使われていますが、科学を学んでいくうちにそういった科学的思考が日常の生活にも生きると気付いたんですか?
内田氏■そうですね、まず大学の時に恩師から教わった「1を聞いたら0.5を疑え」という言葉があって。そこで見たものをとりあえず疑ってかかる周りの人たちの態度をすごく面白いなと思ったんですよね。もうそれが研究だけのレベルではなくて、普段の生活でも表れているんですよ。普段の生活の中にあるあらゆるものに対して「これどうなの?」って疑うっていう。
だから疑うという言葉はマイナスな意味として捉えられがちですけど、ちょっと裏側から見ると面白く見えるものはたくさんあると思うんですよね。つまらないと思っていても、側面からや多面的に見たりしたら面白いネタが潜んでいることに気付いたのは、疑う姿勢を学んだからですね。
――この本を書いていた時に苦労したことはなにかありますか?
内田氏■今まで書いた本は「カソウケン」(内田氏が立ち上げた家庭生活を科学する架空の研究所)という舞台や色んな装置の上で書いたものだったので、それをすべてなくして自分の考えを真っ向から書いたことは初めての経験だったんです。それがいちばん辛かったですね。
あと普段は子供が寝静まった夜に書いていたんですが、たまに昼間書くと子供が覗きにきて「早く書けるようになればいいじゃーん」とか言われちゃったり。「そんなもっともなこと言わないでよ!」って言い返したくなりました(笑)。
――反響はどういったものが多いですか?
内田氏■私はこう思うとか自分の想い出話とか、そういえばこんなこともあったとか、ご自身の考えを話して下さる方が多いんですよね。科学についていろいろなことを考えるきっかけになっている本のようで、それは今までに書いたものとは違う反響なのですごく嬉しいです。あとは「科学がマニアだけのものになっている」と書いた部分などに対して、音楽やデザインやIT業界の方から「私の業界も同じなんですよ!」と言っていただいて。そういう風に自分の身の回りの状況に置き換えて読んでいただいているのがわかったのも面白かったです。すごく予想外な反響でしたね。
――内田さんご自身が科学を面白いと思い始めたのはいつ頃だったのでしょうか?
内田氏■最初に面白いと感じたのは幼稚園か小学生くらいだったと思います。ムラサキツユクサから液体を取ってレモンを入れて、そこに重曹を入れると色が変わることとかが面白くて。ただ、それが科学だとは意識せずに、遊びの延長線上にあるものとして楽しんでいましたね。
――では、どのような理由から科学者になろうと思ったんですか?
内田氏■中学生の時にガンダムの『逆襲のシャア』でスペースコロニーを見たのがきっかけで、「あれに人が住んでるって、スゴくない!?」と思って(笑)。それで理系に行こうと決めたんです。それまでは歴史がすごく好きだったので史学の方向に行きたいなと思っていたんですよ。しかも理系科目が苦手だったにも関わらず、ガンダムがきっかけでそういう目標ができてしまって。
――では東大に行かれた時も宇宙に関連した物理学や宇宙工学をやりたいと思っていたんですか?
内田氏■いえ、大学に入った頃はすでに化学を好きになっていて。もうガンダムへの夢は潰えていたというか。実は私はいつも目標がグラグラしていて、大学に入った時点で理系では生きていけないっていうのはわかっていたので。
というのも、大学では周りを見てみると生まれついての科学者がそのまま成長した、みたいな人がいっぱいいるんですよね。それで「私はやっぱり無茶したな」って気付かされたんです。だからといって文系に行っても、昔から文系でバリバリやってる人たちにはかなわないなと思いましたし。その間のところでなにかやれることはないかなっていうのは当時から考えていたので、それが今の活動に繋がっているかもしれませんね。
――この本の中では内田さんの科学への距離感が、科学になじみがない人たちが感じている距離感にすごく近いと感じました。その視点がどこから生まれたのかがすごく気になっていたのですが、内田さん自身も違和感や距離感を覚えていたんですね。
内田氏■大学に行くと本当に超人のような人っているんですよ。数式をパッとみただけでもう答えが頭の中でできあがっているとか。あと身近な人では、例えば「揚げ物をした時に水が跳ねることをどう説明するか?」という話をした時に、その人が水の分子になりきって考えているのがわかるんです。だからそういう人たちはすぐ分子や電子になれちゃう(笑)。そうやって対象に入り込んで考えられる人たちなので、それは敵わないなって。私自身はそういうタイプではなかったので。
――科学を伝えるサイエンスライターとしてどんなことが大変ですか?
内田氏■私の場合は一般の方に向けて活動しているので、書籍や雑誌の編集者さんやテレビのディレクターさんからのダメ出しが多いですね。自分では気を付けているつもりなんですけど、やっぱりマニアックになってしまうことがあるんですよ。雑誌の連載を始める時は半年分くらいのネタを事前に考えるんですが、私が出すアイデアは「それは内田さんにとって面白いかもしれないけど、読者にはわからないよ」って言われちゃったり。そういうやり取りはもう何年も続いていますね。だから私は本当にまだまだだなぁって思っちゃいます。