『科学との正しい付き合い方』著者 内田麻理香氏インタビュー
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事業仕分けを通して科学のあり方を考える
――本書では昨年行われた事業仕分けについてのことにも触れられていますよね。スパコン事業が事実上凍結されたことに対する科学者たちの抗議集会を強い批判的な言葉で表現されていることに驚きました。あの時の世間的なイメージでは「どうして一番じゃなきゃいけないんですか」という蓮舫議員のコメントに対する批判がすごく多かった記憶があるので、内田さんの視点はすごく新鮮なものでした。
内田氏■あの事業仕分けから起こった科学者集会に関する部分は、この本の軸というか、私の立ち位置が決まった事件でもあったんですよね。私が中継で見ながらTwitterのハッシュタグを追っていた限りでは、某ノーベル賞受賞者の方の発言には拍手喝采でTwitterでも賛同の意見が多く、もう最初から賛成する前提で集まっているような、ノーベル賞受賞者が言うのだから間違っているわけがない、といった雰囲気を感じたんですよね。
でもマスコミや政府の批判をする前に自分たちがやらなきゃいけないことはたくさんあるはずだし、自分たちは税金で科学をやらせてもらっている立場なのに、と。それを見て正直、心が折れてしまって。私はもともと科学者側に立って科学をもっと広く伝えていきたいと思っていたんですが、後ろから矢を打たれたような気分になっちゃったんですよね。どうしたらいいの?っていう状態でした。それがきっかけで私は文系の人たち側に立ったコミュニケーターになろうと決意して、それから本の構成も大幅に変えたところもありますね。
――この本の中でも、科学教への狂信で「思考停止」しているといったご指摘をなされていました。内田さんはあの集会を見て、危険な状態だと感じたんですね。
内田氏■そうですね。ただ、事業仕分けに対するあの集会自体は、私も評価している部分はあるんです。それはパフォーマンスとして成功していて、結果スパコン事業も復活したわけですから。でも、今回のような圧力団体みたいなやり方で科学政策を進めていっていいのかな、という疑問はあって、そのような扇動的な働きかけばかりが通る形になってしまったら、結局はそれが科学技術をダメにしてしまうのではないかという気もしますね。
――最近は科学系のテレビ番組がすごく増えたなと思っていたのですが、それは一般の人たちが興味を持ち始めたってことなんでしょうか?
内田氏■最近すごく多いですものね。やっぱり勉強ブーム・クイズブームの後に、科学ブームみたいなものがあるのかなとは思いますね。でも科学って実は白黒付けるものではないっていう部分があまり伝わっていないと思うんですよ。だからそれを知っちゃった人が失望して、わかりやすく答えを提供してくれるニセ科学・疑似科学みたいな領域に行ってしまうことも多くて……。私自身も科学が「絶対」ではないということには大学行くまで全然気付かなくて、とくに研究やってみるまではわからなかったので難しいですよね。
――内田さんのプロフィールにある座右の銘が「できることと、できないことがある」なのも、この本を読んでからなるほどなぁと思いました。
内田氏■実はあれ、元ネタは田中芳樹さんの小説『銀河英雄伝説』の主役、ヤン・ウェンリーの台詞なんですよ。できることとできないことをわきまえて、しかもニュートラルな立場でいて。だからそういう人が科学技術にまで興味の範囲を広げてくれたら最高だよねって思ってるんです。
――では最後に内田さん自身は、これから科学はどうなっていってほしいとお考えですか?
内田氏■科学はこんなに身の回りにあふれているのに、いつの間にかとても遠い存在になっちゃったんですよね。だから本の中でも最後の方に書いたんですが、これを読んで下さった方が家の中とかで気軽に科学に関することを口に出せるようになればいいなと思うんです。
例えばインフルエンザが流行ると急にマスクが品切れになってパニックになったりしますけど、その前に気軽に聞ける人が身近にいればいいなって。それは病理学的にすべてをわかっている必要はなくて、少し理解のある人がそばにいるだけでも全然違うと思うんです。そういう人が会社の部署にひとり、PTAの中に2人3人って増えていって、科学と社会との断絶が少しでも薄まっていけばいいなと思っています。だから文系の人でも温かい目で科学を見守る監視員になってほしい、というのがこの本に込めたメッセージなんです。
(取材・構成:
田島太陽)
●内田麻理香(うちだ・まりか)
サイエンスライター&サイエンスコミュニケーター。
科学と技術の魅力を伝えるために、各種媒体で旺盛な活動を展開中。
著書に『カソウケン(家庭科学総合研究所)へようこそ』(講談社)、『恋する天才科学者』(講談社)など多数。
ブログ:
カソウケンの科学どき技術どき
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